02-04-0022
Side:アッシュ
「いやぁ、お前さんの御蔭で助かった!!
ワシは一番足が遅いからな。あやうく死ぬとこだったぞ、まったく!!
こやつらはワシを置いて逃げるし」
「あんたが逃げろって言ったんだろ。
オレ達だって残るって言ったのに、若いヤツは生きろとか言ったんじゃねえか。
そもそもあんただって山髭族の中では若いだろうが」
「違いない」
「「「「「わはははははは……!!!」」」」」
男達が生き残った事に対して、豪快に笑い合っている。
つまり、それほどまでに危なかったという事だ。
豪快に笑っているのは恐怖と安堵の裏返しだろう。
あの大きな狼に追いかけられていたなら、気持ちはよく分かる。
なにか覇気を感じるような立ち姿だったしな。
「こら若者ども! 笑い合ってないで手伝いな!!
このまま放り出してちゃ、勿体ないからねえ。
少しでも血を抜いて持って帰るよ!!」
「貴方達の荷車はどうしたの?
確かいつも大きいのを使っていたわよね?」
「いつも山の森の手前に置いて入るんだけど、今日は何も考えずに逃げたんで置いたままです。
取りに行かなくちゃいけないのは、そうなんですが……」
そんな言葉を言う青髪の人間族の青年は、若干顔色が悪い。
未だにボス狼の恐怖が残っているのだろう。
「ああ。あの大きな狼の恐怖が抜けないってわけね。
気持ちは分からなくもないけど、取りに行かないと困るわよ?
違反金は三台分だから結構な額だもの」
「そうなんだよなー………どうしたもんか」
「私が取りに行ってこよう。その代わりに血抜きなどを頼む」
「おお、流石だな!! こっちは任せろ!
お前の分もキッチリやっておくからよ!!」
「あんた達ねえ………」
私は少々気になる事もあったので、山に近づくついでに彼らの荷車を取りに行く事にした。
気になる事というのは、さっきの狼のボスだ。
私は先程の山狼との戦いでレッドオーガ状態になっていない。
ハバン殿からも、なるべく使わずに戦えと言われている。
何故なら、あの力は強力だが、使うと簡単に勝て過ぎるからだ。
つまり戦いの経験としては何の役にも立たないという事になる。
もちろん使っている時の体の動かし方も練習しなければいけないのだが、それよりも素の状態での戦闘経験をまずは磨いた方がいいとの事だった。
私も強くなりたいし、あの力に頼るのも情けない。
しかし、あの大きな狼との戦いでは多分だが使う事になるだろう。
そういう意味でも、さっき狼が立っていた場所に近づいて確認したかったのだ。
大きさがどれぐらいであったか等を含めて。
そして山を登っていった私は、森の手前で荷車を発見。
その近くの木を見て、大体のボス狼の大きさを想像する。
その結果、おそらく1メートル50センチ。
つまり王都北東の森のヌシと同じ大きさだと当たりをつけた。
狼でその体高は十二分に大きい。
なので間違いなくレッドオーガにならないと勝てないだろう。
それが分かっただけでも歩いてきた甲斐があったというものだ。
そう思いながら金棒に縄を括り付け、それを背中に背負う。
背負い鞄の上からだから不格好だが気にしてはいられない。
荷車の大きさは横に3メートル、長さは5メートルほどもある大きな物だった。
高さも普通の荷車よりは高いので、行商が荷物を運ぶ荷車の大きさと高さをしている。
もしくは大きさが小型の馬車並だと言えば分かるだろう。
そんな荷車を牽いて山狼を倒した現場に戻ろうとしたのだが、私はすぐに持ち手から離れて、森の方を警戒する。
そちらから獣の臭いが漏れて来たからだ。
背中に金棒を背負ったままだから武器が無いが、最悪はナイフで戦うしかない。
新しいナイフなので切れ味が分からないが、戦いとなったら信じて使おう。
そう思って構えていると、臭いの主は去って行ったのかしなくなっていた。
なので構えを解いて荷車を牽いていく。
なんとなくだが、先程の狼とは違う臭いに感じた。
アレはいったいなんだったのだろうか?
