05-16-0202
Side:マーヤ
アッシュとラブが部屋を出たので、さっさと脱ぐように言う。
にも関わらず何故か脱がない臭いヤツ。
恥ずかしいとかどうでもいいから、まず臭いのを何とかしようとしなさい。
まったく本当に、もう。
「そんな事を言われてもですね、恥ずかしいものは恥ずかしいのですよ」
「そんな恥ずかしがるような体でもないんだし、いったい何を……
……って思ったけど、そういやあんた騎士爵の娘だったんだっけ?
なら庶民みたいに裸でも気にしないって事にはならないかねえ」
「騎士爵なんて村長や町長に毛の生えたものでしょ?
貴族からは貴族扱いされない程度じゃない。
実際に村1つとか2つだから、貴族とは言い辛い部分もあるし。
一応は国に認められた爵位だけどさ」
「魔法爵とか交易爵も変わらないけどね。
それでも各方面の優秀なのを貴族にしていかないと厳しいんだろうさ。
ま、アレらは領地を貰える爵位じゃないけども」
「それぞれの分野で力のある者ですからね。
他国との交易を任され、利益を上げて国に納める。
とはいえ自分の取り分もあるから、それなりに儲かるらしいわね。
駄目なら容赦なく取り上げられるらしいけど」
「そりゃ仕方ないよ。商売をやるにしたって、後ろ盾が国とギルドじゃ全然違うからね。
裏が国じゃ大半は黙るしかないし、他国との交易なんて国が後ろ盾じゃないと大々的には出来ない事さ。
そもそもローデオンとの酒の協議だって交易爵がやってるし」
「「「………」」」
もしかしてあの件、交易爵も絡んでる?
吹けば飛ぶような貴族位ともなれば、裏切る可能性は十分にあるわ。
それか………元々神殿に関わりのあるヤツだったかよ。
その辺りはよく分からないけど、可能性としては無いわけじゃない。
神殿に深く関わっているヤツなら色々な事を知っているだろうし、そっちからもデットリス伯爵を唆した可能性はあるわね。
あくまでも私の想像だから、証拠なんて何も無いけど。
「うわ! なんですかコレ? 凄い!!」
「凄いのはいいから、さっさと綺麗にしな。
それは自分と触れている物にしか影響は無いんだ。あんたの汚い服はあんたが綺麗にするんだよ。
あたし達も我慢してんだから、さっさと終わらせてくれないと困るんだ。
後ついでに剣とかも含めて綺麗にしておきな」
「私の双剣は<ホーンドベアウルフ>の角ですから錆びる事はありませんが、汚れたままもアレですからね。
綺麗に出来る時に綺麗にしてしまいましょうか」
<ホーンドベアウルフ>って、あの熊か狼かよく分からないヤツね。
熊ほどの大きさはしていないけど狼としては大きい。
体は熊なのに首から上は狼にソックリで、額に大きな角が生えてる。
それが<ホーンドベアウルフ>というモンスターよ。
なかなかに変なモンスターだけど、実は肉がそれなりに美味しい事で知られてるのよね。
なので狩られる事が多いし、その関係で素材は多く出回ってる。
剣にするには短いでしょうけど、双剣なら作れる長さぐらいの角はある。
まあ、実際に双剣に出来るとなれば、おそらく大きめの個体なんでしょうけどね。
それでもモンスターの素材を使った武器としては安い部類に入るかしら?
とんでもないモンスター素材だと天井知らずの値段になるし。
「流石に<ホーンドベアウルフ>の素材では、そこまでの高値にはなりませんね。
というか、恥ずかしいのでさっさと終わらせます」
そう言った後で服を脱いで裸になり指環を使うんだけど、結構ボロボロと汚れが下に落ちるわね。
慌てて<烈華>の面々が逃げたわ。
気持ちは分かるけど、後でアッシュが【集魔法】を使って綺麗にするから一緒なのにね。
仮にわたし達に付いたとしても、後で綺麗になるから特に問題無いわ。
顔に付いたりしたら払うけど、そもそもそこまで近づいてないしね。
だから特に問題は無い。
「こ、こんなに汚れていたのですか………それは臭いはずです。
と言いますか、いきなり綺麗になったうえに毛の中にあった汚れまで綺麗になっているので助かります。
これ、凄く綺麗になりますね。いつもなら毛に絡んだ汚れは厄介なんですが……」
「そんなに? ………ジャネス、アタシも使わせてもらっていいかい?
