02-12-0030
Side:アッシュ
錬金術師の店で睾丸を売り、小銀貨14枚と木札を貰った私は井戸で手を洗う。
石鹸は自分用の物を購入しているので問題なし。
そもそも体を洗うのにも石鹸が要るので買う必要があったのだ。
ちなみにキーシュカ殿がタダで使わせてくれたのは、一番粗悪な石鹸だった。
それでも文句を言うのはお門違いなのだが、私は王都で上質な石鹸を買ってきている。
こういう所をしっかりとしておかないと、悪く言われたりする元なのだ。
まずは手を洗いつつナイフの汚れをふき取った布も洗う。
相当に汚れが付いているので洗わないと臭いのだ。
そしてそれが終わったらナイフを石鹸で洗う。
ハバン殿も言っていたが、汚れが残るくらいならば潔く石鹸で洗った方が良いとのこと。
よく水気を拭いて綺麗にしておけば、汚れたままよりは遥かに長保ちするらしい。
むしろそれぐらいに汚れを残すのは駄目だという事だ。
私の持っているナイフは新しく買った良いナイフなので、出来るだけ長保ちさせたい。
モンスターの牙などを加工したナイフなら錆びる事も無いのだが、ああいうのは総じて値段が高い。
その分だけ切れ味の鋭い、良い牙を使っているからだ。
あのファングボーアの牙なら良いナイフになったのかもしれないなと思う。
とはいえ牙を減らすと売値が大きく下がっただろうから、あの時は仕方がなかったと思うしかない。
お金だって必要だし、あの時の収入があるから金棒もすんなり買えたんだしな。
手を洗い終わった私は、ついでに体も洗う為に服を脱ぐ。
女性ではないのだから、男はこんなものである。
私は布を濡らした後で石鹸を付けて擦り泡立てたら、まずは顔から洗っていく。
布でゴシゴシした程度で傷つくほど私は柔ではない。
なのでゴシゴシとしっかり洗う。
そこから耳の後ろや首の後ろなど、順番に洗っていると誰かが来た。
どうやら村の人らしい。
私は挨拶をしつつ体を洗っていく。
「ごめんなさいねぇ、水を汲んだらすぐに離れるから」
「いえいえ、私こそ邪魔をしてしまってすみません。
見苦しいでしょうが、出来るだけ早く終わらせますので」
「いえいえ、むしろ眼福よ。
ウチの旦那なんて比べ物にならないほど大きいもの。
良い物を見させてもらったわ」
女性はそう言って、水を移し替えた桶を持つと去って行った。
しっかりと見ていたなどと話されても、こっちは困るのだがな?
そう思っていたら鉄級の男性チームが来たようだ。
「おお、アッシュもか。
ワシらもドーヴァルの睾丸を持って行ったが臭くてたまらんでな。
手を洗うついでに体も洗いに来たのだ」
「返り血も含めて臭くなってるだろうしな、服も確認しながら洗うしかない。
場合によったら、寝ている間に外で干しとくか。そうすれば明日の朝には乾くだろ」
「明日もドーヴァルを狩らなくちゃいけないし、騎士団が来るまではコレが毎日続くな。
仕方ないとはいえ大変だ」
「いいじゃないか。
何だかんだといって、それなり以上には稼げたんだからさ。
くっせえ睾丸とはいえ、荷物の軽さと比べて収入は多いんだよなー。
御蔭で儲かったぜ」
「本当にね。
すんすん……よし、手も臭くなくなった。
僕も体を洗おうっと」
「男5人が裸で井戸を囲むって、よく考えたら嫌な絵面だな。
オレなら近寄らねーわ」
そもそも別の井戸を使えば済むのだから、ここには来ないと思うがな。
ここは村の中心とはいえ宿などにも井戸があるんだし、そういう所に借りに行くだろう。
わざわざ男5人が固まっているところには来ないさ。
「あんた達、堂々と裸になって体を洗うとはねえ。
私達が手を洗う分の水は残ってるかい?」
なんで堂々と女性陣がやってくるのだろうか?
