05-17-0203
Side:ラブ
ぼく達は今、宿の裏庭で体を洗っています。
夕方前ですし、この後は酒場に夕食を食べに行きますからね。
…………それはいいんですが、なぜ皆さんここに居るんでしょう?
どう考えてもおかしいと思うんですけどね?
「それで、町中に出ていた間の情報収集はどうだったんだ?
私とラブの方はそこまで重要な情報は得られなかったが、そっちには何かあったか?」
「特に無かったわ。
裏の組織の話も聞けなかったけど、危ない薬が出回ってる事だけは、噂であるみたい。
ただし商隊なんかが残していった情報みたいだから、真偽のほどが不明なのよ。
そういう情報を撒きたい奴らが残していった可能性が捨てきれないし」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
アッシュさんはマーヤさんと話しながらですから、気にしていないというか気づいてませんね?
女性の方々の視線がアッシュさんの股間に集中してるんですが………
何かこんなの前にもあったなぁ、と思い出しました。
どこでも変わらないのでしょうか?
「危ない薬の噂はあるが、真偽が分からないとなると厄介だな。
裏の組織の連中もどこに居るか分からないし、案外と町や村には居なくて商隊のフリをして動き回っている可能性もある。
それで売り歩いているとかな。もしくは町に入れている?」
「そこはあるかもしれないわ。
町に入れている者の手引きで、馬車内を調べもせずに入られている可能性があるわね。
無いとは言い切れないところが厄介かしら。
とはいえ徹底するのと、善からぬ事をしている兵士を見つければ色々発覚しそうだけど……」
「どううだろうな? 当たり前だが甘くないだろうし、あまり楽観的に考えても良くないとは思う。
ああいう組織は大抵において、切り捨てる為の下っ端を用意しているものだと聞く。
その下っ端に掛かりきりになっている間に本命には逃げられるかもしれん」
「確かにそれもあるわねえ。そうなると一筋縄じゃかないかぁ。
とはいえ統率者が先だから、そっちの情報が集まって踏み込まなくちゃいけないってなったら困るんだけど」
確かにいきなりそんな事になったら困りますね。
っと、アッシュさんの背中を洗いましょう。
僕の背中は既にアッシュさんが綺麗にしてくれましたからね。
ゴシゴシとしていくのはいいんですが、やたらに見られているのはどうにも落ち着きません。
今は背中を向けているだけだというのに、目線がどこを向いているのかが分かるくらいです。
アッシュさんって、その辺りだけ鈍感と言いますかワザと気付かない感じですかね?
もし本人が本当に気づいていないのなら、神様に何かされているのでしょう。
そう考える方が妥当です。
流石にこの視線の圧が分からないアッシュさんじゃないはずですし。
背中を洗い終わったので流し、綺麗に水気を【集魔法】で集めたら服を着て行きます。
それなりに体を洗うのは時間が掛かりましたが、綺麗になったので酒場へ。
女性陣のガッカリ感が感じられますが、何をしているのか理解しているのでしょうか?
酒場に行って食事とお酒を注文して待ちます。
周りでは体が治った方々がこの時間でも大騒ぎしていて、五月蠅くて仕方がありません。
とはいえ大きな怪我が治ったのですから気持ちは分かります。
気持ちだけは。
「五月蠅いわねえ。
気持ちは分かるけど、もうちょっと静かに出来ないかしら?
騒いでるあんた達だけじゃないのよ、客は」
「分かってるだろうけど、仕方がないって諦めるしかないさ。
もう動かない筈だった手足が動くようになったらね、そりゃこうもなる。
マーヤに御礼を言う為に行列を作られるよりはマシだろ」
「げっ!? そんな事をされたら逃げるわよ。面倒というか最悪じゃない。
ゆっくりと食事ぐらいさせなさいよ」
「喜びで話を聞かなそうな者達ばっかりですから、本気でしかねないと思いますけどね。
大人しく目立たないのが一番いいのでは?」
「そう「おっ、治してくれた妖精族の子だぞ!!」………マジで?」
マーヤさんがゲンナリした顔になったのも分かります。
酔っ払ってる連中がマーヤさんの所に来て、「ありがとう」を連発してきてるんです。
それも行列を作り、挨拶が終わったら最後尾に回っているみたいで………
いつになったら終わるんでしょうか? まさか、この者達が納得するまで?
