02-05-0023
Side:アッシュ
私は荷車に載せられるだけの山狼を載せると、彼らの荷車を引っ張る。
おそらく彼らの力では無理だろうと思っているからと、残っている山狼は女性達のチームの荷車に載せるので運ばなければいけないからだ。
女性達は2人で1頭を持っており、鉄級のチームも2人で1頭持っている。
山髭族の男性だけが1人で1頭を持っているが、なかなかに大変そうだ。
それでも女性の前だからか頑張っている。
「それにしても重いねえ。
それでも私達が持ってるのは5頭なんだけどさ」
「そうだね。彼1人で12頭も載ってる荷車を牽いてるんだから、とんでもないよ。
よくもまあ荷車が壊れないもんだ。
山狼と戦ってる時から凄いパワーしてたのは分かってたけど、耐えられてる荷車にも感心するよ」
「あれは一番大きな特注のヤツだからね。
足回りもしっかりしてるし、だから大丈夫なんだろう。
むしろ私達が借りてる荷車が大丈夫かの方が心配かな」
「だねえ。
もしかしたら途中で壊れるかもしれないし、そうなったら実入りが減っちゃうよ。
修理を手伝うから違反金を減らしてくれないかな?」
「そこのところは交渉次第じゃないかい?
山狼の事と同時に伝えれば、何とか通るとは思うけどね。
南の森で木を伐り出してくればいいだけだし、あそこは危険なモンスターがほぼ居ないからさ。
伐り出すだけなら問題ないはずだよ」
「それならいいけど。出来るだけ壊さないように進もうか」
私も引っ張りながらついていくが、方向は然して変わらないので遠回りにはならない。
かなり厳しいが、それでもレッドオーガにならずに済むので頑張っている。
これも体を鍛える為だと思えば普通の事だし、鍛えた自分の体は裏切らない。
かつて同じ闘技場の奴隷闘士に言われた事がある。
お前が学んだ事と、お前が鍛えた体は絶対に裏切らないと。
だから私は学んできたし、体を鍛えてきたのだ。
私だって何の努力もせずに今の肉体を手に入れた訳ではない。
それ相応の苦労をしてきている。
だからこその自負というものもあるのだ。
もちろん、だからといって絶対に勝てるなどとは思っていない。
だが、それでも鍛えてきたからこそ生き残ったのも事実だと思っている。
決して努力は無駄ではなかったはず。
ドスンドスン、ドサッドサッ……ドスン!
「おい、もうちょっと丁寧に置けよ」
「五月蠅いわ。
ワシ1人で持って来たのだから、これで限界だ!
もう腕が碌に上がらん!!」
「とにかく喧嘩しない。
それよりもこれから持って帰るから、交代しながら牽いて帰りましょうか。
苦労するだろうけど、頑張るしかないわね」
私が先導する形でヴェルイーの村まで歩いて牽いていく。
頑張って力を入れて牽いていくのだが、その私よりも遅れるもう一つの荷車。
なんだかなと思ってしまうが、女性陣が交代しながら牽いているからあんなものだろう。
そんな事を考えている私も、そこまで余裕がある訳ではない。
それでも必死になって荷車を牽いていき、なんとか村まで戻って来た。
既に昼を過ぎているものの、そんな事は言っていられない。
正直に言って体中が悲鳴を上げそうなぐらいに疲れている。
それでも苦労をしながら、山髭族が先導する解体所にまで運んできた。
この村では解体所が村の中にあるが、王都の解体所は外にあった。
いわゆるスラムだ。
とはいえハンター協会と提携している店なので、木札が貰えるし、ちゃんとハンター協会で貢献度に認定してもらえる。
正規の店だという印が木札に押してあるからだ。
この村ではそもそも一ヶ所しか解体所が無いし、それも村の者がやっているので騙そうとする者が居ない。
鉄級になる試験は国境の村では受けられないので、尚の事、意味が無い事となる。
そこまで運んでいると、何故か目の前で査定を受けていた奴らが慌てて私に向かって武器を向けて来た。
「お前なにをしに来た! やっぱりオレ達の獲物を奪う気か!!」
「早くどこかに行け、さもなくば殺すと言っただろうが!
