05-12-0198
Side:アッシュ
「とりあえず一旦整理しよう。
マスターから言われたのは巡回狩人の業務、禁制の品に関する情報収集、そしてそれに付随する裏の組織の情報収集だと思われる。
裏の組織までは言われてないが、禁制の品に関して調べれば裏の組織の事も自然と調べられるだろう」
「ですね。
そもそも流しているのがそこですし、すでに盗賊団の一つは潰しました。
そして盗賊の親玉は兵士に引き渡しましたから」
「なに!? どこでだ!?」
「ここリュージャ辺境伯領に入ってすぐの所に盗賊団の塒があったのよ。
私達はそれを壊滅、そして生き残らせた盗賊頭を西の端の町の兵士に突き出したわ」
「まさか辺境伯領に入ってすぐに盗賊の塒があるとは思わなかったからねえ。
あれはちょっといただけないよ」
とはいえローデオン商国に行く者を狙うのであれば、ちょうど良い位置と言える気もするがな。
だからこそ、あそこに塒を構えていたのだろうし。
「確かにそうですね。
むしろ分かりにくい場所だったのかもしれません。
ここの近くなら隣国に逃げられますし、ならば分からなくもないのですが、あの盗賊団は真逆でしたからね。
隣の領地とは上手くいっていないのでしょうか?」
「そんな事は聞いた事が無いな。
おそらくは、たまたまそこに塒にしやすい場所があったのだろう。
それはともかく盗賊団を潰してくれたのは助かる。ここではそこまで手が回らんのだ。
そもそも辺境伯領の土地は狭く、村や町が多くない。辺境を守るのが主な仕事だからな」
「ここは東西に長いけどね。
北の部分が山だから仕方ないんでしょうけど、ある程度の収入を与えるには東西に長く下賜するしかなかったんでしょう。
辺境伯だって収入がないと守れないし」
「うむ。しかし人手不足は昔からでな。
特にここフェイジャは説明した通りに深刻だ。
統率者にやられる奴らが後を絶たんが、それでも統率者を倒さねば町に被害が出る。
駄目になったら恥も外聞も無く、辺境伯様に土下座をしてでも軍を出してもらうしかない」
「………それが目的って事は無いですよね?」
ラブが何かに気づいたのか言い出したな。
何を考えているのかは分かるが、あえて聞いておくか。
促す意味も込めて。
「ラブ、どういう事だ?」
「統率者を東で暴れさせてハンターを壊滅させる。
それでも統率者が暴れるなら領都に救援を要請するしかない。
そして領都の軍は統率者を狩る為に東へ。
という事は領都の防衛力は落ちるわけで………」
「まさか、領都を襲う事を計画してる?
ここ地方の町ならまだ分かるけど、領都がやられたら辺境伯の名が地に落ちるわ。
ひいてはガルセンツ王国の名も相当に傷つくわよ、確実に」
「それを狙ってるって事は、裏の組織の裏にはローデオン商国も絡んでるのかねえ?
それとも自分達の名を上げる為にガルセンツを攻撃してる?
……今のところはちょっと分からないか」
「それでも可能性があるとなれば大問題だぞ。
とはいえ、ここで話しているだけで証拠も何も無い事だ。
迂闊に情報として渡す事もできん。
与太話だと言われたら返す言葉が無いからな。
しかし昨今の統率者の増え方を見るになぁ……」
「ここで知られているかは分からないが、北のファゼード辺境伯家でも統率者は増えていたぞ?
おそらく<混沌の種>をバラ撒いた連中が居たのだろうが、未だに誰かは分かっていない。
もしかしたら……」
「我が国に対する攻撃って事か? 周辺国すべてが結託してる?
いやいや、これは幾らなんでも早計すぎる。
とはいえ北も東もとなると、流石に少々考えてしまうぞ」
「北ではファイアリザードまで出たものねえ。
あんな火山にしか生息しないようなヤツを、どうやって北の辺境まで持って来たのかを考えると……」
間違いなく【転移魔法】使いが絡んでいるだろうが、果たしてどこの【転移魔法】使いなのだろうな?
