02-03-0021
Side:アッシュ
「国境も含めて変な事は無いねえ。
特におかしな動きも無いし、いつも通りってところだよ。
ただし国境の山から下りて来るモンスター数は年々増えてて困ってるんだ。
あたしは昔王都で夢破れた程度だから銅10級だけどね。
田舎だけあって、優秀なヤツの手がまったく足りてない」
「そうだね。
村出身の私達までハンターをしてるくらいだもの、このままだと嫁き遅れちゃうよ。
まあ、まだまだ若いんだけど」
「あんたは光妖精族だから猶更に若いでしょうよ。
あんたの種族は500~600年は生きるんだし、私達と同じじゃないでしょうに。
こっちは精々400~500年なんだから、早く子供も作らなきゃいけないんだし大変よ」
「そもそもあたしは人間だから100年も生きないし、それどころじゃないんだけどねえ。
まあ、皆はゆっくりと生きられるさ」
「人間は大変よねえ。
私もリザードマンだから3~400年は生きるし、どうして人間って寿命が短いのかしら?」
「その代わり子供を産みやすいんだから、悪い事じゃないんじゃない?
私なんて妊娠率が低いうえに、子供を作れる期間は年に一ヶ月ぐらいだもの。
それ以外の期間は幾らしたって子供は出来ないのよ?
それに比べればいいじゃない」
「光妖精族は特に確率が低いわよねえ。
しかも一度出産したら、次に産めるようになるまでに5年ぐらい掛かるし。
それを考えると人間ってバンバン子供を産めるのよねえ。
確かに羨ましい気持ちはあるかも。
大変でしょうけど」
「大変なんてものじゃないと思うわよ?
それでも羨ましい部分が無いわけじゃないけどね。
話が随分と逸れちゃったけど、山から来るモンスターが増えている以外は、特におかしな事は無いわよ」
随分と話が飛んでいたが、女性の話というのはこういうものだ。
とはいえ男でも大した意味のない雑談なら似たようなものでもあるが。
「そうですか。
それで、モンスターは非常に多くなっています?
それとも少し増えたぐらいで?」
「非常に多くなってる。
とまでは言わないけれど、昔に比べれば増えているかしら?
ハンターの数はほとんど変わってないし、皆が似たような数を狩っているはずよ。
それでも増えてるって感じるんだから、やっぱり増えてるんだと思うわ」
「特に増えてるのは山鹿よね。その所為で山狼まで寄ってくるようになったし。
皆、防具をしっかり着こんでるからいいけど、かつては防具をしっかりしてなくてね。
手足をやられるハンターも居たのよ。
元々は山狼なんて滅多に出なかったから」
「それなのに、今やいつ山狼に会うかなんて誰にも分からないものねえ。
鉄級の子達は大丈夫かしら?
あの子達もまだ若いけど、若いだけに無茶をしそうで心配よ。
支部長も唯一の鉄級だからか咎めにくいみたいだし」
「一番狩ってくるのも鉄級の子達だから仕方ないんだけど、それでも心配になるくらいには前のめりなのよねえ。
あの子達、いつかとんでもない失敗をしそうで怖いわ。
もちろんハンターである以上は自己責任なんだけど、私達もとばっちりを受けそうじゃない?」
「それはあるね。
場合によっては結構な被害を出しかねないって気はす……あれ、なんだろうね?」
人間の女性が見ている方向を見ると、ハンターが走って逃げてきているのが見えた。
そして、その後ろには狼が複数居るのが見える。
どうやら追いかけられているらしい。
私はすぐに走り出して助ける事にした。
ここで自分だけ逃げるというのは最悪だし、その後はおそらく一切信用されなくなるだろう。
なので少なくとも逃げる時間稼ぎ程度はしなくてはいけない。
逃げてきている彼らと違って、私はまだ体力が十分にあるからな。
そう思って走っているのだが、後ろから女性達がついてきているようだ。
「新人なんだから無理はしない! 銅3級程度じゃ山狼は止められないよ。
群れで来ているなら、どこかにリーダーが居るはずだ。そいつを倒すしかない!