私は首を傾げつつも荷車を牽いていき、皆の下に戻った。
が、そこでは既に血祭が開催されているのかと思う程の血塗れ状態になっている。
地面が真っ赤になっており、そんな水溜まりがあちこちに見えるという酷い光景だ。
「荷車を取ってきたが、思っている以上に酷い光景になっているな。
山狼が10頭以上だから仕方ないのだろうが……」
「正確には17頭だよ。
殺しも殺したりで、よくもまあここまで殺ったもんだと思う。
売れば結構な大金になるし、あたし達も今日は儲けさせてもらって何よりさ。
こっちにどれぐらいくれるのか知らないけどね」
「そちら4人と私で割ればいいのでは?」
「そんなの駄目に決まってるだろう。
あたし達は止めを刺しただけだ。その程度で等分は明らかに貰い過ぎさ。
なんだったら等分にする代わりに「一発やらせろ」と言っているようにしか聞こえないね」
「そんなつもりは全くないのですが……」
「分かってるさ。
あんたは他の男と違って“そういう目”で見てこないからね。
だからこそ言ってるんだよ、ちゃんと分けなきゃ駄目だって」
「そうそう。
もちろん本当に抱きたいなら等分でもいいけどね。
あれだけの怪力でその体の大きさだと、良い子に恵まれそうだし」
「それ、分かる。
あんな大きくて太い鉄の棒とか使ってるんだもん。
かなりの怪力よねえ」
「やだ、もう。その言い方ちょっと卑猥じゃない?
大きくて太いとかさ」
「欲求不満じゃないんだから、そんな意味で言ってないわよ。
やーねー」
「あんた達ねえ。
せめて若い子を相手に、そういう話題は止めなさいな」
そういう話題は、きっと若い若くない関係なしに止めた方がいいと思う。
が、いちいち口には出さない。
面倒な話を繰り返されても困るし、ここはスルーして分配を決めよう。
と言っても、一番揉めない方法は既に決まっている。
「分配は半々でいいのでは?
そちらのチームと私で半々。
それで大体の労力も分配できていると思います」
「まあ、あんたが良いならば、それでも構わないけどねえ。
あの鉄級の連中は命拾いしたんだから、それぐらいは我慢するだろうし」
「あら、我慢させればいいのよ。
村の近くで防衛戦を考えたんでしょうけど、そんな事をして村に被害が出てたら大問題になってたわ。
それに比べれば遥かにマシなんだから、文句は言わせないわよ」
「まったくね。安易に考えた事が良い方法のはずが無いでしょう。
それに、あの子達の所為で狼連中がこちらを敵に認定したのは間違いないわ。
となると狼達と戦うしかなくなる」
「その事をどう考えるかね。
場合によっては夜に村を襲ってくる可能性すら出て来るわ。
こちらが夜は動かないと知れば、必ずや狼どもは夜の闇を利用してくるでしょうし」
それは厄介だな。昼も夜も攻められたらどうにもならないぞ。
私達は狼がどれぐらい居るか分からないんだ。
もし今回倒したのが僅かな数でしかなかったら大変な事になる。
「気づいたようね。
もし先程の奴らが先遣隊で大した数じゃないなら、相当の群れだという事になるわ。
元々から山狼はそこまで出会う事の無かったモンスターだから、具体的な数を把握していないの」
「それが厄介なのよねえ。
それより血抜きも終わったようだし、積み込んでさっさと帰りましょう。
フルシャが居てくれると楽で助かるわ」
「御蔭で随分と魔力が減ったけどね。流石に17頭の血抜きは大変よ。
若者の一人が【水魔法】使いじゃなかったら、自然に任せないといけないところだったわ」
「それでも一人で10頭以上を血抜きしたんだから立派よ。
若い子は5頭か6頭でしょ。やっぱりまだまだねえ……」
「仕方ないわよ。
まだまだ青いし、この前あたしが筆おろししたばかりだもの。
そんな若い子だよ?」
「「「その話、詳しく!!」」」
どうやらリザードマンの女性はフルシャさんというらしい。
が、なんていう話をしてるんだ。
向こうの男性陣も急にヒソヒソと話し始めたし、私は荷車に獲物を載せたら、さっさと引っ張って帰ろう。