神殿か、それとも裏の組織か、はたまた可能性は低いがフリーの【転移魔法】使いか。
とはいえ【転移魔法】の使える者は、大多数が囲われるらしいからな。
フリーはまず居ないだろう。
「【転移魔法】使いか………
それにしても辺境を攻撃するのに【転移魔法】まで使うとは。
あまりにも大規模に過ぎると思うがな?」
「それでもファイアリザードが出たのは事実よ。何故なら戦った中に私達も居たもの。
統率者を2体も倒した帰りに村が襲われてて、連続での戦いだったからギリギリだったわ。
ねえ?」
「確かにアレはギリギリでしたね。
ぼく達ハンターも騎士団も疲労困憊なうえでのファイアリザードとの戦いでしたから。
本当に犠牲なく勝てて良かったと思いますし、奇跡みたいなものでしょう」
「統率者からの連戦で犠牲者が出なかった。それだけで讃えられるくらいだろうさ。
お前さん達よく生き残ったな、と褒められるぐらいだぞ」
「それほどの事があったのだが………ここ東の辺境でもありそうだな?
とりあえず、まずは怪我の連中を治療しよう。
頭数を揃えないと統率者に対抗するのは無理だ。
数が集まらないなら、怪我の奴らを復帰させるしかない」
「そうね。面倒だけど、この際だもの。仕方ないって諦めてあげるわ」
「オレンジ髪で妖精族ってなったら貴重過ぎてアレだが、よろしく頼む。
金は奴らから手に入れてくれ。協会にも金は無い」
タダには出来ないから、用立てられたら返せと言うしかないな。
タダでも良いのだろうが、タダだと言うと調子に乗ったり自分も治せと言い出す阿呆が出るのは確実だ。
流石にそれは無理だし、そんな事をマーヤが容認するはずが無い。
前にも自分の口で言っていたしな、絶対にお金を要求すると。
そうしないと際限なく調子に乗る者が出て来るし、治して当たり前だと思われると言っていた。
欲望など限りが無いものだから、そうなるのも仕方ないのだろうがな。
私達は支部長の執務室を後にし、早速酒場へ。
そして飲んだくれている者達に言う。
「怪我をしているハンター達、ここに集まれ。
金は払ってもらうが治療をしてやる」
私がそう言うと、こっちに胡乱気な顔を向けて来た。
とりあえず反応があった事にホッとしつつ、私は続けて声を出す。
「もう一度言う、怪我をしているハンター達はここに集まれ。金は貰うが治療をしてやる。
治療をするのは私じゃないぞ、ここに居る仲間だ」
そう言うと、胡乱気な顔を向けていた奴らはマーヤに視線を移す。
そしてオレンジ髪である事を理解すると、一人、また一人と立ち上がってこっちに来た。
「そこの女がオレンジ髪って事は、キッチリ治してくれるって事だな?
だったら、頼む! 治してくれ!」
「オレもだ。酒かっ喰らってるだけの暮らしなんて耐えられねえ。
それでも諦めるしかねえかと思ってたが、諦めずに済むなら頼む」
「オレ、行ってくる!! シャムナさんは今でも苦しんでるはずだ。
すぐに行って無理矢理に担いででも連れて来るぜ!!」
そう言って右腕が動いていない男は酒場を出た。
シャムナというのは女性か?
名前だけで決められないが、苦しんでいるとはどういう事だろうな?
まあ、来たら分かるか。
それよりもマーヤには早速治療を初めてもらわないといけない。
酒場の中だけでも結構な人数が居るんだ。
全員ではないのだろうが、結構な数が戦えなくなっていたのだろう。
私の魔力も使わないと駄目だな。
今は澱の魔力も無いから潤沢に魔力はあるし、日々少しずつ総量は増えている。
なので人数が多くても何とかなると思うのだが……もしかしたら難しいか?
もし駄目なら明日まで待ってもらう必要があるな。
流石に魔力が枯渇したと言えば、待ってくれるだろう。
無理を言って臍を曲げられるなど、彼らも困るのだしな。




