05-13-0199
Side:マーヤ
わたしは順調にハンターどもの怪我を治療している。
治療費はツケにしておいて、とにかくハンターとして復帰させるのが先。
むしろ治療費は統率者と戦う事で返せというところかしら。
魔力は自分のも使ってるけど、アッシュのが大きいからね。
まだ大丈夫。
最悪はラブとジャネスにラフィルの魔力も借りれば何とかなるでしょ。
そう思いながら治療をしていると、突然ジャネスが大きな声を上げた。
「ああ! アイツかい!」
「どうしたのさ、ジャネス。急に大きな声なんかあげて」
「あんた達も忘れたみたいだね? あたしも思い出すのに暇が掛かったけどさ。
昔あたしに喧嘩を売ってきた、猫人族の双剣の女が居たろ。アレが確かシャムナだ。
<旋風のシャムナ>だよ」
「ああ! そんなの居たねえ。
ジャネスに喧嘩を売ってボッコボコにされたのがさ。
そもそも双剣って短いんだし、ジャネスの槍は短いって言っても双剣よりは上だ。
相手になるわけないのにねえ……」
どうやらシャムナっていうのとは知り合いというか、会った事があるって感じね。
ただし喧嘩をした相手ってだけみたいだけど。
とはいえ二つ名持ちって事は、それなりに上の者か実力者って事になるわ。
アッシュよりも下でしょうけど。
わたしが治療を続けていると、突然酒場のドアが大きな音を立てて開き、外から木の板に乗せられた女が連れられてきた。
「って、コレは酷いわねえ。
完全に右腕が千切れかけてるし、そのまま放置したってどういうこと?」
「シャムナさんがそれを望んだんだよ。
腕が無くなって双剣を握れなくなるなら死んだ方がマシだって。
それでこんな状態のまんまなんだ。
頼む! 何とか治してくれ!!」
「「「「「「「「「「頼む!!」」」」」」」」」」
「そこまで言うって事は何かあったんでしょうけど、何があったの?」
「シャムナさんはオレ達を庇ってウィンドブルの突進を喰らっちまったんだ。
防御したみたいだけど撥ね飛ばされちまって、その所為で腕がこうなって苦しんでるんだよ。
何とかウィンドブルは倒せたんだが……」
「角か何かで引っ掛けられたかねえ?
それで引き千切られたなら、この怪我の酷さも分かるってもんだ」
「うっ………うう………」
「駄目ね。
熱だけじゃなく、痛みやら傷口の膿からの毒で、意識が朦朧としているみたい。
治せるけど、これを治すとなるとあんた達の治療が遅れるわよ? それでもいい?」
「もちろんだ。
オレ達の怪我はここまで酷くねえし、一刻も早く治さねえとシャムナさんが死んじまう!」
「分かったわ。少なくともアッシュの魔力はここで終わりね。
次はラブかしら?」
「えっ? ………いや、まあ、構いませんけどね。
それでもこの数には足りないと思いますよ?」
「心配しなくてもジャネスやラフィルが居るわ。
それでも駄目なら、そこに都合のいい4名が居るじゃない」
「妖精族の事は聞いたけど、アタシ達もかい。
まあ、この状況なら文句も無いけどね」
わたしは文句がありそうな言葉を無視し、重体であるシャムナという女の治療を開始する。
それにしても双剣を握れないなら死んだ方がマシっていうのも凄いわね。
そこまで双剣に思い入れがあるのか知らないけど、筋金入りじゃない。
何と言うか、ジャネスと変わらない根性を感じるのはわたしだけかしら?