おまけに木級の女性達もいるようだが、あからさまに顔を横に背けてるぞ。
それに比べて女性陣は、完全にそのつもりで来ただろうというくらいに見ているな。
そういう意味でも堂々とし過ぎだろう。
「うわぁ………アッシュのデカッ!」
「あー………アレは凄い。
何と言うか、2度見して確認するぐらいだよ。
えっ、本当に? ってさ」
「あらら。男は大きさじゃないって言っても、アレは素直に凄いわね。
でも経験少ない子じゃ逆に苦痛でしかないでしょうし、そういう意味でもアッシュは難儀ねえ」
「確かにそうね。
一人だけ見られてるのにピクリとも反応しないし、そういう意味でも難儀しそうよ。
やっぱり子供の頃から教えられるって良くないわ。アレを見てると素直にそう思うわね」
そう言われてもな? 私はそういう風に教えられたし、今更そこに関してどうこうするのは無理だと思う。
っていうか、何故に女性陣はウロウロとしているのだろうか?
「アレだ、一番ってなると圧倒的にアッシュになっちまうのは仕方ないのかね?」
「全身の筋肉が凄いものね。
そのうえお尻のラインがセクシーだし、ここまでだと色々と思うところも出て来るわ。
あの胸板に腕、そして教えられてる訳でしょう?
その事の是非を横に置いておくと………アッシュは客を多くとらされた?」
「そうですね。
香水で臭い女の相手は、2日に一度くらいのペースでありました」
「やっぱり………とはいえ、そうなるのも分かるわ。
お金を持ってるのは通い詰めるでしょう、そこは間違いない。
それぐらいだという自覚が本人に無いのがアレだけど」
「そこは仕方ないわよ。子供のころからだと、そうなっちゃうしね。
むしろ自分をよく知っていて性欲に塗れていたら、今頃は稀代の女たらしになってたんじゃない?」
「分かる。絶対にそうなってたわね、これだけの体とモノを持ってたら」
何というか、女性達の品評会になってしまっているな。
それと女性達にも話しかけたからか、段々と女性達も遠慮が無くなってきたぞ?
最初の慎みはどこへ行ったのだろうな?
「貴方達は何をやっているのですか?
帰って来たと聞いたので見に来てみれば、男性の裸を鑑賞している場合ではないでしょう。
もう少し危機感を持ってくれませんか?」
「そりゃ断らせてもらうよ。
支部長もこういう時ほど余裕を持って遊ばないと駄目さ。
真面目なのは悪い事じゃ無いけど、真面目なだけで上手くいくほど世の中は甘くない。
ついでにその真面目さで失敗したんだろうに」
「それを言うのは止めて下さい!」
私は頭を洗っていたのだが、何故か言い合いが始まってしまって困ってしまう。
体を洗っていただけなのに、何故こうなったのだろうか?
「止めても何も、前に酔っぱらって言ってたじゃない。
真面目に居すぎたからヴェルイーに来るまでに処女を散らせなかったって。
王都に心残りがあるんでしょう?」
「わー! わー!
なんでその事をこんな場で言うのですか!!」
「別にいいじゃないの。
相手が不真面目なヤツで、女を買ってるようなヤツだから嫌だったってさ。
初恋だったら体当たりするぐらいで良いってのに、結局なにも出来ないままにヴェルイーに来たんだろう?」
「いつまでも心残りになるに決まってるのにねえ。
何をやってるんだか」
「べ、別に何もやってません!
そもそも疚しい事など何もしていないんです!」
「してないから駄目なんだろうに、それを正当化してどうすんのさ……」
「ハバン殿の事なら勘違いしていますよ? 実際に根は真面目で義理堅いですからね。
不真面目じゃありませんし」
「おっ、もしかしてアッシュは知ってるのかい? 支部長の片思いの相手」
「王都のハンター協会中央本部、そこで色々な仕事をしている方ですよ。
銀8級であり、マスターやサブマスターからも頼りにされている方ですね」
「銀8級ってより、相手が<黒影のハバン>だった事に驚きだよ。
まあ、ライバルは大量だろうし、諦めて良かったんじゃないかね?」
ベリ殿がそう言いつつ支部長の肩に手を置くと、支部長は何とも言えない顔をした。
まあ、ライバルは多いだろうなと思う。
何故かハバン殿は、お金で買う女性しか相手にしないが……
おそらく他人を信用できないからだろうなと思うし、それを支部長も知っているはずだ。
ならば諦めた理由もよく分かる。
よしっ、後は流すだけだ。
五月蠅かったが、後は夕食を食べて宿に行けばゆっくり出来る。
さっさと食べて、宿で静かに休もう。
この騒がしさは疲れる。




