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02-16-0034




 Side:アッシュ



 今度は支部長と共に左の山へと移動し、そこに居た山狼を殺害する。

 ここは私の番となったが、支部長が睾丸のにおいを【風魔法】で飛ばしてくれるので楽に戦えている。

 ドーヴァルの睾丸のにおいは、山狼にとって悶絶するほどに厳しいようなのだ。


 「支部長が山狼のほうが楽だと言うはずです、まさかここまで劇的に効くとは思いませんでした。

 とはいえ【風魔法】で誘導しないと無理でしょうけど」


 「ええ。彼らは臭いにおいを嗅ぐと風上に移動しようとしますからね。

 どこに居てもにおいの影響を受けるとなれば、彼らは戦いどころではなくなる。

 なので、この方法は昔から鼻の良いモンスターには有効な戦い方なのです」


 「昔から使われているという事は、それは優秀な方法として確立されているという事ですね。

 実際は役に立たないとなれば、淘汰(とうた)されて消えていくはずですから」


 「そうです。臭いにおいで攻撃するという方法は、古典的であり確立された手法。

 そういった事をしっかりと学んで対処していく。

 そうやって一人前になっていくのですけどね……」


 「僻地から出て来たという彼らですか………

 右も左も分からないのに、とにかく他人を信じないで自分達の力だけでやろうとする。

 それで上手くいくはずなどないのですが……」


 「そうではなくて、貴方の事だったのですがね?

 貴方はなんでも怪力で解決してきたのではありませんか?

 確立された効果的な手法、そこに怪力を足すのならいいのです。

 しかし貴方は怪力任せで解決してきていませんか?

 それでは何(いず)れ止まってしまいますよ」


 「止まる、ですか? もちろん何でも力任せにする気なんてありませんが……」


 「モンスターの中には魔法だけでは、怪力だけでは解決できないモンスターが居ます。

 そういった者には知識を仕入れ、似たモンスターとの戦いを経験とし、その上で絶対に勝てるという算段を立ててから挑むのです。

 それらも無しに挑んでは殺されるだけ。

 信じられないほどの強者というのは、この世に存在するのです。

 それだけは忘れないようにして下さい」


 「分かりました」


 銀3級のハンターがここまで言うんだ。

 上には相当ヤバいモンスターがゴロゴロしてるんだろう。

 それらを平然と倒すのが金級なんだと思うが、ハバン殿でも出来そうな気もするな。

 あの人物も何気に銀8級じゃない強さだと思っている。


 そもそもマスターやサブマスター、それにデュジュ殿と普通に会話をしている時点で変なのだ。

 あの人達とあれだけ親しく会話なんて、普通はそうそう出来ないだろう。

 それが出来て二つ名持ちの時点で、相当の人物だというのが分かる。


 左の山の森の中、山狼を狩っていると妙なモンスターが現れた。

 そいつは木の上に居たのだが、なんだかネバネバしていそうな水? みたいな姿で、ゆっくりと動いている。


 「初めて見ましたか? これはスライムですよ。

 不定形でネバネバしており、非常に厄介なモンスターです。

 なんといってもこのスライム、物理的な攻撃がほぼ効きません。

 何故なら体は粘液で出来ているからです。

 そして強酸性の粘液ですから、武器すら溶かしてしまうのです」


 「………そんなモンスター、どうやって勝てばいいんですか?」


 「このモンスターは魔法で倒すか、それとも道具を使って倒すしかありませんね。

 魔法には弱いので大した相手ではありませんが、道具の場合はたいまつがお薦めです。

 焼いてしまえば粘液も何もありません。

 それに体の中にある核、それが弱点となっています」


 「体の核………あの動いているヤツですかね?」


 「確かにスライムの核は動いていますが、普通、そんなに簡単に見えたりしないものなのですがね?

 鼻だけではなく、目も良いようで……」


 支部長に呆れながら言われたものの、私は気にする事なく核に対して金棒を突き込む。

 すると地面との間に挟まれて核が砕けたようだ。

 どうやら物理攻撃でも倒せるらしいな。なかなか厄介だが。


 「………普通は成功しないんですけどね?

