05-24-0210
Side:ジャネス
統率者のウォーターリザードを倒したあたし達は、オスの死体を取り出して<混沌の種>を取り出すアッシュを警護する。
一応は無防備な状況だからね、当然ながら警戒しておく必要があるんだけど………
「うわぁ…………この鱗すごく硬い。まさかここまでの硬さだとは思わなかったよ。
私達の武器が効かなくて当たり前だと思う。
むしろ、これだけのモンスターをよく倒せたよね?
私達だけだったら何も出来ずに全滅してたよ、絶対」
「さっきの感じだと逃げられる可能性も低いしね。
確かに文句なく殺されてるよ。
まさかステージ2の限界や、ステージ3までいってるウォーターリザードがここまで強いとは思わなかった。
かつて普通のウォーターリザードには勝った事があるのにさ」
「あの時も残念ながらジャネスが突っ込んでたから、私達はそこまで前に出てなんていなかったけどね」
「そうだったかな? あんまり覚えてないけど、大変だったのは記憶にあるよ。
あれが何の変哲も無い普通のウォーターリザードだっていうんだから、なんかモンスターと生物の差って理不尽なくらいにないかい?」
「仕方がないと思いますよ。
代わりにモンスターは本能に忠実ですし、私達ほど考えたりとか出来ないじゃないですか。
何も考えられず本能のままに生きるって、楽かもしれませんけど……」
「あんまりしたい生き方じゃないね。
私は遠慮するかな、弱くても今の自分が好きだし」
「アタシは嫌いじゃないってところか。
とはいえモンスターのような生き方は御免こうむるけどさ」
誰だってそうだと思うよ。
あたしだってモンスターのような生き方は御免さ。
流石に生き物として生まれた以上は、あんな生き方なんてしたくない。
仮に邪神の欠片を食ってステージ3まで昇っても、変わらず本能のままだ。
だからそこは変わらないんだろうけど、そこが変わらない以上はお断りだよ。
何よりあたしは今のあたしを好んでいるし、コレで良かったと思ってる。
未だ兄には会ってないけど、最近は銀級になっても会う必要は無いかなって気がしてるんだ。
銀級になって兄を探してる間にマーヤが抜け駆けしてたら、悔やむに悔やみきれないしさ。
そういう意味でも、今のあたしは好きな方に入る。
何と言うか………凄く女をしてるって感じがするし。
「ふぅ………<混沌の種>はこれで終わりだ。
足の付け根と腹側と首ぐらいしか切ってないから、おそらくはそこまで文句は言われないと思う。
ちょっと倒す時に傷つけてるが、これは許容範囲内だろう。おそらく」
「どうかしら?
厳しめに査定してくる所なら文句を言ってくるでしょうけど、甘い所なら気にしないんじゃない?
とはいえステージ3の方が綺麗なのよねえ。殆どアッシュしか手を出してないから」
「まあ、それに関してはどうしようも無いさ。
まずは倒す事、それが第一だ。
綺麗に倒そうとし過ぎて誰かが殺されたら、それこそ悔やみきれないからね。
それに比べればマシだよ」
「それは確かにそうね。
……さて、どうする? このまま統率者を探す? それとも一回帰る?」
「どうだろうな?
まだ緊張感は抜けていないと思うが、さっきのが予想外に強かったからな。
一回戻って気を抜いた方が良いかもしれん。
皆はどう思う?」
その後、あたし達も色々と意見を言ったけど、最後は帰る事に決まった。
あんまり根を詰め過ぎても失敗の元だし、余裕のある間に帰るっていうのはハンターの常識だ。
行きと帰りの両方を考えなくちゃいけないからね。
「ああ。
新米の時は行きの事ばかり考えていて帰りの事を考えてなかった。
懐かしいけど、ああなった時の帰りは地獄だ」
「注意力は散漫、全く気を付けていない所為で獲物を奪おうというモンスターに襲われる。
よくありましたよね。
新米の頃ってお金がありませんし」
「あった、あった。
あの頃からジャネスだけが、やたらに元気だったんだよね。
皆が疲れ切ってるっていうのにさぁ」
「そうそう。
荷車を牽きながら後2~3匹はいけるって言い出すんだ。
心の中では「勘弁してよ」としか思わないって、本当」
「心の中ではって言うけど、あんたら顔に出してたじゃないか。
アレだけ嫌そうな顔をしてりゃ誰だって分かるっての」
「それぐらい皆が疲れてたんだよ。
一人だけ元気が有り余ってる感じだったし、さっきもなんか凄い突きを繰り出してたしさぁ。
ジャネスは解散してからの方が強くなってない?」
そう言われると、ちょっと困るんだよねえ。
あたしもそれを理解してるし、何だったらアッシュに会う前と今が大分違うんだよ。
もちろんアッシュのやり方を真似たり、あたし流にアレンジしたりしてるけどさ。
その御蔭なんだよね。
「アッシュの見様見真似とかしてるからじゃない?
