05-25-0211
Side:マーヤ
いちいち鬱陶しい事をする奴らだけど、知らない奴らなんだから仕方ないと思える部分も無いわけじゃない。
それでも腹立たしいし、いちいち邪魔すんなとしか思わないけどね。
それはともかくとして、町に着いたんだから、まずは解体所に行きましょう。
統率者を売ってある程度の儲けにしておかないといけないわ。
とはいえ全員で割ると大した金額にならないでしょうけど、それは仕方ないと諦めるしかない。
わたし達だけなら少人数で統率者を狩れるから儲かるんだけど、今はシャムナやら<烈華>やらが居るからね。
人数が多いとそれだけ収入も減る。
とはいえ役に立っていない訳じゃないから仕方ないのよ。
敵の眼を向けられるし。
冷酷かもしれないけど、自分以外に目が向いてくれれば、それだけ死からは遠ざかれる。
良い悪いではなく、そう冷酷に計算出来ないと生き残れないのよ。
そして銀級から上の者は、そういう計算が出来る者に限られる。
甘ちゃんじゃ銀級には昇れない。
銀級が相手をする事になるモンスターっていうのは、それぐらい過酷な連中なのよ。
だからこそ冷静で冷徹な判断と、見捨てる冷酷さと非情さが求められる。
そこまで出来ないと勝つ事が難しいのもあるけど、銀級には生き残る義務がある。
銀級にまで昇れた者が、簡単に感情で死ぬのは困るのよ。
ハンター協会だけじゃない、国や困ってる民の為にも簡単には死ねない。
そういう立場でもあるのよね、銀級というのは。
だからこそ重いし、鉄級の時のような甘ちゃんでは居られない。
わたしも昔に理解した事だけど………アッシュとラブはあっさり飲み込めそうよね。
アッシュは仲間の奴隷闘士が死んでいく中でも生き残ってるし、ラブはそもそも辺境伯家の子だもの。
何が一番大切かは分かっている。
銀級の者が鉄級や銅級を庇って死ぬなんて、絶対に許される事じゃない。
国家規模の損失って考えたら、銅級や鉄級を犠牲にしてもらわないと困るのよ。
全体の事を考えなきゃいけないから。
それぐらいに銀級の立場っていうのは重いんだけど、ジャネスは大丈夫かしらね?
ちょっと甘そうな部分もあるから、案外と銀級昇格試験に落ちそう。
「それなりの金額にはなったが、やはりドーヴァルの統率者は大した額にはならなかったな。
安値の皮防具の材料にはなるらしいが……」
「仕方ありません。
普通のモンスターであっても、もっと皮が分厚いモンスターも居ますしね。
それを考えると皮が厚くないドーヴァルは……」
「使える場所は少ないでしょうね。
むしろ古くから睾丸が活用されているのが、このモンスターの宿命でしょう。
良い悪いは別にして、活用できる部位があるだけマシです。
猛烈に臭いですが」
「その臭さが厄介なんだよねえ。
臭さが無ければもっと取って来やすいんだけど、ここまで臭いとやっぱり嫌がるヤツは多くなる。
当たり前の事だけどさ」
「ここまで臭いっていうのも、なかなか凄いよね。
同じドーヴァルならまだしも、臭いがキツ過ぎて死体に寄って来るのさえ少ないからさ」
「そういえばドーヴァルが共食いするのは滅多に無いと言っていましたよ。
ぼくの鉄級昇格試験の監査官であるバディオさんという方が言ってたんですが、何でも余程に腹が減ってない限りは無いと」
ラブの話に全員が衝撃を受けた。
ドーヴァルって共食いするんじゃないの?
「本当かい、ラブ? そんな話は初めて聞いたよ?」
「なんでもバディオさんは、楽にドーヴァルを討伐する為に死体を餌に誘き寄せようとしたらしいんです。
しかし見ている間、一度もドーヴァルが死体を喰らう事は無かったそうで……
ですから見た事が無いと」
「そういえば、わたしも言われてるだけで現場を見た事は無いわね?