それでも来た以上、お前が悪いんだからな!!」
そう言って荷車を牽いている私に槍を突き刺そうとしてきたが、その槍を避ける前に山髭族の男性が前に出て盾で弾いた。
この人物は前で味方を守るシールダーだったらしい。
「なにをするんじゃ! 木級でしかないヒヨッコどもがふざけおって!!
ワシの命を助けてくれた相手に手を出すとは……貴様らこそ、ここでブチ殺すぞ!!」
「なんだと!?」
「止めろ、アレは鉄級のガーンドさんだ。
あの人を敵に回したら、オレ達のほうが悪いってなっちまう」
「お前ら! 相手を見て物を言っておるのか、ふざけおって!!
その性根、ワシが叩き直してくれるわ!!」
「はぁ、はぁ。
やっとここまで運んで来たってのに、下らないガキどもがまだ喚いてんのかい。
確かに収入が低くて必死なのは分かるけど、そんな態度で居たら誰も助けてくれなくなるよ」
「そうそう。そんな事したって、あんた達が損するだけさ。
だから止めときな」
「うるっせえ!
ババアが口出しすんな!! 引っ込んでろ!!!」
あーあ、馬鹿な奴らだ。
私でさえ絶対に言ってはならない禁句だと知っているというのに、それを言うとは………
終わったな、こいつら。
「………誰がババアだ、このクソガキがぁ!!!」
「ブチ殺すぞ、お前らぁ!!」
「いいや、今すぐ殺せ!!!」
「ブチコロセ!!!」
ズドン!! ドガッ!! ベキィ!! ドゴン!!
うわぁ……凄い音がしているが、私でも目を覆いたくなるくらいに酷い。
もちろんバカな彼らが一番悪いのだが、本当に一撃一撃に力が乗っている。
分かりやすく言うと、アレは本気で殺す攻撃だ。
冗談抜きで殺しにかかってる。
…
……
………
誰も口を挟めない中、15分ほど経った頃にハンター協会の支部長が来て止めてくれた。
正直に言って、これは女性しか止められないと思う。男性にはどうやったって無理だ。
そしてバカども、よく生き残った。そこは素直に褒めよう。
「つまり、あのバカどもが言ってはならない一言を言ったわけですか………。
で、何故そんな事になったのです?」
「最初はあいつらがここに居るアッシュに槍を突きつけたからだ。
奴らは生活がギリギリらしくてな、それで獲物を取られると思うたのか槍を突きつけおった」
「ふーん……本当に奪おうとした訳ではないのね?」
そう支部長が言った途端、鉄級のメンバーと女性達から殺気が漏れた。
「支部長もそういう目で見てるっていうなら、容赦しないよ?」
「ワシらはここにおるアッシュの御蔭で今日命拾いしたのだ。
幾ら支部長の言葉でもそれは許せんな」
「そ、そうだったの。それはごめんなさい」
「簡単に言うと、私が初めて会ったこの地のハンターである彼らに話を聞こうとしたんです。
ですが、その時から彼らはあんな態度でした。あくまでも男性は、ですが」
「つまり女性達はそういう態度ではなかったと?」
「そもそもそれ以前の話で、女性達とは全く会話をしていません。
彼らが武器を突きつけて来たので、すぐに離れました。
で、次にここで会った訳です」
「荷車に大量の山狼が載っていますが、お手伝いで引っ張ってきたという訳ですか」
「ふざけんじゃないよ!
これは全てアッシュの御蔭で倒せたんだ!! いい加減にしな!!!」
「そうじゃ! 幾らなんでも、ふざけ過ぎじゃろうが!!
支部長もこのクズどもの同類か!?」
「………本当に? まだ新人で、しかも銅3級でしょう?」
「「「「「「「「………」」」」」」」」」
「………」
支部長は鉄級の5人と女性達4人から冷たい目を向けられて、どうやら本当に私が倒したと理解したらしい。
こういう事があるから、ちゃんとした態度をとった方が良いんだ。
支部長の失敗に喜ぶより、自分も同じ失敗をしないようにという糧にしよう。




