05-09-0195
Side:アッシュ
「いいか、コレは最後まで酔い潰れなかったヤツが勝者だ。
そいつがこのテーブルの真ん中に置いた金を総取り出来る。
そして潰れた奴らはマスターに金を払うって訳だ。
シンプルで分かりやすいだろう? それじゃ始めるぞ!!」
飲み勝負を始めた男がジョッキを傾けたので、他の者もつられて一気に飲んで行く。
私はそれにつられる事もなくゆっくりと飲むのだが、周りは私が早々に潰れると思っているようだ。
この店の木のジョッキは本当に大きいみたいで、一杯でも相当の量だろうと思われる。
具体的にどれぐらいかと聞かれても答えようがないが、非常に大きいのは間違いない。
そもそも個別具体的にコップやジョッキの大きさは決まっていない。
なので店ごとにバラバラだ。
このジョッキがどれぐらい入っているかは不明だが、思っている以上の大きさをしている。
そんなジョッキを傾けているが、私はゆっくりとだが黙々と飲んでいく。
ペースは変えない。そこまでお酒は好きでも無いしな。
「ぷふーーーっ!
オレ様のペースについて来れるヤツがいるのかは知らないが、飲めなくなったらそこで終わりだぜ?
最後まで沈まなかったヤツが勝者だ。
それと何杯目かは店員が数えてくれるから心配すんな」
そういえば私の前にも何かの札があるな。
そこに縦線が刻んであるから、これが何杯飲んだかを示しているわけだ。
なんか酔ってきたら勝手に書き足したりされそうだな。
ま、私がいる間は仲間達がイカサマを見張ってくれるだろう。
私は見張る役目を目配せで頼もうと思ったのだが、他の面々の仲間と思しき連中も見張っている。
なので書き換えは難しいだろう。
あくまでも今は、という事だが。
「ぷはー! なかなか早いペースだが、あまり飛ばし過ぎるとすぐに酔って飲めなくなるぜ?
こういうのは自分のペースを守る方が強いんだよ」
そうなのか?
私はイマイチよく分からないが、一気に飲むと酔いが回りやすいというのは聞いた事がある。
ただしそれが本当の事なのかどうかは知らないがな。
とはいえ経験で分かっている事だろうから、そこまで間違ってはいないとも思う。
「ケッ! 飲めねえヤツが早速言い訳を始めやがったか、情けねえ。
おい、おかわりだ!!」
「オレもおかわりだ。
こんな勝負を始めたって事は自信があるんだろうが、舐めてもらっちゃ困るな。
オレに飲み勝負で勝ったヤツは誰も居ないんだぜ?」
「ハッ、言ってろ! お前も沈んでオレに負けたって事になるからよ。
そもそも相当の自信が無けりゃ、中銀貨の勝負なんてするワケねえだろうが」
何故かトップの二人が言い合いをしているが、私は店員におかわりを頼む。
特にスピードを早める事もしなければ、遅くなる事も無い。
そもそも私には酒精が効かないしな。
なので幾ら飲んでも問題は無いだろう。
ちなみにトイレに行く事は認められているので、この勝負は私の勝ちで終わる。
飲んで出してを繰り返していれば、酒精の効かない私が絶対に勝つのだ。
トイレに行くのが禁止されていたら、ちょっと勝つ自信は無かったが。
世の中には恐ろしく食べたり飲んだりできる者が居て、奴隷仲間にも一名それで驚かれていた者が居たのだ。
体は小さかったが私よりもというか、私の倍以上の食事をとっていた。
アレを見た時に、胃の強さは外見では分からないと知ったよ。
「ふぅーーーーっ! おい、おかわりだ!
………どうやら3杯目に行けるのはオレぐらいみてえだな。
所詮はお前らじゃオレには勝てねえってこった。
この<大酒飲みのバッジョ>様にはよぉ!!」
「んだとぉ、オレがてめえに勝ってやらぁ!」
あの男、バッジョというのと競っていたが、最早言葉が怪しいぞ?
確かにこのジョッキは大きいが、だからといって2杯飲めずに撃沈は流石に早過ぎると思う。
他の者達もペースは落ちたが飲んでいるしな。
「………ん? てめぇ、顔が変わってねえって事は飲んでねえな!?