ドーヴァルがドーヴァルの死体を食べている現場、見た事がある者って居るのかしら?」
「ふむ………もしそうなら、死体を分解してきても良かったのかもしれないな?
もしくは血だけ分解するとか。
肉だけなら食う者も居るかもしれん」
「腹が減って我慢できなくなって食った。
それを見ていたヤツがドーヴァルは共食いすると言い出す。
で、それが広がって当たり前になっちまった…………分からなくもないねえ」
「確かに。
そう考えると、真偽の怪しい話も信じてしまってる可能性はあるよ。
本当かどうかは疑った方がいい噂って多いし」
オーク族のオーファルと、ゴブリン族のギンリカの言う通りね。
真偽不明なのに「昔からそう言うから」と信じている事は多いわ。
一旦おいて、本当かどうかは確かめた方がいいかも。
場合によっては、そんな嘘情報で致命的な失敗をしている場合もあるわ。
上手くリカバリー出来ているだけで最初から間違ってる、或いは効率の悪い方法だけど当たり前になってる。
そういう事も無いとは言い切れないのよ。
「考えれば考えるほど、色々な事が怪しく思えて来るわね。
とにかくドーヴァルの共食いは滅多に起きない。それだけ覚えておけばいいわ。
それに……」
「それに?」
「臭いのは主に睾丸だもの。
それが無くなれば普通に共食いする可能性はあるわ。
睾丸の臭さは同じドーヴァルでも嫌がるぐらいだもの」
「確かにそうかもしれません。
バディオ殿は共食いを見ていないと言っていましたが、睾丸を切り取ったかまでは聞いてません。
なので、その辺りは不明です」
「なら早計に決めつけるべきでもないね。
とはいえ、そういう条件を見つけるのは重要だけどさ」
「そうですね。
睾丸さえ切り取れば共食いの餌として使えるという事を意味します。
そういった情報は重要ですよ」
解体所の連中がちょっと引いてたけど、わたし達は気にせず分配して酒場へ。
そして早めの昼食を注文した。
ウォーターリザードに時間が掛かったからか、早めの昼食でしかなかったわ。
あれ厄介だし、強かったものねえ。
「確かにあのウォーターリザードは強かったよ。
あんなのが町に来ていたら、どれだけ被害が出たか分からないほどさ。
それでも倒せたから今は安全だけどね」
「あくまでもウォーターリザードが来ないってだけで、今も統率者が多くて危険な事に変わりは無いよ。
それよりマーヤが治してやったハンター達は狩りに行ってるのかねえ? 酒場には居ないけどもさ」
「流石に狩りに行っているのではないですか?
でなければお酒を飲む事も出来ないでしょうし、これからの生活も考えれば狩りに行くしかありませんよ」
「そういう意味じゃ、アタシ達の方がゆっくりと構えられて楽かもしれないね。
代わりに戦う相手がアレだけど……」
「統率者と連戦でしたからね、緊張感は凄かったですよ。
それでも倒せましたし、収入を考えたら大きいので良かったですけど」
「死の危険はいつもより大きいねえ。
それでもそっちの御蔭で小さいけどさ」
「こっちだけなら絶対に手を出さない案件だよ。
鉄級で経験は豊富だと思ってたけど、案外と惰性で長く続けてただけなのかもね」
思わず愚痴を溢す程度には凹んだみたいね。
とはいえアッシュという<三柱の神の神子>と比べても意味は無いわ。
あまりにも規格外だし、下界の生き物とは違うのよ。根本的に。
「アッシュさんの事を言っているのかもしれませんけど、比べても無駄ですよ。
違い過ぎますし」
「そう言ってるヤツも、十分に違い過ぎるんだけどね?
ヴァンパイア族の中でも、血の武器を使って戦闘が出来るヤツなんて滅多に居ないはずだろうに」
「そうですよ。
昔、血の武器で切るなんて無理だって聞きましたけど?」
「………」
ラブもそういう意味では相当に上位なのよねえ。
自分自身の事だから、そういう自覚が無いんでしょうけど。




