05-10-0196
Side:アッシュ
まだ飲み勝負は続いている。
しかし私とバッジョが4杯目であり、他の者は最高でも3杯目で撃沈した。
机に突っ伏して寝ていたり、椅子から落ちて床で寝ていたりと自由な状態だ。
既に私とバッジョしか残っていないが、バッジョは既に目が虚ろでいつ撃沈してもおかしくはない。
私としてはよく頑張ったなとは思う。
あくまでもそれだけだが。
「お、おまえぇ……どう、なって、やが、やがるんだ」
「私はこういう者なのだ。
良い悪いは別にして、こうだからこそ普段はちょっと酒を飲む程度で済ませている。
幾らでも飲める者が無駄に酒を飲んでも仕方あるまい?
だから少々飲むくらいしかせんのだ」
「しょ、しょんな事があるわ、け……にゃい!」
「にゃいって、ムサいオッサンが可愛い言葉を使ってもねえ……」
「そういう意味じゃなくて、単に呂律が回ってないだけでしょう。
もちろんワザと言ってるのは分かりますけど、そろそろ撃沈してアッシュさんの勝ちが確定しそうですね」
「そうだね。
根性で何とか頑張ってるんだろうけど、それじゃあ勝てないよ。
アッシュはまだまだ余裕だし、ハッキリ言って差がありすぎる。
正直に言ってアッシュが負ける可能性は欠片も無いよ」
仲間達がそう言っているとバッジョの体が傾き、ついに椅子の下に崩れ落ちた。
バッジョの4杯目の酒が床に零れてしまった時点で、私は4杯目を飲み切った。
なので私の勝利は確定だ。
「アッシュが4杯目を飲み切って、バッジョと言うのは床に溢した。
この時点でアッシュの勝ちは確定ね?」
「ああ。そこのアッシュというのの勝ちだ。
見届けはマスターであるワシが見届けた。
賭け金の総取りはお前さんだ」
「では私はコレを受け取って帰ろう。
4杯も飲んだのでお腹が厳しいが、酔いは特にしていないな。
水分ばかりとったので、出してからでないと眠れんのが困ったものだ」
私はそう言いつつ腰の異空鞄に中銀貨を詰め込み、そして仲間達と共に酒場を後にした。
後ろからつけてくるヤツが居るかと思ったのだが、そんな事は無かったようだ。
そのまま宿の部屋に戻った私はすぐにトイレへ。
出るだけ全部出した後は部屋に戻り、指環を使って服や体を綺麗にした。
その後は指環をラブに渡し、ラブも綺麗にし終わったらゴミを【集魔法】で黒い箱に集める。
そして消滅させたら終わりだ。
これでスッキリと綺麗になったので、後は寝るだけとなった。
「あの負けた連中、仕返しか何かをしてきませんよね?
なんだか嫌な予感もしないではないです。
小銀貨じゃなくて中銀貨ですからね」
「確かにそうだが、心配する必要は無いだろう。
明日はハンター協会に行って<混沌の種>を吸収したら出発だ。
ハンター協会の時点で喧嘩は売ってこないだろうし、そもそも観客は多くいたんだしな。
無様な事にしかならないだろう」
「それはそうですけど、金額が金額なので考えてしまいます」
「言いたい事は分からなくもないが………
じゃあ、こうしておくか」
私は部屋のドアノブに縄を括り、もう片方の先端で異空鞄を括る。
そしてドアの開く方向のドア横に設置。後は放っておく。
「………それをした意味はなんでしょう?」
「ドアを開けたら異空鞄が見えるんだ。
普通のヤツなら確実に手を伸ばすだろう。そして触ったら邪気を受けて壊れる。
もしかしたら壊れずに別の結果となるかもしれないが、どのみちあの異空鞄を奪う事は無理だ。
出来るのはラフィルしか居ない」
「まあ、それは確かにそうですし、見ていたなら何となく異空鞄だと知っているでしょう。
そして欲に目が眩んだら終わりですか。
酷い罠もあったものですが、確かにそれなら安心ですね」
「だろう? それじゃあ寝るか。明日も移動だしな」
「そうですね、おやすみなさい」