そのアッシュも金級の真似をしてるんだっけ?」
「ああ、デュジュ殿という王都近衛騎士団の方だ。
一度しか会った事は無いが、その時に微弱な【身体強化】を続けるというのを教わった。
まあ、教えてくれたのは銀8級のハバン殿だったがな」
「銀8級でハバンって言ったら、王都専属ハンター<黒影のハバン>じゃないか。
知り合いだったのかい?」
「私がハンターになってから、基礎を教えてくれたのがハバン殿だ。
もともと私は違法な奴隷闘士だったのだが、そこの情報を奪って壊滅させたのがハバン殿だった。
その後、暇な時にちょこちょこ教えてもらっただけではあるが」
「へぇー! それでも十分じゃないか?
孤高を気取ってるとか、恰好をつけてるなんて嫉妬もよく聞かれるよ。
でも気取ったり恰好をつけてるヤツが上がれる級位じゃないんだよねえ、銀8級なんてさ」
「そうそう。気持ち悪い嫉妬をしてるヤツって多いんだよ。
特に<黒影のハバン>に対してはさ」
「それはおそらくハバン殿が他者を信用しないからだろうな。
とにかくハバン殿は他の者を信用しないのだ。
信用しているのはマスターやサブマスターのような極僅かな者だけ。
他者を信用しないんで恋愛もせず、女性に好まれるのに風俗に通っていたくらいだ」
なるほど。女を信用していないから、金の関係の女しか抱かないって事だね。
………あれ? 王都のマスターもサブマスターも女だろ?
「王都のマスターとサブマスターは何度も危ないのを助けてもらったらしい。
だから信用しているし信頼しているのだが、それ故に恋愛対象にならないという感じだ。
昔の奴隷仲間にも似たようなのは居た。
元兵士だった男だが……」
「命を助けてくれた相手が異性だと、なかなか恋愛には発展しないって聞くね。
ハンターもそんな感じのが多いらしい。
命を助けてもらった恩ある相手って形になって、恋愛をする相手じゃなくなるんだそうだよ」
「そういうのは仕方がないのでしょうね。
救ってもらった相手だからこそ、そういう目で見られない。
そこには尊敬というか、敬いというものがあるんだと思います。
でもそういう状態からコロっといくのも恋愛ですから、なかなかどうして難しいですよねー」
シャムナのヤツ、こっちを見ながらニヤニヤしやがって……!
バレてるのは分かってるけど、なんかムカツクんだよ。その顔。
「それよりも統率者を狩った所に居たんですから、少しぐらい級位って上がりますかね?」
ウェリムスが別の話題を振ったので、その後は当たり障りのない会話に終始する事が出来た。
それにしても面倒な事を言ってくれるよ、まったく。
こいつらは知らないから適当に言えるんだろうけど、アッシュは貴族女の相手を無理矢理させられてたんだ。
あんまりいい思い出が無いんだから、上手く話をしなきゃいけないんだよ。
まあ、マーヤが物凄い顔で見てたからこそ、ウェリムスが話題を変えたんだけどね。
実際、あの時のマーヤは無表情の極みと言えるような顔をしてた。
ただ雰囲気だけが猛烈に怖かったから、おそらくアレこそが銀10級の圧なんだろうね。
あんなの知りたくもなかったけど。




