05-20-0206
Side:ジャネス
「ふう、やっと終わったかい。
アッシュが予想外に手こずったって言うか、まさか2体目の統率者が下っ端を嗾けるだけだなんてねえ。
チラチラとは見えてたけど、必死になってたから相当アッシュに怯えてたんだと思うよ」
「それはそうでしょう。
あんな馬鹿げた音で、しかも一撃で敵を叩き潰す様なんて見たら、誰だって怯えるわよ。
簡単に頭が潰されて死ぬんだもの、それに恐怖しない者が居ると思う?」
「そうそう。
流石にシャレにならない一撃だし、あんなの見たらこっちまでブルっちまうよ。
まさかあそこまでだと思わなかったし、そもそも灰色の棍棒ってなに?」
「私も聞きたい。
その灰色の棍棒って大丈夫なの?
昔、なんとか将軍が使ってたってヤツと似たような物じゃないよね?」
「流石にそれは無いのではないかと思いますよ?
えっと、確か蛮族将軍とか呼ばれてた方だと思いますが………」
流石に灰色の棍棒って言ったら、蛮族将軍の棍棒を思い浮かべるよねえ。
アレは凄く有名だし、聞いた事があるヤツも多いだろうからさ。
「蛮族将軍の棍棒は邪獄樹という危険な木で出来ていると聞きますし、流石にそれと似たような物は無いと思いますよ。
それに盾だって同じ色をしていますから、もっと可能性は無いでしょう。
そもそも蛮族将軍が暴れ回る理由こそが邪獄樹です。
ですがアッシュさんは暴れていません」
うんうん。普通はそう思うんだよ、普通は。
あたしもマーヤもラブもラフィルも知ってるから、何とも言えない顔をしちまうけどね。
とはいえ普通はあんた達の考えで間違ってないんだよ。
「なんでジャネスはアタシの方を見て優しそうな顔をするのさ。
意味が分からないんだけど?」
「ジャネスだけじゃなく、他のもそうみたいだけど?」
「どういう事さ?」
「まあ、簡単に言えばだけどねえ………アッシュが持ってるのは蛮族将軍の棍棒だよ。
完全無欠に本物の、蛮族将軍が建国王の下で振るってた棍棒さ」
「「「「「「ええーーーっ!?」」」」」」
まあ、驚くのはもっともなんだけど、アッシュ達は興味なしって顔をしてるね。
まあ、あたし達にとったら当たり前の事だからだけど。
「とりあえずドーヴァルの睾丸を布袋に詰めていこう。
ラブとラフィルはすまないが手伝ってくれ。
後で指環を使えば綺麗になるから」
「分かりました。代わりにコレの報酬は全てぼく達のもので。
……いいですよね?」
ラブはマーヤにそう言うけど、マーヤはさっさと飛んで逃げてる。
なので上の方から声が聞こえた。
「いいからさっさと終わらせなさい。
そもそもドーヴァルの死体なんて、同じドーヴァルぐらいしか食べないでしょ。
だから黒い箱で消してもいいわよ」
「いや、死体は放置しておく。
一応はモンスターが食うかもしれないし、私達が知らないだけかもしれないからな。
とにかく集めよう」
そう言ってアッシュ達は睾丸を集め出した。
あたしはそれなりにお金を持ってるし、無理してドーヴァルの睾丸を集めたいわけでもない。
ラフィルはあんまりお金が無いし、ラブはなんだかんだと言って本で減ってる。
だからお金を稼ぐ必要があるんだし、お金が欲しい者が頑張ればいいのさ。
「それで、アレは本当に蛮族将軍の棍棒なのかい?
流石にそれは信じられないんだけどね。
たしか蛮族将軍の棍棒といえば、王城の宝物庫に保管してあるヤツだったはずだ。
それをどうやって手に入れたっていうのさ」
「そんなもの、王様に下賜されたに決まってるだろ。
当たり前の事を言うんじゃないよ」
「えっ? 王様に下賜されたの?
