02-09-0027
Side:アッシュ
朝食を食べ終わった私は、荷車屋に行って大銅貨4枚を支払い大型の荷車を借りる。
昨日あの女性陣が借りていた荷車がコレだが、特注のヤツは一つしかないので借りない。
アレは借りるのに小銀貨1枚も掛かるらしいので、流石にそれは止めておいた。
どうせ鉄級の彼らが借りるだろうし。
そういえば彼らは鉄級のチームだが、実は人間族のバナンだけ銅9級らしい。
なので全員が鉄級というわけでもないようだ。
それでも18歳で銅9級は十分に才能アリと言えるらしく、将来有望なのだそうな。
おそらくそういう意味でも、ベリ殿は先に手を付けておいたのだろう。
私は村の北から外へと出ると、昨日の山の方へと向かっていく。
もしかしたら、あのボス狼は左右両方の山のボスなのかもしれない。
そんな事を思ったが、今日は右の山を調べよう。
考えを変えてウロウロしても良い結果は出そうにないし、それなら一つずつしっかりと調べた方が良い。
荷車をひたすら牽いて、昨日の鉄級チームが荷車を置いていた位置に着いた。
私もここに荷車を置いていき、いざ山の森へ。
ナイフを抜いて左手に持ちつつ、右手で金棒を扱う。
下草が長かったりすると、藪をかき分けるのに使わないといけないからな。
そういう意味では金棒も必要なのだ。
ナイフで木に傷を付けつつ進み、臭いを嗅いでモンスターの位置を探る。
それなりに獣臭はするものの、薄いので近くには居ない。
なので更にモンスターを探して歩く。
森なのに、ここまで大胆に動く訳は当然ながらある。
それが私の鼻だ。
私の鼻は思っている以上に優秀らしく、外の新鮮な空気を感じ取れるみたいなのだ。
当然森の中と外では臭いが違っており、その森の匂いが薄い方に行けば外に出られるという事が分かっている。
ハバン殿には犬人族かと呆れられたが、私もそこまでだとは思っていなかった。
もちろんいつでも完璧に分かる訳ではないが、多少ウロウロすれば正解の方向は分かる。
なので、森でそこまで迷う事も無いのだ。駄目なら外に脱出すれば済む。
そう考えると気楽なものでもある。
(しかし妙にモンスターが居ないな?
昨日はアレだけの山狼を嗾けてきた癖に、今日は逆にモンスターの臭いがしないとは………
いったい昨日からあのボス狼は何をしてるんだ?
もしかして群れの作り直しをしているのか?)
それなら楽で助かるんだが、そう簡単じゃあるまい。
群れが壊滅したから去った………という事は無いな。
だとしたら、あんなに威風堂々としていないだろう。
こちらを睥睨するような姿でもあったしな。
ならばそこまでではないはずだ。
(だとすると、どこに行って何をしているのやら?
あのボス狼が群れのリーダーで間違いないだろう。
アレの足取りを追えれば分かると思うのだが、昨日だからか既に臭いが消えている………?
獣の臭いは残るはずだがな?)
獣は縄張りを示す為に、自らの臭いを木などに付けるという。
その割には臭いがしないという事は、ここは奴らの縄張りじゃない?
しかし昨日はここに出てきていたしな。
そうなると、それは何故だという事になるが……
鉄級の彼らが迂闊な事をするはずもないし、となると何らかの要因で狼達はここに居た?