てめえは負けだ、さっさと失せろ!」
「もしかして私か? 私はさっきからずっと飲んでいるぞ。顔には出ないだけだ。
誰も彼もが飲んだら顔に出る訳では無いし、そもそも私が飲んでいるのは他の周りの者が見ている。
なんならお前も私を監視していればいい」
「なにぃ?」
「確かにそこの大柄のあんちゃんは、最初からずっと飲んでるぜ?
大丈夫かと思って見てたが、ペースが全く変わらずに飲み続けてるからな。
それもあって、オレはあんちゃんに賭けたぐらいだ」
「賭けなんてやっていたのか。知らなかったな」
「心配いらないわよ。わたし達は全員アッシュに賭けたから」
「ええ、ぼくもアッシュさんに賭けましたよ。
ぼく達からすれば絶対にアッシュさんが勝つって分かってる賭けですからね。
簡単過ぎてラッキーだとしか思えません」
「本当にねえ。
あたしも大酒飲みと言われたけど、アッシュには絶対に勝てないから勝負する気にもならないぐらいだ。
喧嘩を売っちゃいけない相手ってのは、世の中に居るんだよ」
「ケッ! 女を侍らすような優男に、オレ様が負けたりするかよ」
「お前もう酔っ払ってるのかよ? 早すぎねえか、バッジョ」
「んだとぅ!?」
「そこのヤツのどこが優男なんだ。
見えてねえのかもしれねえが、筋骨隆々だぞ。
お前なんざ一発殴られたら殺されっちまうぐらいだ。
それが分かってねえなら、もう酔ってるだろうが」
「チッ!」
単なるやっかみなのだろうが、私にとっては微妙な話だな。スルーさせてもらおう。
後、ラブに関しては男なのだが、まだ見た目は幼い感じなので少女に見られてるんだろうか?
酔っ払っているのなら見間違いもするのかもしれんな。
「おかわりを頼む」
「なんだか本当に勝っちまいそうな感じだねえ。
ジャネスの言った通り、強いよ」
「遅いんだけど一定の速さでずっと飲んでて、まったくペースが落ちないんだよねえ。
いや、コレは喧嘩を売らずに正解だわ。
ジャネスが勝てないっていうのも納得さ」
「うんうん。これはちょっと勝てないわ。
流石に勝てる相手とは思えない。
未だにペースが全く落ちてないしさ」
「あのバッジョという方は相当にペースが落ちてますから、今はアッシュさんの方が速いのでは?
このままなら逆転すると思います」
「他の連中は3杯目に行くのが難しそうだし、既に目が虚ろなのが居るぐらいだもの。
アレらは沈むでしょうし、残すはあのバッジョとかいうヤツだけね」
どうやらそのようだな。
未だにトイレに行かずとも問題ないので、トイレは関係なく勝てるのかもしれない。
酒を飲んだ以上、仮にトイレで吐き出しても酔いは回ったままだ。
本気で私に勝ちたいなら、飲む毎に吐かないと無理だろう。
しかしそんな事が出来るわけもないし、更にトイレの中に一緒に入って監視するヤツも野次馬の中には居るはずだ。
それを考えるとトイレに吐きに行くのも無理なこと。
となると、飲み勝負にしかならないな。
仮に多少のイカサマや卑怯な手を使われたとしても、私が飲み続ければ勝つ事に変わりはない。
もし他のヤツを勝たせたいなら、無理矢理にそいつの勝ちだと宣言するぐらいしか無いだろう。
しても周りの客が見ているから意味は無い。
となると、私の勝ちは揺るがない。
なら最後に残るのは奪って逃走という手段だけだ。
もちろん私は許す気など無いし、皆も監視している。
それに目を瞑って<内なる目>を使っても異常は見当たらない。
ならば私の勝ちは決まったも同然だ。
酒精が効かないという反則仕様ではあるが、特性なのだから気にしたら負けだろう。
なんとなくだが、浄化の女神の肉と鬼神の肉が相互に影響していて、それが私に酒精が効かない理由となっている。
そんな感覚がするので、おそらくそこまで間違ってはいないはずだ。
だから私はそれを特性だと思うのだしな。