助けたい気持ちは分かるけど、逃げな!!」
「そうそう。
ここは年数だけ無駄に重ねたお姉さん達に任せておきなさいって」
「無駄には重ねてないし、しっかりと様々に学んできてるわよ。
並のハンターより遥かに経験豊富なんだから」
「経験豊富だから嫁き遅れになりかけてるんだけどねー」
「そこは御愛嬌ってところじゃない?」
狼が山を下ってきている割には暢気な人達だなと思うけど、それぐらい余裕があった方がいいのかもしれない。
無駄に緊張したりしても力は発揮できないし、発揮できないままに殺される恐れがある。
戦いは平常心だ。いつも通りに敵を倒せばいい。
「逃げろーーーっ!! 山狼のボスだ! ボスが後ろに居る!!」
「あのボスが山からモンスターを嗾けているヤツだ!!
だが、あんなデカいのには勝てねえ! 逃げろ!!」
「早く逃げろ!!
村の近くで人数をかけて迎撃するしかない!! だから今は逃げるんだ!!」
そう言って走ってくるハンターとは裏腹に、私は金棒を持って突っ込む。
ハバン殿が言っていたな、狼は鼻面をブン殴られるのに弱いと。
私が闘技場で戦った狼型のモンスターもそうだった。
鼻面をやられる事を極端に嫌っていたのを思い出す。
だから私はこうするのだ。
ドガッ!
「ギャン!?!!」
一番前の一頭の鼻面をブン殴りつつ、私は更に前進していく。
こちらに噛みついて来ようとする狼の攻撃を横にかわして、左肘を振り下ろす。
ドゴッ!
「ギャン!??!」
更に迫ってくる狼が居るが、間に合わないので片手で金棒を振るう。
ドガッ!!
「ガァッ!?!!」
右手で環の部分を持ち、遠心力で腹にブチ込んでやった。
王都に居る間に色々とやってみたのだが、この方法なら割と簡単に片手で扱えたのだ。
なので、それからはこの方法を使っている。
遠心力を込めた一撃は十分に役に立ってくれているし、敵を蹴散らす際には丁度いい。
全力全開とはいかないが、傷を負ったモンスターは女性ハンター達が何とかしてくれるだろう。
そう割り切って、どんどんと近づいてくる山狼をブチのめしていく。
ドゴッ! バキッ! ドスン! ドゴォッ!!
「「「「ギャオウッ!?!?」」」」」
ズドッ! ドスッ! ザシュッ! ドガッ!
後ろの方でも音がするので、おそらくは手負いの狼を殺してくれているのだろう。
私は乱戦状態になっているのも構わず、手当たり次第に金棒で殴り、肘を落として蹴りつける。
そうしていると、襲ってきていた山狼は居なくなった。
が、山の上の方に遠くからでも分かる大きさの狼が現れた。
アレが山狼のボスだと分かる大きさをしている。
そんな大きさのボス狼は、こちらを睥睨した後、踵を返して山へと去って行った。
どうやら山狼をこれ以上嗾けるつもりは無いらしい。
やれやれ……思っている以上に疲れたな。
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
バンバン!!
「お前さん凄いじゃねえか!!
あれだけの数の山狼を倒しちまうなんてよ!!」
喜んだ声がしたかと思ったら、いきなり腰を叩かれた。
どうやら先程の逃げていたハンターのチームらしい。
やたらに強い力だと思ったら山髭族の男性だった。
通りで強い力で叩いてくるはずだ。
山髭賊は山に掘った地下坑道や地下の町で暮らしている事が多い種族で、夜目が利く事で有名でもある。
背は低いが筋骨隆々であり、手が大きいのが特徴だ。
建築や鍛冶の分野で有名な人物が多いが、強いハンターも多いのが特徴の種族でもある。
力のあるヤツが強い。という、とてもシンプルな考え方をしている種族。
そして最も有名なのが、種族全体が無類の酒好きだという事だ。




