02-17-0035
Side:アッシュ
支部長と共に村へと戻った私は睾丸を売って手を洗い、そして木札を持って協会へ。
支部長も一緒だが、臨時でお金が儲かったからか少し笑顔だ。
協会に居て仕事をしていては外に出られないのだから当然だが。
協会の中に入ると男3人が居て、中を掃除しつつこちらを睨んできた。
朝は居なかったが、未だに掃除などの仕事をさせられているらしい。
私は無視しているし支部長は呆れている。
更には他の受付嬢なども冷たい視線を送っているというのに、お構いなしだ。
きっと彼らの中では全て私が悪いとなっているのだろう。
ああいう恨みの目を向けて来るのは、闘技場の観客にもよく居た。
私にとっては普通の事というか、日常によくいる者でしかない。
下らないなとしか思えない相手だ。
「こちらの紙に控えておくぐらいで、まだ級位を上げる訳にはいきませんね」
「昨日と今日ドーヴァルを狩っただけですし、銅級がそう簡単に上がってもいけないでしょう」
「本当なら山狼も5頭討伐しているのだけれど………
残念ながら初日と違って死体が無いので加算できませんからね」
「仕方ありません。
とにかくドーヴァルと山狼の間で争いが起こらないと困った事になります。
そちらが先である以上は文句もありませんよ」
「しかしドーヴァルにも山狼にも統率者が現れるとは……」
「山狼のほうが数が少ないけれど、山狼のほうが強い。
そこがどう出るかというところでしょうか?
いえ、そもそも争いを起こすのが先です。それが起きなければ話にもなりません」
「「「………」」」
男性3人の雰囲気が変わった、そしてそれを支部長も理解したようだ。
何か良からぬ事を企んでいる気がするが、完全にそう決めつける根拠も無い。
あの男性連中なら五月蠅く言ってくる可能性があるので、今は黙っておいた方が無難か。
それに何かあった際には支部長が何とかするだろう。
流石におせっかいをし過ぎても駄目だし、今度は地方の支部長と癒着とかいう下種の勘繰りをされても困る。
ここは見守る方がいいだろうな。
そう思った私は挨拶すると協会を出て、そのまま宿へと戻る。
まだ食事には早いし、今の内に体を綺麗に洗っておきたい。
そう思い宿の井戸と洗濯用の球体を借りた。
昨日と同じように石鹸で体を洗い、それが終わったら裸のまま洗濯をする。
濯ぎまで終わったら脱水して服を着こみ、少々濡れたまま適当に村の中をうろつく。
すると人間族で髪は赤の老人に声を掛けられた。
「このような所をウロウロして何かあったかね?」
「すみません。
狩りから戻って来て体と服を洗ったので、現在着たまま乾かしているんです。
そのついでに村の中をウロウロしていました。
村に来たものの歩き回った事が無かったもので」
「ああ、そういう事か。………確かに濡れとるのう。
それはそうと、ドーヴァルの巣があったというのは本当かい?」
「それは………」
「構わんよ。昔から危険な事はようあったしな。
攻めて来た時の為に備えておかねばならん、なので情報は早めに欲しいだけじゃ。
混乱したり騒いだりなどせぬよ。子供でもないしのう」
「そうですか。
右の山の奥に行った所にドーヴァルの巣が、左の山の左奥に行った所に山狼の巣がありました。
現在、両者を争わせられないかと色々やっています」
「ほほぅ、モンスター同士を争わせるか。それは良いな。
こちらが傷つかずに敵を減らす良い策であろう。
上手くいけばじゃが……」
「そうなんですよねえ。
両者の死体をそれぞれの巣の近くに置いたり、そこに仲間が殺られたように見せかけて置いたりとしているのですが………
正直に言って、上手くいっているかは分かりません」
「罠などそのようなものじゃよ。
かつて山鹿が罠に掛かっておった頃も、山鹿との化かし合いじゃったからのう。
今の山鹿は罠に掛からんようになってしまったし………もしかして山狼の所為で掛からぬようになったか?」
「どうなのでしょうか?
私も山鹿が多いと聞いていたのですが、そういえば1頭も見ていませんね?」
「なぬ? 山鹿を1頭も見ておらんじゃと?