「おやすみ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の日の朝。
起きたものの特に異常はなく、私は異空鞄を回収して括っていた縄を仕舞った。
井戸に行って水を含み、指環を使ってから吐き出す。
それだけで綺麗になるのだから簡単で助かる。
何度か行って口の中を綺麗にしたら、部屋に戻ってゆっくりと時間を潰す。
どうせすぐにラブが起きるからな。
ラブが起きたら指環を渡し、戻ってきたら受け取る。
その後は多少の雑談をしていると女性陣がノックしたので、私達は部屋を出て宿から酒場へと移動。
昨日の連中はまだ寝ていたので、そのままスルーして朝食を食べる。
ハンター協会に行って話し、<混沌の種>の保管庫へと行って吸収。
消えていく<混沌の種>に驚く支部長と<烈華>の面々。
私達はやるべき事を終えたら、乗合馬車で次の村か町へと進んで行く。
私達と<烈華>の面々が乗っているので速度の出ない乗合馬車。
パルデオムが牽いているものの大変そうだ。
「申し訳ありませんが、お金は返しますんで誰か下りてくれませんか?
流石にパルデオムが一頭で牽ける重さを超えてます」
乗り合い馬車の御者にそう言われたので仕方なく、私はパルデオムと共に牽いてやる事にした。
乗っていても体が鈍るだけなので、ちょうど良かったとも言えるだろう。
私はパルデオムの後ろにある横棒の所へ行くと、それを押して進ませていく。
今までよりも簡単に前に進むからか、パルデオムも簡単そうに歩く。
………というかコレ、ほぼ私が引っ張ってないか?
別に体を鍛える事になるので構わないのだが………
せっかくだから【身体強化】の練習も兼ねよう。
私は微弱な【身体強化】も加えつつ、体を動かしながらの強化練習も行う。
あくまでも引っ張っているだけで戦闘行動をとっているわけではないのだが、それでも動きながらの練習にはなる。
そうやって引っ張っていると、予定よりも随分と早くに村に到着してしまったらしい。
私としては練習が出来て良かったのだが、御者は恐縮していた。
なので気にしないように言っておく。
そのまま宿へと移動して部屋をとると、他の皆も何故か部屋に雪崩れ込んできた。
どうもさっきの事で言いたい事があるらしい。
「そもそもアッシュが牽いたんだから、お金を払うのはおかしくない?」
「そうですね。
アッシュ殿は牽いていた側なのですから、むしろお金を貰う方だと思いますよ」
「そんなに多くはないだろうけど、それでも1名分の運賃は貰うべきじゃないかねえ?」
「イヤイヤ、そこじゃないよ。
なんでアッシュ一人だけで馬車が牽けるんだって事と、そもそもなんでパルデオムと一緒に引っ張ってるんだよ。
むしろパルデオムは歩いているだけだったろ」
「そうです。
どう考えてもアッシュさんだけで牽けました、というか牽いてましたよね?
パルデオムと馬車を繋げている縄は弛んでいたのを確認しましたから」
「パルデオムは歩かされている感じだったからね。
引っ張っている感じではなかったよ。
アレで良かったのかい?」
「むしろアッシュが皆を運んでいた感じだったし、あんまり見栄えが良くはなかったね。
なんだか家畜みたいに働かされている感じがしてさ」
「そんなつもりは無かったのだがな?
体が鈍るのも良くないし、私としては丁度いい運動だったのだが……。
微弱な【身体強化】の練習にもなったし」
それを聞いて納得したのは仲間達だった。
「ああ、そういう練習も兼ねてやってたのか。
確かに微弱な【身体強化】を長く続けたなら、疲れにくいだろうし良い方法ではあるね」
「出来るのであれば、という一言が付きますけどね」
出来るというか、練習だからやっているんだぞ?
むしろ疲れてしまっていたら失敗なのだから、分かりやすくていいのだがな。
やはり見た目が良くないのが悪いのか?




