02-14-0032
Side:アッシュ
「支部長には何か策があるのですか?」
「ありませんよ。
ただし私は緑の髪からも分かる通り【風魔法】が使えます。
それを駆使すればドーヴァルの臭いを山狼の群れに届ける事も可能でしょう。
【風魔法】は色々な事に使えて便利なのですよ」
「はぁ………自分は魔法が使えませんので、そうなんですねとしか言えません」
「そういえば灰色の髪ですから、確かにどの神の加護かは不明ですね。
魔法は神の加護が無ければ使えませんし、灰色の髪は光妖精族と闇妖精族のハーフしか聞いた事がありません。
それにハーフは光と闇の両方が使えたはず。ですが……」
「自分は全く使えませんね。
そもそも魔力を外部から取り込まないと身体強化すら出来ませんから」
「ああ、身体強化は使えるんですね。
となると魔力自体はそれなりに持っているはずですが………?」
支部長が固まったというか、私の方を凝視している。
いったい何があったのかは知らないが、動き出すまで待った方が良さ気だな。
「なんですか、その莫大な魔力は?
風を通して調べてみましたが、ちょっと異常なくらいに魔力が多いです。
いえいえ、魔法が得意な種族より多いっておかしいでしょう!?
妖精族並の魔力がありますよ!」
「やっぱりそうなんですね?
ハバン殿にも言われたのですが、自分の中にそんな魔力があるとは知らなかったもので……。
本当なのかどうか、信じられなかったんですよね。
支部長も言われるという事は、どうやら本当にあるようで」
「とんでもない量の魔力ですよ?
それを全く活用していない、いえ、身体強化にしか活用できないなど勿体ない……。
いえ、仕方がないのでしょうが、本当に勿体ないとしか思えません」
「使える方からすればそうなんでしょうが、使えない私からすれば何とも言えないところです。
大量にあったところで………という感じですね」
「いえいえ、とても強い身体強化が出来ます。
それにそこまで多いなら、弱い身体強化を使い続ける事も可能なはず。
様々な用途に使えるので、魔力の扱い方を覚えた方がいいでしょう。
というか、ハバン殿から教えてもらえなかったのですか?」
「教えるには時間が足りないと言われまして、結局そのまま……」
「なるほど、それなら確かに仕方ないでしょうね。
なら、私が少しずつ教えてあげましょう。
どのみち明日からは私も出ますので、出先で叩き込んであげますよ」
「は、はぁ………お願いします」
「ええ」
なんだか支部長が乗り気になっているが、それだけに練習は大変そうだ。
それでも魔力の使い方などを学べるのはありがたい。
私は奴隷闘士として戦闘は散々に学んできたが、魔力の扱い方なんて誰も教えられなかったからなぁ。
まったく学んだ事が無い。
私の身体強化も、練習の際にたまたま出来た事を今でもやっているだけだ。
なので正式な身体強化の方法でもないし、そもそも私のやり方が正しいなどとは思っていない。
というより、素人が正しい方法を行っている方が驚きだろう。
普通は間違っていて当たり前だ。
なので自分の間違いが正されるのは、むしろ私に得しかない。
支部長はそれでいいのかと思うも、取り消されても困るので黙っていよう。
私としても強くなれるなら、それに越した事は無い。
支部長が立ち上がったのは用意の為だったらしく、私は報告を終えてハンター協会の外へと出た。
まだ夕方には早いが、今日は宿へとさっさと戻り、そちらの井戸を借りる事にした。
別に私も見られたい訳ではないので、こちらにした訳だ。
体を洗って綺麗にし、服の臭いを確認しておく。
が、そもそも今まで洗ってないという理由で臭かった。
仕方なく上下の服と褌を石鹸で洗ってしまい、服を乾燥させる道具は宿にお金を払って借りた。
といっても、洗濯物を干す竿と一緒に借りたのでお金が掛かったというだけだ。
球体の下に三本の足がついており、その球体にはハンドルが付いている。
この球体を開けて中に洗濯物を入れ、そして閉めたらハンドルを回す。
闘技場にも同じ物があり、自分で洗濯をしていたので使い方はよく知っている。
水と石鹸を入れると洗う事も出来るのだが、洗うのは素手でやったので乾燥だけを行う。
………せっかくお金を払って借りたのだから、洗いからやった方が良いだろうか?