そこまで汚れてはいないだろうけど、毛に絡んだりしてるのがあれば落としておきたいんだよ」
「好きにしたらいいんじゃないかい?
そこまで長い時間が掛かる訳でもないだろうし、全身に毛の生えてる種族は大変だろうからねえ」
「確かにエフィシアやサンディは大変だろうね。
私やギンリカは気楽なもんだけど」
「オークやゴブリンもそうだけど、髪とかぐらいしか毛が無い種族は楽でいいとは思うわ。
代わりに寒季に寒いらしいけど」
「そりゃね。どっちもなんて事にはならないよ。
とはいえ、あんたらだって今は夏毛なんだから、そこまで暑くないだろうに。
換毛期はまだ来てないだろうし、まだまだ短いじゃないか」
「それでも暑いだろうけど、寒季のモコモコよりは薄いんだからマシでしょ。
あのモコモコは毛の長い獣人特有だけど、寒季のあの綺麗なモコモコは触れるの好きなのよ。
汚いのはなんだかベッタリしていて触る気にもならないけど」
いるのよねえ、面倒臭いからってそのままにしてる獣人。
せっかくのモコモコがドロドロで汚く、その所為で全くモコモコしてなくて手触りも悪い。
ああいう駄目な獣人は清潔にしている他の獣人を見習ってほしいわ。
「毛の長さとか綺麗さで争う訳じゃありませんよ。
とはいえ確かに綺麗にしていない寒季の獣人は、見た目も悪いですし嫌がられますけどね。
昔、数度だけ行った事のあるパーティーでも、そういう方は居ました。
が、実家よりも爵位が上ですから顔に出す訳にもいきませんし、大変なんですよ」
「貴族にはよくある出来事なのかもしれないけど、貴族の癖に綺麗にしてないのはどうなんだろうね?
一発で名前が地に落ちる気がするのに、なんでわざわざそんな事を許すのやら……」
「汚れていて汚いって致命的な気がしますが、それでも許されるんですね?
奇妙にしか思えません。プライドと面目の貴族がですよね?」
そういえばシャムナはウェリムスが男だと気づいていないのかしら?
鼠人族だから小さいし、見た目は少女みたいな感じだから分からなかったのかしらね?
気にしてないなら、わざわざ指摘しないけど。
「貴族と言っても色々居るというのと、全身の毛を完璧に綺麗にするには、お湯に浸かって綺麗にするしかないのです。
毛が長くない種族には分からないでしょうが、一般の者には絶対に無理であり、騎士爵家でも無理です」
「確かに大量のお湯を用意するのは難しいけど、そんなに違うものなの?」
「お湯で綺麗に洗い流してから来る上位貴族は、モコモコだけではなくフワッフワなのです。
アレを見たら高位貴族は凄いなと思いました。
それがこれなら簡単に出来るのですから、凄いとなって当たり前ですよ?」
そんな話の最中にもアフィシアやサンディが使って綺麗にしていった。
その御蔭かモコモコ感がちょっと出てる。
庶民がお湯に浸かるなんて出来ないんだし、何気にあそこまで綺麗になったのって初めてなのかしら?
妙に自分の毛を触ってるけど。
「まるで自分の毛じゃないみたいだね。
ここまで綺麗な毛になったのは初めてかもしれないよ。
換毛期でも肌の汚れの所為か、こんな綺麗な毛じゃないし」
「ですね。ここまで綺麗って凄いです………」
自分の毛に頬ずりしてウットリしてるっていうのは、流石にどうなのかしら?
見た目が悪いっていうか、絵面が悪いというか………ま、放っておきましょう。
憧れの毛になったって感じなんでしょうしね。
綺麗な髪になったら喜ぶのとあんまり変わらないと考えればねえ、変な事じゃないわ。