………本当に?」
「そうだよ。
アッシュは鉄級への昇格試験を王都で受けたって言ったろ? その時の依頼で色々とあったのさ。
で、その功績とアッシュが<混沌の種>を消せるってトコに着目した王様が、持てるなら下賜するって形で持ってこさせたそうだよ」
「へー………あれ、本物なんだねー。
っていうか、本物なのに使うんだ?」
「武器なんだから使うに決まってるだろ。
歴史的な遺物かもしれないけど、蛮族将軍が「使えるヤツに渡してくれ」って言い残した棍棒だよ?
アッシュは使えるんだから、そりゃ使うさ」
「武器ですから分かりますけど………壊れたらどうするんです?」
「どうもしないだろ。捨てて終わりか、それとも壊れましたって言って返すしかないさ。
武器なんだから、最後にそうなるのは当然だろうに。
それに、あの武器が壊れるってなったら、そりゃ相当の相手だよ?
じゃないと壊れたりしないさ」
それこそワイバーンとかの亜竜種でもない限り、あの棍棒が壊れるなんて事もないだろう。
そもそも亜竜種は数が多いとはいえ、その皮も鱗も骨もシャレにならない硬度をしてる。
更にアレらの素材は全てが使えるからねえ。壊れても献上すれば許してくれるだろうさ。
「それは当然でしょう。
蛮族将軍の棍棒は暴れてしまうような物ですが、ワイバーンの素材なら誰でも使えますからね。
差し引きで言えば、相当のプラスですよ。
ウィルムやドレイクならもっとでしょうが、アレらはワイバーンより遥かに強いし賢い。
まず勝てるかどうかという問題になります」
「それはワイバーンも同じだと思うけど、それでもワイバーンなら倒した記録もそれなりにはある。
だから可能性としてはあるかな?」
「どっちにしたって、銀級を大量に集めなきゃ勝ち目はないよ。
ウィルムやドレイクは飛びづらいと言っても、地上でさえシャレにならない強さ。
ワイバーンは飛んでる状態なのを、まず落とさなきゃいけない。
どっちも難しいとしか言えないね」
「そもそも竜種に簡単に勝つなんて無理ですけどね。
最悪は軍でさえ蹴散らされて終わりなのが亜竜ですよ?
その上の竜種に近い者など、もっと無理でしょう」
普通はそうなんだけど、アッシュとなると勝てる可能性が出て来るんだよねえ。
マーヤがヒドラやグランリザードを倒したいって思ってたそうだけど、そっちも出来るんじゃないかと思うぐらいさ。
特にアッシュは一撃だけど、五十万分の一を解放できる能力がある。
一度使うと当分使えないらしいけど、それがあれば確実に勝てるはずだ。
もちろん当分がいつかは分からないから、使わないで勝てるならそっちの方が良いんだけどね。
それでも使わなきゃ勝てないって時には使ってくれるだろ。
「全ての睾丸は切り取って集めたし<混沌の種>も終わったな。
皆、そろそろ移動しよう。ここで話していても仕方ない」
アッシュから声が掛かったので、あたし達は移動する。
どこにモンスターが群れてるかは分からないけど、なるべく多くの群れを探し出し統率者を始末していかなきゃいけない。
それがあたし達のやるべき事だからだけど……
「あんた達。戦闘中にマーヤに言われてたけど、まだその悪癖は直ってなかったのかい。
前々からずっと言ってたろう、仲間を頼りにすんなって。
良い意味で頼りにするなって話じゃなく、悪い意味で頼りにするんじゃないよ」
「良い意味なのは、出来ない事は皆に相談したり任せたりですかね?
では悪い意味は?」
「自分で出来るのに面倒だからと仲間に放り投げる、または仲間に任せて自分でしようとしない。
どっちかってところだろうけど、さっきのこの子達は自分でしようとしないってところね。
だから戦闘中に周りを見てないのよ」
「自分の目の前だけを見て、周りを確認しようとしない。
お互いにそんな感じでしたが、仲間を頼る弊害が如実に出ていました。
普通は自分で周囲に気を配りながら戦うものです」
そう言われて下を向く元のチームメンバー。
散々あたしが言って来たのに、面倒だからか変わる事は無かった。
今思ってみりゃ、こいつら本当に鉄6級の実力があんのかねえ?
鉄級には自力でなってるんだけど、その後に手を抜いてきてたのかもしれない。
あたしは常に前だったから、気づけなかったんだろう。
こいつらが楽をしてたって事に。