 貴方の場合は怪力もそうですが、瞬発力が高いのでしょう。

 そういう意味でも、しっかりと魔力の扱いを習った方が良いと思います」


 「分かりました」


 スライムの使える部分は死んだ後のスライムの体だ。

 粘液で構成されていて何でも溶かすが、それは核がある間らしい。

 なので核が潰されてしまうと、その強酸性は維持できなくなる。

 なのでスライムの抜け殻は素材に使われるそうだ。


 私だけだと変なモンスターだとして、倒した後も無視して置いていきそうな気がするな。

 勿体ない事をしていたかも知れないとは………これも知識の御蔭だ。

 ありがたく感謝しておこう。


 「しかしスライムが出て来るという事は、ここに置いて行った山狼の死体を喰らったのはスライムでしょう。

 あまり多いようだと駆除しておいた方がいいですね。

 山狼に死体を発見してもらわなければ困りますし」


 「そうですね。見つけ次第スライムは駆除していきましょう」


 そう決めた後、私と支部長は慎重に動きながら山狼を探す。

 流石に、においでバレる相手には慎重にならざるを得ない。

 私は魔法でにおいを外に飛ばしたらいいんじゃないかと思ったのだが、そんな事をしていたら魔力が幾らあっても足りないと言われた。


 確かに風を吹かせるだけでも魔力を使うのだから、外に飛ばし続けるのなど無理な話だったな。

 それに、私達のにおいはもうドーヴァルのにおいになっているだろう。

 だったら下手な小細工はせずに、最初からドーヴァルのにおいを撒き散らしておいた方がいい。


 そのように一切の反論ができないほどの正論を言われると、私は黙る他なかった。




 お互いに3頭の山狼を狩り、そしてドーヴァルの睾丸を入れてある袋を擦り付けた後、私達は山狼達のいる川辺へと向かう。

 こちらは遠くからなので、そこまで警戒しなくていいのが助かる。


 そして進んで行った先の光景を見て、支部長がまたもや固まった。

 大量の山狼が見えるからだろうし、これだけ居て村が壊滅しなかったのは運が良かったからにすぎない。


 「冗談でも何でもなく、本当に壊滅していても不思議ではありませんでしたね。

 おそらくはドーヴァルの群れこそが、山狼達が動かない理由でしょう。

 潰し合わせるというのは正しいです。

 片方の群れと戦っている間に、もう片方に攻められたら負けるしかない。

 そして統率者がそれに気づかないはずはありません」


 統率者の頭は良いらしいし、そうなると、自分達が勝者になる為に上手く利用されるだろう。

 今は私達、ドーヴァル、山狼の三勢力での争いになっているわけだ。

 どこが勝ち残るか、互いの統率者は慎重に計っていた。


 そしてここに来て、ようやく私達生物側も統率者が居る事を知ったというわけだ。

 明らかに遅いものの、まだ動いていなかったので逆転の目はある。

 騎士団には連絡に行かせてるし、このまま数を減らしつつ様子見が一番いい。


 そう考えていると、支部長が睾丸の入った袋を地面に置き離れた。

 なので私も離れると、支部長が【風魔法】でにおいを飛ばし始める。

 どうやら山狼の群れの中に、ドーヴァルのにおいを届ける気のようだ。


 ある程度飛ばしていると山狼達がこちらの方を向き始めたので、支部長と共に逃げ出した。

 おそらくはアレでドーヴァルだと印象付けられたはずだ。

 相当のにおいがするので、私達のにおいは消えているだろうしな。


 そのまま左の山の森を脱出し、支部長と共に一息吐く。

 流石に疲れたとしか言えない。


 「あのまま森の中に死体を残しておいて大丈夫でしょうか?」


 「昨日は山狼の死体を持って行ったのでしょう?

 だったら今日はしなくてもいいですよ。

 むしろ山狼が殺されていると知らせるべきですし、それぞれの敵意を向けさせないといけませんからね」


 どちらか片方を怒らせれば攻め込んでくれると思っていたが、それは少々甘かったらしい。


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