02-13-0031
Side:アッシュ
井戸で体を洗った後、私達はさっさと酒場へと移動した。
私だけでなく、そもそも男性陣にとってあまり聞きたくない話題だったからだ。
男性陣の品評も支部長の話もだが、聞いても困るし返答を求められたらもっと困る。
そういう類の話は止めてほしいものだ。
そういう意味で疲れた私達は、その疲れた体を引きずり酒場へ。
そして早速ガーンドが美味しそうに酒を飲み始めた。
私も場の雰囲気を壊さないように注文するものの、酒に酔ったりしなかったのだよなぁ……。
なので良い気分というのが分からない。
それでも飲みながら周りの話に合わせ、終わって宿に帰る頃には疲れていた。
体の疲れではなく心の疲れだ。
そして早々に眠る事にした私は、そのままベッドに寝転がって目を瞑る。
もうさっさと寝てしまおう。
次の日の朝。
しっかりと目を覚ました私は酒場へ。
朝食を食べたらすぐに村を出発。
右の山へと歩いていく。
未だに左の山を全く調べていないのだが、それが後で問題にならないだろうか?
皆も右の山のドーヴァルを倒しているからこそ、左の山の事が分かっていないのが引っ掛かる。
少々迷ったものの、私は意を決して左の山へと行く事にした。
これで何も無ければ問題ないのだが、もし問題があれば知らない事が致命的な失敗に繋がりかねない。
なので情報を得る為にも、一度は行っておく必要がある。
私は左の山へと近づき登っていくが、右の山と似たような形の山だった。
まるで左右を反転させたようにソックリな感じで、特に距離が変わる事もなく森の手前に到着。
そして私はすぐに森の中へと入って行く。
そして臭いを嗅ぎながら進むも、遠くから狼と思しき臭いがしてきた。
もしかしたら山狼は左の山に生息しているのかもしれない。
狼の鼻は非常に良いので、おそらくこっちの臭いは既に知られていると思った方がいい。
奇襲を受けるぐらいなら、奇襲される前提で動け。
ハバン殿が言っていた事だが、奇襲を受ける前提で私は武器を構える。
そうやって周囲を確認しつつ臭いを嗅いでいると、突然右から狼が襲って来た。
私は噛みつきにきた狼の口に対し、金棒を横にして出して防ぐ。
ガキンッ!!
狼の顎の力が幾ら強かろうと、鉄の太い金棒を噛み砕く事は出来ない。
そして一度でも防げばこっちのものだ。
私は右手を開くと、そのまま狼の顔を張り倒して地面に押し付ける。
そして素早く左手で首を絞めると、レッドオーガ状態になり喉を握り潰す。
潰した後で素早く離れると、狼は咳き込むだけで動けなくなっていた。
喉が潰れているので呼吸も満足に出来ない。
こうなると死ぬしかないので後は放っておいて先を急ごう。
こちらに多くの山狼が居るのならば、事情が色々と変わってくる。
私は金棒を拾い上げると、すぐにその場を離れて狼の臭いの濃い方へと進む。
その後も何度か狼を素早く殺したものの、大騒ぎされたり吠えられる事は無かった。
そして私は山の中の谷部分に川を見つけた。
左の山を更に左に行った方だが、そこに川と狼の群れを発見。
そして、そこにはあの時に見たボス狼が居た。
私は上から見下ろすような形になっているので気づかれていないのだろう。
しかしあのオーラは間違いなくあの時のボス狼だ。
つまりドーヴァルの巣で殺されていたのは、大きさだけが似ているヤツでしかなかったのか。
確かに狼の群れを見てみると、ボス狼に近い体の大きさをしているのが2頭見える。
殺されていたのを合わせると3頭もいるという事になるな。
山狼の群れもドーヴァルに負けず劣らずヤバいのが分かった。
少なくとも遠くから見ているだけで、軽く150頭は居るのが分かるからだ。
外に出ているのを合わせれば200頭を超えているだろう。
300のドーヴァルと200の山狼。
もし正面からぶつかったらどちらが勝つのだろうか?
何となくでそんな事を思った私は、狼達にバレない間に撤退する事にした。
(ドーヴァルと同じで、こちらが夜に襲ってきても終わりだ。
今はまだ村を襲ってきたりはしていないが、いつ襲ってくるかは分からない。
一番良いのは両者を争わせること。
そうする為にはどうしたらいいんだ?)