狼達だって縄張り争いはしている筈だし、何かの獲物でも追いかけてきていたのなら分からなくもない。
森の中を鼻を頼りに進んでいると、いきなり強烈な臭いを感じた。
すぐにしなくなったが間違いない、さっきのはドーヴァルの臭いだ。
アレだけ何度も嗅いだのだから、臭いぐらいは分かっている。
国境の山などにも出るとは聞いているが……
私はどちらから臭いがしているのか立ち止まって嗅ぎ、そして再び臭いがしてきたので方角を特定。
そちらへと進んで行く。
(途中で臭いがしなくなった理由は分からないが、ドーヴァルは精力旺盛であり、その事から繁殖力が強い。
実際にメスが一度に3~4匹のドーヴァルを産むらしいし、一年に3度から4度も出産するという。
魔力だけでなく肉も食らい、同族食いすらするモンスター。それがドーヴァルだ)
奴らの情報を思い出すだけでも、早めになんとかしなければいけないくらいには酷い。
いつの間にか繁殖している事がある、それがドーヴァルという種の怖さだ。
それ故に大した事のない強さであっても、恐れられているモンスターの一種となる。
たとえ一体一体が弱くても、大きな群れになったらとてもではないが勝てない。
なので勝つ為には早め早めに潰す必要がある。
私がドーヴァルの臭いに近づいていくと、そこには狼の臭いも感じられた。
もしかして狼はドーヴァルに食われているのか?
そう思って行ったのだが、そこは私の想像を超えて最悪な場所だった。
「ギャン!! ギャン!!」
「ギャウ~………」
「ギヒィッ!!!」
「ギヒヒッ!!」
そこは丁度山が谷になったような場所であり、そこに大量のドーヴァルがいたのだ。
そして多くの山狼が食われており………そのドーヴァルの村のような場所の真ん中に、かなりの大きさのドーヴァルが座っている。
相当の大きさというか、多分だが私よりデカいぞ。
そんな大きなドーヴァルの前には、昨日のボス狼の首から上だけがあった。
そして胴体はそのデカいドーヴァルが噛みついて食らっている。
………あのボス狼が負けたのか?
数で負けたのか、それともあのデカいドーヴァルが強いのか。
その辺りは分からないな。
それよりも、こんなドーヴァルの巣のような物があるなんて、ヴェルイーの者達は知っているのか?
軽く見積もっても200以上のドーヴァルが居るぞ。
普通ならドーヴァルは強くない故に、他のモンスターに食われて数を減らすのだが……
おそらくは、あの大きなドーヴァルの所為でこの規模にまで膨れ上がったのだろう。
このままではマズいし、まずは報告に戻った方がいい。
支部長なら何かの対策を思いつくかもしれないし、駄目なら少しずつ数を減らすしかないな。
私はドーヴァル達に見つからないように、コソコソと来た道を戻る。
できるだけ音を立てないようにしつつ、来た道を戻っているとドーヴァルを発見。
私は左手でドーヴァルの首を掴み、レッドオーガ状態で握り潰して殺したら素早く離れた。
今は睾丸を切り落としている場合じゃないし、素早く戻って情報を報せるのが先決だ。
それよりも、あのボス狼が負けるほどとなると、大きなドーヴァルはどれほど強いのやら………
本気で戦うならレッドオーガにならないと勝てないだろう。
そもそもあのボス狼でさえそうだったんだ、それよりも強いとなると………死闘になりそうな気がする。
闘技場でも2度だけあったが、命を賭けて戦うのは厳しい。
どちらに転ぶか、己が生き残れるか分からない戦いというのは、様々なものが相当に磨り減ってしまう。
回復までに時間が掛かるし、出来得る限りはしたくない。
とはいえ、そんな事も言っていられないだろうな。
山狼複数でも苦戦するのに、ボス狼以上のドーヴァルと大量のドーヴァル。
それらと戦わなきゃいけないんだから大変なんてものじゃない。
勝てるかどうかというレベルだ。
ようやく荷車の場所まで戻ってきた私は、急いで荷車を牽いて離れる。
先程の光景を報告しないと、これからの動きに大きな影響が出て来るのは確実だ。
知らないままだと、森の中でいきなりドーヴァルに襲われ殺されるかもしれない。
そうなったら村を守るハンターの数が減る。
減れば余計に勝てなくなるし、情報を無闇に広げるべきでもない。
村がパニックを起こしても困るし、更なる調査と数を減らす為にも慎重に動こう。




