02-08-0026
Side:アッシュ
支部長に木札を渡して手続きをし、私は銅5級になった。
相当に早い上がりだが、これでも厳しめにされているらしい。
甘い所であれば銅7級か8級までは上がっているとのこと。
とはいえ巡回狩人ならば厳しめに査定されておいた方がいい。
何より支部長が嫌がらせで厳しくしているとは思えないしな。
私は未だに五月蠅く騒いでいた連中を無視して協会を出ると、村に一つだけある宿へと行く。
この村のほとんどのハンターは地元の者なので、当然ながら宿を使ったりはしていない。
もしくは村で家を借りているので宿暮らしはしていないとのこと。
なので部屋は余っているらしい。
私も家を借りた方がいいのかもしれないが、流石に定住しない者に貸してはくれないだろう。
なので宿暮らしとなる。
先程のチームもおそらく宿代が結構な負担になっているのだと思う。
元々はアックソス地方の村の出身らしいし。
話を聞いていて何となく分かったが、彼らはそういう僻地の村出身である為に、余計に余所者に対しての態度が厳しかったようだ。
ここヴェルイーは国境の村だけあって、それなりには規模が大きい。
むしろヴェルイーまでの村の方が小さくて貧しい村となる。
だからこそ彼らはヴェルイーに出て来たんだろうし、だからあの女性達は帰りたくないと言っていたのだろう。
もしかしたら元の村でも居場所が無いのか、それとも………
ま、私が考える事じゃないな。放り投げよう。
あのチームの男達はおそらく、協会に借金する形で残る以外に道が無い。
そうなると協会に借りている金を返しつつ働く事になる。
王都には木級だとタダで泊まれる建物があったが、ここには無い。
アレは王都の宿の混雑解消と木級を犯罪者にしない為の措置らしいのだ。
なので元々ハンターが少ない場所では、わざわざタダで泊まれる場所なんて用意されないという事になる。
逆にそういう所ではハンター協会の中での寝泊りを許してくれる事もあると、王都のハンターから聞いた。
彼らはそういう事も知らないのだろう。
つくづく王都の方達に知識を教えてもらって良かったと思う。
知らないというのはそれだけで不利になる。
彼らを見ているとそれを痛感するんだ。
彼らの置かれている状況は、駄目だった場合の私の状況だからな。
アレを見て笑う気にはなれない。
宿屋に来た私は一泊を頼むが、一人部屋でも大銅貨3枚だった。
大鼠なら2匹獲らないと宿にも泊まれない。
そのうえ彼らの人数は7人だ。
男3の女4に分かれているとしても、3人部屋や4人部屋の方が高いだろう。
なので生活していくのがギリギリでも分からなくはない。
私は宿の部屋に入ると、ベッドに寝転び目を閉じる。
酒を飲んだ割には酔ったと思える感じがしないが、とりあえず疲れたので仮眠をしよう。
それじゃ、おやすみ。
…
……
………
ピー、ヒョロロロ……
ピー、ヒョロロロロロ………
「ん………朝か。
そろそろ起きな……朝だって!?」
慌てて部屋の中の木製の窓を開ける。
すると、ちょうど朝日が昇っている時間だった。
まさか宿に帰って来てから、朝まで寝ているとは思わなかったな。
通りで腹が空いたと思うはずだ。とりあえず起きて朝食に行こう。
朝早くからやってるかは知らないが、行けば分かるだろうしな。
私は起きて用意を整えたら、宿の部屋を出て入口へと向かう。
そして宿の従業員にチェックアウトを話すと、外へと出る。
「ふ、ん~~~~~……はぁ。
空も快晴だし、今日も良い天気だ。
さっさと朝食を食べに行こう」
私は朝日を全身に浴びながら伸びをした後、酒場に向かって歩く。
村の食事処はあそこともう一軒しかないので、どちらかに行くしかない。
もう一つは食堂だが、あそこは村の人達がメインで使っている。
なのでハンターは酒場と住み分けが出来ているようだ。
私が酒場に入ると、何故かその真ん中でガーンドが寝ていた。
昨日はもうちょっと右寄りで寝てなかったか? もしかして起きてまた酒盛りをして寝た?