考えてもいい案が浮かばなかった私は、山狼の死体を縄で括って持って行く。
縄が千切れそうではあるが、それでも私に持てない重さではない。
殺したのは4頭なので荷車の時に比べれば楽だと言える。
そんな山狼の死体を持って右の山へと移動した私は、そのまま森へと突入。
そして誰かが殺したドーヴァルの死体を見つけると、一ヶ所に集めてから山狼の死体も置いた。
まるで山狼達が襲ったかのように偽装すると、その場を後にする。
稚拙な物だが、もしかしたらドーヴァル程度なら引っ掛かってくれるかもしれない。
奴らを潰し合わせる事が出来れば、大きく両方の勢力を減らせるはずだ。
それを狙わない訳にはいかない。
私はせっせとドーヴァルの死体を集めては山狼の死体も置いていく。
それを四ヵ所で仕掛けた私は、その後ドーヴァル狩りへと変える。
今度はドーヴァルの臭いにおいを山狼の方にさせないと………
ウロウロとしているとドーヴァルを見つけたので首を握り潰して殺し、睾丸を切り落としたら死体を放置している所に追加。
更にドーヴァルを探して歩く。
今日は7体を殺して14個の睾丸を入手。それを持って、今度は山狼の方へ。
ドーヴァルの睾丸が入った布袋を持っているので狼に発見されるが、今までと同じく喉を潰す事で殺す。
これが一番バレないで済む。
そして山狼の死体に睾丸の入った袋を擦り付けると、私は再び山狼を探す。
既に私からは私のにおいはしなくなっているだろう。これだけドーヴァルの睾丸を持って歩いていると。
その事でも山狼は誤認してくれるかもしれない。
これでどちらかの陣営が攻め込んでくれればいいのだが……
そうすれば騎士団が来るまでの時間稼ぎは十分に出来るだろう。
数が少ない私達が生き残るにはこれが一番なはずだ。
私は山狼をせっせと殺していくものの、ドーヴァルの睾丸のにおいばかりになってしまい、已む無く途中で撤退した。
臭すぎてどうにもならなかったが正しい。
私も山狼のにおいが分からなくなったほどだ、アレで十分ドーヴァルが攻めて来たと誤認させられるはず。
それなりに時間も経っているので戻りつつ、他に何かいい方法は無いかと考える。
ドーヴァルと山狼。
どちらか片方でも村に攻めて来ると、どれだけの被害が出るか分からない。
ここはしっかりと犠牲無しで乗り切りたいところだ。
結局は答えの出ないまま村に到着。
錬金術師の店で睾丸を売り、金を手にした私は井戸へ。
今日は手やナイフだけをしっかりと洗い、終わったらハンター協会へ。
そして中に居る支部長に報告を行う。
「協会が御存知かどうかは分からないですけど、左の山の左の方で狼の群れを発見しました。
私がざっと見ただけで150頭は居たと思います」
私がそう言うと、支部長は蟀谷を揉み始めた。
「あー……それはどこですか? どこにありました?」
「左の山の森に入り、ずっと左の方。
川の近くに多くの山狼が群れで居ました。
そして初日に会ったボス狼は居ましたので、ドーヴァルの巣で殺されていたのは別の個体だったようです」
「それもまた頭が痛くなる話ですね。
山狼は元々増えていましたが、そこで繁殖していたのでしょう。
そして貴方達が見たと言うボス狼は、おそらく統率者なのだと思います。
どちらにも統率者が居るなど理解不能な状況ですが、そんな泣き言は言っていられませんか」
「どうにかして山狼とドーヴァルをぶつけられませんかね?
そうなれば村は安全だと思うのですが……」
「確かにそれが出来れば最良ですが、何か良い案が?」
私は周りを見渡して誰も居ないのを確認すると、今日やった事を話した。
「また無茶な事をするものです。
普通なら死体を持ち運ぶのは簡単な事ではないのですがね、貴方の力なら出来るのでしょう。
事ここに至っては支部長として座っているわけにも行きませんね。
私もハンターとして戦いましょうか」
支部長はそう言って立ち上がったが、何か策でもあるのだろうか?




