02-06-0024
Side:アッシュ
「本当の事だとは思いませんでした。
まさか銅3級なのに、そこまでの実力者だったなんて……」
「アッシュの場合は級に収まらない強さををしている。
ワシら鉄級よりも既に上じゃろう。そう言えるほどに強い。
そもそも現場の者が認めておるのに、見てもおらん支部長が勝手に決めるのはおかしいであろう」
「あの山狼の鼻面を、大きな金属の棒で殴りつけてブッ飛ばしてたからねえ。
それだけで山狼は碌に動けなくなってたし、後はあたし達でも簡単に始末出来るってもんさ」
「そうそう。アッシュが一番前で戦ってくれてた御蔭で山狼を倒す事が出来たのよ。
それに、一人で山狼が12頭も載ってる荷車を牽いてきたんだしね。
凄いパワーしてるよ、本当」
「誰かさんは“お手伝い”なんて言い方してたけどさぁ、その荷車が牽いて来れるって時点でお手伝いなもんか。
出来るんなら支部長もやってみなよ。牽けるのならさ?」
「………」
流石に山狼12頭は難しいと思う。
幾ら【水魔法】使いが血抜きをしてくれたと言っても、それでも重いんだ。
そうそう簡単に牽く事など出来やしない。
私でも全力で必死に牽いてくる必要があったのだし、相当の重さをしているのは間違いない。
「分かりました。いえ、理解しました。
流石にこの重さを牽いている時点で、その力は確実に本物。
そこで嘘を吐くのは不可能でしょう」
「そもそもさ、なんでそこまでアッシュを疑うのか意味が分からないんだけど?
支部長ってそういう性格じゃなかったよね?」
「アッシュが巡回狩人だからだろ。
巡回狩人は地方を見張りに来てるとか、地方を勝手に査定する為に来てるとか言ってるヤツ居るし。
支部長もそういう考え方してるんじゃないかい?
あたし達からしたら、頭数が増えて万々歳なのにさ」
「そのうえ役に立つ強さをしてるんだから、誰も損をしないじゃないの。
ねえ?」
「あそこまで強いなら十二分な助っ人だものねえ。
中央が助けの手を派遣してくれたとしか思わないよ。
これで弱かったら文句の一つも言いたくなるけど」
「でもそれは無いし、何よりあの山狼のボスをどうにかしなきゃいけないのよ。
手は一人でも多い方がいいわ」
「山狼のボス?」
「ワシらが今日山の森に入ったら、山狼のボスのような、巨大な山狼に出会ってしまってな。
そのうえ配下か何か分からんが、山狼を大量に嗾けてきた。
そんな大量の山狼など多勢に無勢だ」
「だからオレ達は必死になって逃げたんですが、その先にアッシュが居たんですよ。
で、逃げろって言ったんですけど、ガーンドが遅れてたんで……」
「アッシュがガーンドよりも前に出て、山狼を倒してくれたって事です。
だからオレ達にとっては命を助けてくれた相手って訳なんですよ」
そこまで聞いてようやく理解したのか納得していたが、そもそも最初から疑っていたのが不自然だ。
この支部長は、そもそもそういう性格には見えない。
それに、わざわざ疑ってますよと見せるような愚か者にも思えないのだ。
というか、支部長は頭が良いはず。
にも関わらず、何故あんな反発されるような事を言ったのだろう?
その程度の事は場の流れで分かったはずだし、そんな慎重さが無い者が銀級にまで上がれるのか?
ハバン殿は一握りの者が銀級に上がれると言っていた。
それほどの級位なのが銀級だ。
その銀級にまで上がっている者が、あんな稚拙な事をするだろうか?