ジャネスも右腕が動かないのに治療方法を探してたし、こっちよりはマシだったけど諦める気は無かったみたいだしね。
それにしても怪我の状態が酷いからか、相当に魔力を消費するのが厳しい。
私の体を回復した時みたいに、長年に渡って蓄積したものの治療よりは魔力を消費しないけど、それでも結構な消費をしているわ。
おそらく膿んだ部分の治療なんかもあるからでしょうけど、今までの治療の中では一位や二位を争うぐらいに消費してる。
かつて重体で死にかけのヤツを治療した事があるけど、それと変わらないぐらいよ。
おそらく放っておいた所為でしょうけど、怪我を放置するのは良くないって改めて分かるわね。
「すぅ…………すぅ……」
「やれやれ、アッシュの魔力もほとんど空よ。
今までの治療分もあるから仕方ないんだけど、今度はラブの魔力で治療するわ」
「仕方ありません。とはいえ、今日は狩りに行きませんし構いませんよ。
それにしても傷跡がまったく分かりませんし、綺麗に治りましたね。
魔法の最中はうぞうぞと蠢いていてアレでしたけど、治った後は綺麗になってます。
………臭いですけど」
「膿んだ傷の臭いと腐っていた肉の臭いに、体を綺麗にしていない臭さが混じってるからじゃない?
その臭いのは気持ちよさそうに寝てるけどね」
「まあ、今はようやく眠れるようになったのだから、いいのではないか?
今までは痛みやらで碌に眠れていなかっただろうしな。
それでも耐えていなければ、二度と双剣は握れなかっただろうが」
そうね。私の使える【生魔法】も、腕を生やしたりなんて出来ないわ。
だから腕が付いていなければ治す事も出来なかった。
膿などの毒素は【生魔法】で治療できるのに、何故か他の毒は治療できないのよ。
不思議だけど。
何かしらの理由があるのかもしれないけど、出来ないのは出来ないんだから考えても無駄ね。
それより治療を再開しましょうか。
…
……
………
結局、一日で全員の治療は完了した。
とはいえ<烈華>の面々も使ってギリギリだったけどね。
アレらに関してはアッシュが奢るって事で決着したみたい。
まあ、賭けで勝ったお金があるから別に問題ないんだけども。
「それにしても疲れたわねえ。
怪我で腕が動かないとか、足が動かないとかが多すぎでしょう。
もしかして固まって戦ってたんじゃないでしょうね?
言い方は悪いけど、統率者との戦いでは普通広がるものよ?」
「じゃないと被害が大きくなっちまうからね。
それに隙を突いて攻撃する為にも広がってないといけない。
そこんところはどうなんだい? シャムナ」
実は治療が終わって食事とお酒を注文した辺りで起きたのよね、それでも睡眠不足って感じだけど。
ただ、それ以上にお腹が減ってるから起きたんだと思うわ。
たまに目を覚まして水を飲んでたらしいけど、食事はほとんど口に出来てなかったみたいだし。
「残念ながら、見ていないから分からないわ。
私は一番前で戦っていた所為もあって、後ろを見ている余裕なんて無かったのよ。
相手は統率者だし、何より走り回る相手であり角を振り回す相手でもあったから」
「まあ、ウィンドブルなら加速して突っ込んでるだろうしね。
そりゃ緊張感も高かったろうし、周りを気にしてる余裕なんて無いか。
総鉄製の盾でも持ってりゃ、吹っ飛ばされるだけで済んだんだろうけどさ。
そんなもん持ってるヤツは居ないか」
「当然でしょう?
流石に総鉄製なんていう重い盾を使う者なんて居ないわ。
すぐに疲れて上げられなくなるわよ。そんな重い物」
「だよねえ。
結果的に言えば仕方ないんだろうけど、反省出来る場所は探さないとね。
せっかく次があるのに、また同じ目に遭ったらバカバカしいだろう?」
「もちろんよ。
とはいえ剣が片方折れてしまったから、当分双剣士には戻れないけれど……
それにしても遠いわ。<鋭血の双剣士>には届かないかもしれない」
「は?」
「ああ、ラブの母親を目指していたのか。
私は会った事が無いので知らないが」
そういえばラブの母親って<鋭血の双剣士>だったんだっけ?
特に気にしていないっていうか、どうでも良かったからあの時流したんだけど、わたし<鋭血の双剣士>には会った事あるのよね。
昔だけど。
でもそこまで強いって感じはしなかったから、その後で強くなったのかしら?
それともラブを産んだ後で弱くなってた?
でも聞く話だと変わらないっぽいから、おそらくわたしが会った頃はそこまでじゃなかったんでしょうね。
伸びる者は十年程度で劇的に変わるし。