………ドーヴァルか山狼が食い荒らしたのかもしれんの。
もしや両者の大繁殖は、山鹿が増えた事が原因かもしれぬ。
なぜ増えたかは分かっておらんが」
山鹿が増えた事は間違いなく聞いたんだが、ヴェルイーに来てから一度も山鹿を見ていない。
ドーヴァルと山狼から逃げて、もっと国境近くに行ってしまったのかもしれないな。
モンスターだから魔力で一定の期間は生きていられるし、ならその間に逃げ出すのも分からなくはない。
しかしそうなると争いやすい状況にはなってるのか。
幾ら魔力で生きられるとはいえ、食料の元となるものが減れば喰い合うのが定め。
ただ、問題はこっちに来た場合なんだ。こうなると最悪の展開になってしまう。
なので出来れば潰し合わせたい。
「山狼は血のにおいに敏感じゃ。
それも仲間の血が点々とドーヴァルの方まで続いておったら……戦うような気もするがの」
「血ですか……確かに血のにおいは濃いですし、上手く誘導できるかもしれません。
明日からはそっちの方もやってみたいと思います」
「そうじゃの、それがよかろう。
爺の戯言とはいえ、良き案があれば受け入れる。なかなかに出来た若者じゃの。
全部が全部お主のようならいいのだが……それは高望みのし過ぎか」
「はははは………おっと、夕日が出て来たので私はこれで。
酒場に食事に行きますので」
「そうじゃの。ワシも一度戻って食堂に行くか。
ではの」
「失礼します」
私は老人に頭を下げて挨拶をすると、そのまま酒場へと歩き出す。
若者がお主のようならと言われたが、若者が私と同じは良くないと思うがな。
私は奴隷闘士をしていたからこうなのであって、自然に育ってこうなった訳ではないのだ。
皆が私と同じ経験をしても同じになるか分からぬうえ、多くは契約満了前に死ぬだろう。
そういう意味でも私と同じは駄目であろうな。
っと、下らない事を考えてないで酒場に入るか。
酒場に入った私はいつもと同じ注文をし、お金を払ったらゆっくり待つ。
先に運ばれてきた酒を飲んでいると、今日も男性陣と女性陣に女性達がやってきた。
「おっ、今日もアッシュは早いのう。
今日は支部長とおったらしいが、どうであった?」
「昨日と同じ事をしたくらいだ。
ドーヴァルと山狼を争わせたいのだが、それが上手く行ったかは分からない。
今日お年寄りから血の跡をドーヴァルの巣まで点々と落としたらどうかと言われてな、明日試してみるつもりだ」
「血の跡ねえ………確かに有効かもしれないけど、出来れば村から遠くでやって。
こちらに来ないとは思うけど、誰かが残した血のにおいを辿って村の方に来られても困るし」
「それもそうね。
私達みたいにドーヴァルを狩ってるなら臭いから大丈夫だろうけど、普通にモンスターを狩ってる奴らは誤認されかねないよ」
「そうなったらこっちに来そうだし、面倒な事になるな」
私達は「あーでもない」「こーでもない」と話していたのだが、酒で良い気分になってきたのか、それぞれが酒場の2階に消えて行った。
尚、ガーンドはいつもそれまでに酒で撃沈し、床に寝ている。
なので男性陣と女性陣はガーンドが寝てから向かっているようだ。
若い女性達は酒を飲んでいないので、食事が終わったらさっさと宿に戻っている。
私も話が終わったので、宿へと戻ってゆっくり休もう。
宿の部屋に入り一息吐くと、私は眠る前に自分の魔力を探してみる。
寝るまでに時間も掛かるし、ある程度行ったらベッドに寝転がってから行うか。
そういう軽い感じで練習をする事にしたのは、分かるまではサッパリだからだ。
支部長いわく、「分かれば当たり前になるが、それまでは全く分からないので気長にやりなさい」との事だった。
なので根を詰めても駄目なものなのだと解釈。
いつか出来るだろうという軽い感じに意識を切り替えた。
昔にもそういった事はあったので、経験があるからこそ意識を変える事が出来た。
その経験こそが呼吸と共に力を取り込むって事だったのだがな。
今度はその力そのものを私の中から探す事になるとは……