……よく分からないが、触らないのが一番いいな。
私はパンとスープに適当な肉料理を注文、小銀貨一枚で支払い大銅貨6枚をお釣りとしてもらう。
小銅貨10枚で中銅貨1枚。そして中銅貨10枚で大銅貨1枚。
大銅貨の上は小銀貨なので、そういう形で上がっていく。
つまり昨日の中銀貨34枚は、大銀貨3枚だったという事だ。
それを思うと、王都のファングボーアは本当に高く売れたと思う。
体高1メートルに届くか届かないかの狼17頭で中銀貨34枚にしかならない。
そう言えなくもないのだから、1頭で大銀貨4枚がいかに破格か分かるというものだ。
だからこそ森のヌシだとハバン殿も言っていたのだろう。
「おっと、既にアッシュが食事中とは早いねえ」
「おはようございます」
「ああ、おはよう。………随分と長く居たんだな?」
「そりゃねえ。若い子はヤりたい盛りだし、復活も早いさ。
あたしも体力には自信があるから、こんなものだよ。
私は朝のセットね」
「自分も同じ物をお願いします」
どうやら2人は昨日で随分と良い雰囲気になったようだ。
10歳も年上だからどうなのかとも思うが、お持ち帰りされている時点で駄目か、とも思う。
本人に自覚は無いのだろうが、人間で28歳だし、離す気は無いのではなかろうか?
今も並んで食事を待っているが、ベリ殿が左手で何やらゴソゴソしているくらいだしな。
もちろん私は見ないフリをしているし、食事時に目の前でイチャイチャされても何も思う事は無い。
そもそも腹も立たないしな。流すだけだ。
「あらら、ベリだけでなくアッシュも居たのね。
若いのに早起きだこと」
「………おはよう」
「ああ、おはよう。……というか、随分と搾られたのだな?
少しやつれている気がするぞ」
次に起きて来たのは光妖精族と闇妖精族の2人だ。
ちなみに光妖精族と闇妖精族は関りがあるが、妖精族と両種族には何の関わりも無いらしい。
むしろ古くは妖精族の方が先で、それまでは光族と闇族としか呼ばれていなかったと聞いた。
妖精と付くようになったのは、単に古い時代に妖精族と同じぐらいに長生きだと思われたからだそうだ。
実際には寿命が違うのだが、長生き種族は似たように見えるのだろう。
結果的に関りが無いのに妖精と付くようになったのだそうな。
当の妖精族が全く気にしてないそうなので、そのままになってしまっているそうだ。
そして光妖精族や闇妖精族よりも、妖精族の方が魔力は高いのだと昨日聞いた。
妖精族という種族に会った事が無いが、物凄く魔法が得意な種族なのだろう。
有名なハンターにも妖精族が居るらしいが、それはガルセンツ王国ではないらしいので会う事は出来ない。
残念ではあるものの、妖精族のハンターもそれなりに居るので見る機会はあるだろう。
「シェリアも随分と搾り取ったもんだ。
よっぽど具合が良かったのか久々だったのか……」
「そういうベリだって少し前にしたのに、すぐにでしょ?
私の事を言えないと思うけどね」
「「………」」
男性2人が所在なさげにしているが、諦めてくれとしか思わんな。
それよりも朝食が終わったら、昨日と同じように狩りに行くか。
あの山というか、森に行って調査をしないとマズいだろう。
あのボス狼の事もあるし、調べておかないといけない。
いきなり山狼の群れに襲われて、村が壊滅などとなったら目も当てられないしな。
そうなったらマスターに何を言われるか分からないし、国境の村が壊滅など騎士団が出動するような話になる。
できれば、そうならないように防がないと。
既に色々な者と知り合ってしまったしな、今更なにかあった時に自分だけ逃げるというのも出来そうに無い。
ならば、早め早めの行動をしておくべきだ。




