05-14-0200
Side:ラフィル
シャムナ殿という治療を受けた双剣士の女性が、現在ラブ殿を質問攻めにしています。
ラブ殿の母親は<鋭血の双剣士>という名前の有名なハンターで、銀8級のハンターなのだそうです。
マーヤ殿よりも下みたいですけど、潤沢な魔力と【魔術】が使える方と一緒にしてはいけませんね。
それに【妖精のキス】という反則的な能力もありますし、それらが使えるマーヤ殿は相当に強いはずです。
そもそも強制的に相手から魔力を奪えるというのはズルいでしょう。
古くから妖精族が使えた能力ですし、私が生きていた頃もそうでしたけども。
とはいえ、その能力が治療や浄化に活かされるなら悪い事ではないのですよね。
マーヤ殿は【生魔法】使いですから治療にも使えますし、そういう意味ではむしろ持っていてありがたいと言えるでしょう。
魔力が枯渇するまでと、他者から魔力を供給してもらえば治療が続けられる。
この差はとんでもなく大きいものです。
戦争や紛争などでなくとも、天災などで怪我をしたり重傷を負ったりなどします。
それらを考えると、ありがたい限りなのですよね。
むやみやたらに治療はされないでしょうが、それでも使えるというのは使えない事に比べて大きすぎる違いがあります。
「もう勘弁してもらえませんか?
そもそも母はあまり屋敷に居ないのですよ、ハンターの仕事で。
だからぼくも詳しくは知りませんし、ですので母の話なんてほとんど出来ないんです」
「帰って来ないならどうしようもないね。
それにしても、アンタが<鋭血の双剣士>の息子だとは思わなかったよ。
世の中ってのは案外と狭いみたいだ。その事にちょっと驚くけども」
私もそう思います。
まさかアッシュ殿が三柱の神の神子だとは思いませんでしたから。
それは驚くべき事なのですが、口に出来ないのが残念です。
とはいえ迷惑を掛けたいわけではありませんので、私も口や態度に出す事は致しません。
ですので心の中で祈りを捧げているのですが、最近アッシュ殿はそれに気づいているような気がします。
何も言って来られないのですが、祈りを捧げているとチラリとこちらを見て来る事があるのですよね。
なのでおそらくは……
神子に祈りが届くと言うのは素晴らしい事なのですが、その反面嫌がられている可能性があるので控えねばなりません。
祈りが弱ければ気づかれないかもしれませんので、少し工夫してみましょう。
上手くいくかもしれませんし。
「とにかく! 貴女の憧れは横に置いておきなさい。ラブも迷惑してるんだからさ。
それはともかく回復したんだから働いてもらうわよ。
この周辺には統率者が多いらしいし、あんた達を治療したのはその為なんだからね」
「武器の無い者はハンター協会の訓練所の武器を借りてくれ。
切れなくてもモンスターを殴り殺すには十分だろう。それでお金を貯めて改めて武器を買えばいい。
治療費の支払いはその後でも構わないが、とにかく統率者を何とかするのが先だ」
「ええ、それは私達もよく分かっているわ。
あまりにも統率者が多すぎるし、その統率者が強すぎるのよ。
鉄9級の私でも苦労するくらいだし、ここには私以上の階級の者は居ないから助かるわ。
そちらには少なくともジャネスが居るし」
「あたしは鉄10級だから、あんたと大して変わらないよ。
マーヤは銀10級だけど、これは【生魔法】込みの評価だからね。
それでも戦えない訳じゃなく強いんだけどさ。
あいつらは鉄6級だし、新しいのはまだ銅1級だ」
「こちらの方々は、どうなのですか?」
私はともかく、アッシュ殿達は実力者の領域に入っていますからね。
十分に戦えると思われると思うのですが……他の者がどう評価するかは難しいところです。
「アッシュとラブは鉄2級。ラフィルは木の4級だね。
これは登録したばかりだからだけど」
「なるほど、それでは実力のほどは不明とならざるを得ませんか。
それでも只者では無さそうな雰囲気と言いますか、額に目がある種族なんて初めて見ました」
「そこら辺はツッコまないでいてくれると助かるよ。
あたし達だって説明できないし、聞かれたって困る事でしかない。
何故ならラフィル自身も説明できないからね」
「自身で説明できないというのも凄いですけど、あの夢と繋がりがあるのは何となく分かります。
あまりにあまりな連中でしたし」
「まあねえ」
私の話などされても面白くなりませんから、話題を変えた方がいいですね。
「その話はともかくとして、この近くで統率者が居そうな場所を教えてくれない?