「山狼を持って来た連中、こっちに置いていってくれ!」
解体所の方にそう言われたので、私達は解体所の地面にどんどんと置いていく。
荷車から取り出して持ち上げるのも疲れるが、これが最後だという思いで持ち上げて置いていった。
12頭の山狼を置いた後に深く息を吐き、やっと終わった事に安堵する。
「…………随分と綺麗に倒してあるな。
鼻面の所が潰れっちまってるが、ここが潰れてても査定にゃ問題なしだ。
牙も綺麗に残ってるし、こりゃ満額出しても問題ねえ。
皮も含めて、町の方で高く売れるぜ」
「皮がですか?」
「山狼の皮は、この周辺では硬い皮なんだよ。
毛もそれなりには強いんで、毛皮のまま防具にされたりするのさ。
17頭もの山狼なら、結構な数の防具が出来るんじゃねえか?
つまり、それだけ高く売れるってこった」
「アッシュは新人だから仕方ないんだろうけど、良い防具はそれだけの金を出しても買うヤツが居るのさ。
というか、アッシュは防具を身につけた方がいい。
手足のだけで、胴体は服だけじゃないか」
「王都でハバン殿にも言われたんですけど、私が防具を買う場合は体の大きさから特注になってしまうんです。
なので出来上がるのが、いつになるのか……」
「ああ、なるほどな。
アッシュは体がデケーから、確かに既製品は無理だろうなぁ」
「違いない。オーガ並みの大きさしてるもんな。
町でもオーガ族が困ってたくらいだし、体が大きい種族は大変だよ」
「アッシュの種族って何なんだ? オーガっぽいけど、オーガとは違うみたいだし……」
その話題が出た時に聞かれると思ったが、仕方ないな。
ここで適当な事を言ったり、嘘を吐く訳にはいかない。
本当の事を言った方が印象は良いだろう。
「申し訳ないが、私は自分の種族を知らない。
物心ついた時には闘技場にいて雑用をさせられていたし、その後は22年の奴隷闘士契約をさせられた。
名前もその時に髪の色から付けられただけだ。
なので私は自分が何者なのか知らない」
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
雰囲気が悪くなってしまうかと思って警戒したのだが、そこまで悪くなっていない感じか。
田舎の方だと悪く取られるかもしれないし、同情ではなく蔑まれる元になるかもしれないから気を付けろ。
そうハバン殿も言っていたからな。
どの情報がどう受け取られるかは分からない。
だから自分の情報を出す時には慎重になれ。
そういう風にも教わった。
が、どうなるかは情報を出してみないと分からないしな。
そこは仕方ない。
「中央から漏れ聞こえて来た、男爵の妹が違法な闘技場を経営していたという件ですね。
ウィートリフ地方のダンゼスという町にあった違法闘技場。
そこで違法に奴隷闘士にされたというのがアッシュでしょう」
ああ、今分かった。
支部長は自分を下げる事で私を上げたんだな。
おそらく私が地域に溶け込む為にワザとそうしたんだ。
彼らが反発したという事は、それだけ私を受け入れる余地があるということ。
しかし、そこまでしなくとも……とは思う。
私は巡回狩人だし、どうせ一定期間が終われば離れる事になる。
私にそこまでしても得はあまり無いと思うのだが………。
それとも査定などを含めて色々とあるのだろうか?
「山狼の査定が終わったが、全部まとめて中銀貨34枚だな。
どうやって分けるのか知らないが、久しぶりに大きな金が動くよ。
ちょっと待っててくれ」
「「「「キャーーーッ!!!」」」」
そう言って解体所の人はどこかへ行った。
おそらくお金を取りに行ったのだと思うが、中銀貨だと厳重に保管してあるんだろう。
それよりも女性陣の歓声が凄い。
「どうする!? 中銀貨34枚だって!
私達で半分なんだから、一人4枚は確実じゃない!
残りの1枚はどうやって分けようか?」
「中銀貨1枚かぁ………そこの男ども、これからパーっと行くかい?」
「えっ? そりゃいいなら是非!!」
「オレ達も行きますぜ!!」
「ヒャッホー! タダめしだーーっ!!」
「飲んで食べて、今日はもうゆっくりしたかったから良かった……」
「本当にな。
まだこんな時間だけど、もう今日は狩りに出る気にならねえしさ。
飲んで食って忘れてえよ」
それぐらい彼らにとってボス狼は怖かったのだろうな。