そんな面倒なのにはつき合っていられません。
ぼく達は運ばれて来た食事を食べますが、ついに怒った酒場のマスターが追い払ってくれました。
喜びに水を差すのもアレなので、注意しにくかったんですよね。
「すまねえな。
あいつら昼過ぎから羽目を外しちまってるんだ。それが今でも終わりやがらねえ。
よほど嬉しかったのは分かるんだがよぉ、物事には限度っちゅうもんがあらぁな。
またバカやってたら出てくっから言ってくれ」
「ええ。助かったわ、ありがとう」
マーヤさんがそう言うと、酒場のマスターは戻って行きました。
自分も何かあった時には治してもらおうという魂胆かもしれませんが、それでも助かった事には間違いありません。
それぐらいにしつこかったですしね。
再びまた騒ぎを起こされる前に食事を終えたぼく達は、そそくさと宿に帰って休みます。
雑魚寝部屋とはいえ何も無い訳ではなく、敷いて寝る為の毛布ぐらいはあります。
寒い時は掛けて寝る事になるでしょうが、その場合は掛け毛布が追加で部屋に置かれるみたいですね。
流石に寒季も敷毛布だけでは厳し過ぎますから、当たり前と言えば当たり前ですけど。
今は問題ありませんので敷毛布を敷いて寝ようとしたのですが、雑魚寝部屋の場所決めをしていませんでした。
この部屋は長方形の形になっていて、横幅ではなく縦幅が広い形になっています。
つまり入って来たドアは長方形の底辺部分です。
なので入り口に一番近い所でアッシュさんが寝る事になりました。
当然ながらその横はぼくです。
ぼく自体はどこでもいいのですが、マーヤさんかジャネスさんだと揉めますし、ラフィルさんだと御二人が不満を持ちそうなんですよね。
結果的にぼくしか居ないわけで、それなら御二人も納得するようです。
ぼくとしては揉めないなら何でもいいですので、さっさと敷毛布の上に寝転がって寝ようと思います。
そもそもこんな事で揉めるなんてバカバカしい話でしかありませんしね。
それじゃあ、おやすみなさい。
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次の日。
朝起きてアッシュさんから指環を借りて綺麗にしたぼくは、本を読んでゆっくりと寛いでいます。
まだぼくとアッシュさんしか起きていないので、ゆっくりとする余裕がある。
そんな中での本を読むのも集中できていいものです。
アッシュさんは裏庭で水を汲み替えると言って出て行ったのですが、すぐに戻ってきました。
なので小声で話します。
「何かありましたか?」
「水が腐ってるだろうから入れ替えようと思ったのだが…………どうにも変化が無い。
もしかしてだが、あの異空鞄の中に入れた物は腐らないかもしれない。
今日の獲物を異空鞄に入れたら、それなりの期間放置してみようと思う」
「もし腐らなかったら、とんでもない鞄ですね」
「ああ。リビ殿が優遇しすぎと言っていたが、案外この鞄の事だったのかもしれん」
「入れた物が腐らないなら食事を沢山入れておけば済みますし、それならいつでも食べられますよ。
ただし確実に怪しまれますし、余計なのに目を付けられるでしょうけど」
「だな。結局は他の者と変わらない使い方をした方がいいだろう。
可能な限りバレないようにした方がいい」
「ええ。
中には自分が手に入らないならと、こっちの命を狙ってくる者が居ないとは限りません。
それかコレクションの為だけに奪おうとする者も……」
碌な者ではないですが、世の中にはおかしな蒐集家とか居ますからね。
気を付けないといけません。