悩んだが折角という事で、水と石鹸を入れて蓋をしたらハンドルを回す。
勢いよく回しても意味が無いのである程度ゆっくり回し、それが終わったら2回ほど濯ぐ。
石鹸のカスが残ると気持ち悪いからな。
綺麗に濯げたら最後に乾燥させるのだが、これは栓を外してから回す。
そうする事で洗濯物の水分が一気に出て来る。
私はそれなりの力で回転させながら水が出て来なくなるまで回し、それが終わったら洗濯物の水気を確認していく。
すると、着ていた方が乾くんじゃないかと思う程度には水気が無くなっていた。
なので着こんでいく。
「やっぱりまだちょっと濡れてるな。
でもこれぐらいなら寝る前には乾くだろう。
それまでは酒場でゆっくりしておくか」
という事で、少々早いものの酒場に行って夕食を注文した。
適当に酒も頼んで待っていると、運ばれてきたので食事をする。
今日はちょっと多めに食べて早めに休もうかなどと考えていたら、鉄級のチームと女性陣に女性達が入って来た。
あの3チームは1セットと考えてもいいのかな?
「おお! アッシュ、ここにおったか。
支部長から聞いたぞ、まさか山狼の巣まであったとはな!」
ちょっと待て、なんで私がその情報を支部長にのみ話したと思ってるんだ。
広めると碌な事にならないからだぞ。
いったい何をやってるんだ!
「アッシュはなんか焦ってるみたいだけど、心配しなくていいさ。
ここは国境の村だよ? 皆の腹が据わってるに決まってるだろう。
そもそも有事の際には最前線になるんだ。
そういう覚悟のあるのが住んでるんだよ」
なるほど、私が心配するような事は無かったわけか。
それでも情報の扱いは慎重になってほしいもんだ。
何かあっては困るんだし、無駄な事はしなくていいと思うのだがな。
絶対に混乱しないという保証は無いのだし。
「まあ、さっきのはガーンドの失敗と言えなくもないからアレだけど、そこまで心配しなくていいのも間違いはないさ。
とはいえ、オレ達もアッシュから山狼の事を聞いておく必要があるからな」
「そうそう。食事がてら聞かせてもらうわよ」
確かにこのメンバーには伝えておいた方がいいな。
明日は支部長と組む事になるだろうが、皆にも概要は聞かせておかないと危険だ。
トラップを壊されても困るし。
「なるほどのう、左の山の更に左か。おそらくだが、ワシらもそこまで行った事が無いな。
あまり奥まで行くと戻ってこれん可能性がある。なのでワシらも奥までは行けんのだ。
危険はなるべく排除しておきたい」
「それが当然だし、そこまで無理をするのもおかしな話さ。
むしろアッシュはよく見つけたよ。
アッシュが居なかったら分からないままだったね」
「アッシュはよく見つけたな?」
「私は犬人族ほどではないものの、それなりに鼻が良いのだ。
だからにおいで敵を見つけられる。
山狼も縄張りを示すにおいをつけるくらいには臭いからな。
だから分かったんだよ」
「そんな特技を持っておったとはのう。本当に多彩なヤツじゃと改めて思うわ」
私自身もそう思っているよ。
それでもその御蔭で助かってきたのだし、だからこそ私は自分の鼻を信用している。
嘘の臭いまで何となく分かるのでな、警戒する相手が分かるのはありがたい。
そういう意味では、これからも役に立ってくれる特技だろう。