明日から統率者を探して回らなきゃいけないし」
「統率者が居そうと言うより、モンスターの群れが居そうな所でしょう。それなら分かります。
一つは南東に行った森の先。
大きな池があって、よく水を飲みに来ているモンスターを見ます。
あそこなら近くに群れがある可能性は高いでしょう」
「水は絶対に必要だから、川の近くなんかも多いね。
他には実の生る木が多い所とかも縄張りにしてる事は多いかい。
それと肉が食える近く、穴兎や穴鼠とかの巣になってる場所の近くも多いよ」
モンスターも魔力だけでは生きられませんから、当然でしょう。
それでも毎日食べたりする訳ではないので、そこまで数が減ったりはしません。
ドラゴンの系統に至っては食事を滅多にとらないと聞きます。
その中でも賢竜と呼ばれる者達は、会話をする事が可能だと噂がありました。
それと、ドラゴンもまた妖精族と同じく体の大きさを変えるという言い伝えもあります。
私自身はドラゴンと会った事もありませんが、会った事があるという者の手記などは多く読みました。
ただし本当の事かは分かりませんし、滅多な事では姿を現さないとも書かれています。
そのように言われているので、巷間には真偽不明の噂が多く出回っていました。
ドラゴン関係の噂は娯楽のようなものです。
「国境の近くには住みつくような所が無いのかい?」
「私もそうですけれど、この町の者もそこまでは行かないので分からないでしょう。
それに国境の砦から救援依頼などは無いので、おそらく向こうは無事なのだと思います。
それはつまり……」
「狙われてるのはこっち側って事かい。
統率者を生み出して嗾けるって事は、何かしらを狙ってるんだろうさ。
それが何かは知らないけど」
その時<烈華>の面々がジャネス殿をチラリと見ました。
そしてそれを見たシャムナ殿は何かを納得したようです。
猫人族ですから勘が良いのでしょうか?
それとも鉄9級にまで至っている事の証明でしょうかね。
流石に愚か者ではなれないでしょうし。
それでも<烈華>の面々は鉄6級という、一応上に上がる事が許されている階級なのですが………
「バカどもが余計な事をしてくれたのは置いておくとしてだ。
あたし達も確証があるわけじゃない。少なくとも予想をしているだけさ」
「それは?」
「あんたにとっては驚きだろうけど、今のあたしは<烈華>のメンバーじゃない。
リーダーだったけど、毒の後遺症で右腕が動かなくなってね、それで解散したのさ。
ま、こいつらは再結成してたけど、今のあたしはこっちのメンバーだ。
特にチーム名はついてないけど」
「貴女がリーダーでなくなったら<烈華>は終わりでは?」
「そんな事は無いさ。そのうち誰かがリーダーになるだろ。
どのみち必要ならその役を熟せるようになる。
あたしだって必要に迫られて出来るようになっていっただけだ。
決して元々リーダーの才があったわけじゃない」
多くの方はそのようなものでしょう。
元々の才覚ではなく、自ら努力してその地位に相応しい者になる。
むしろ才覚だけでなり、努力していない者の方が危険です。
それならば苦労も知っている者の方が安定するでしょう。
それに上に立つ才覚があるかと、下の者が認めるかは別です。
上に立つ才と能があろうと、下につく者が認めなければ意味は無い。
それもまた、上に立つ者の才覚なのですから。
そういう意味で言うと、私達は自然にアッシュ殿の下に集まっています。
つまり才覚はともかく、下につく私達が納得しているということ。
それが一番大きいのです。




