05-08-0194
Side:アッシュ
野営の次の日。
朝日が出たらすぐに起きた私達は、何も食べずに歩き始めた。
焼しめたパンしかないし、正直に言って食べたい物でもないからだ。
だからこそ足取りは重いが、とにかく早く町に到着したいので歩き出した。
そして昼前になって町に到着。
町の門番に声をかけ、私達は何があったのかを話す。
するとすぐに盗賊頭を連れて行ったので、これから拷問という名の取り調べを始めるのだろう。
私はようやく軽くなったので、ラフィルから異空鞄を返してもらった。
その際に分かったのだが、私以外にラフィルが持つ事は可能なものの、私以外が中身を取り出す事は不可能だった。
つまりラフィルはあくまでも代わりに持てるだけらしいのだ。
おそらく徹底して他の者には使えなくなっているのだろう。
浄化の女神から貰ったものだ。確実にそちらの力が働いているのは間違いない。
それはともかく、私達は宿に行って部屋をとり、それが終わったら酒場へと繰り出す。
とにかく水分をとらないと厳しいので、私は昼食と同時に水を注文した。
地方によれば酒よりも水の方が高いという場所もある。
理由は食べ物で作れる酒よりも、飲める水の方が手に入りにくいからだ。
そういう所は酒の方が安く、庶民は酒で喉を潤すらしい。
「飲める水じゃなくても、飲めない水なら多いって所もあるんだよ。
昔行った所もそういう地方でね、作物を育てる水はあるんだけど、飲むと腹を壊してしまうのさ。
だから酒で割って飲んでたね。
飲める水が湧く所からしたら、あり得ないんだけどさ」
「あったね、そんな地方。
昔に行った場所だからイマイチちゃんと覚えてないけど、オーファルやギンリカは文句というか愚痴を言ってたっけ?
あたしはあんまり気にしなかったけど」
「だってねえ。薄い酒を飲まされてるみたいで納得いかなかったんだよ。
薄い酒は水の半値以下だったけど、本当にうっすいんだよ。
ビックリするぐらいにね」
「薄い酒にして飲む習慣なんて無いからさ、うっすい酒を飲んでると騙された気分になるんだよね。
酒を薄めて出してる酒場とかあるからさ」
「あるある。薄くして沢山売ろうとしてるのとかね。
そういう店には二度と行かないけど、一軒しかないと潰れないんだよ。
御蔭で依頼で行くとまだあったりして腹が立つんだよねえ。行く度にイライラする」
「それでも無くならない以上は諦めるしかないよ。
それはともかく、水を飲んでようやく落ち着いた。
昼食も来るから十分に食べるけども、これからそっちはどうするの?」
私は言うかどうかを迷ったのだが、あっさりとジャネスがバラした。
という事は、この辺は喋って問題の無い範囲内なんだな。
「あたし達はローデオンとの国境に近いフェイジャまで行くけど、それがどうかしたかい?
特についてこなくてもいいよ」
「いいや、私達もついて行くよ。正直に言って命を助けてもらっただけじゃないからね。
アレになってたのまで助けてもらったんだ。
命を助けるだけなら他のヤツにも出来たろうけど、アレになってたのまで治してもらったんじゃ恩を返さないといけない」
「確かにエフィシアの言う通りだよ。
もし他のヤツが助けてくれたとしても、そいつらじゃ狂ったままだったろうからね。
その恩は確かに大きい」
「ですね、お手伝いぐらいは出来ると思います。
私達も元々は儲かるかと思ってローデオン商国に行く予定でしたし」
「多少の予定が変わろうが、そんな事はよくある事でしかないし、何より恩を返さないのは駄目だ」
「ええ。ちゃんと受けた恩はお返ししませんと」
「………で、本音は?」
マーヤが半眼になりつつ聞くと、彼女達はあっけらかんと答えた。
「そっちの方が面白そうだしね。
私達だってローデオンの方が儲かりそうというだけで、特に当てもないんだよ。
知り合いが居て面白そうなら、首を突っ込むのは当然だろう?
邪魔はしないし、協力するのも間違いないよ。流石に協会に睨まれたくないからね」
「協会に睨まれるのは流石にマズいですが、協力した程度でどうこう言われる事もありません。
それに恩返しだと言えば、余計に何も言って来ないでしょう。
口出しする権利も無いですしね」
「あるのは指定されてる場合だけど、協会からはジャネス達だけで何とかしろとは言われてないんだろ?
じゃないと簡単に喋ったりはしないはずだし」
「ないわね。あくまでも調べてこいだから。
それと現地に行ってモンスターを狩ってこいとも言われてるわ。
元々アッシュは巡回狩人だし、その関係の依頼でもあるもの」
私が巡回狩人だと聞いて驚く<烈華>の面々。
そこまで驚く事ではないと思うのだがな? 彼女達は何に驚いたんだ?
銀級は居なくても、鉄級の巡回狩人は居るはずだが………
「まさかジャネスが巡回狩人のチームに入ってるとは思わないさ。
鉄10級まで行ったのに………って思ったけど、銀10級が居るんじゃねえ。
そこまででもないか」
「よく考えればそうですね。
ジャネス以上の方が居るんですから、そもそもおかしな事ではありませんか。
それに国境付近ってモンスターが多いそうですし、儲けもありそうです」
「皆が集まるまでもそうだし、その後も転々としてたからねえ。
お金は一時期に比べれば減ってるんだよ。盗賊の御蔭で盛り返したけどさ。
でも、良かったのかい?」
「私は盗賊の装備を剥ぎ取っているし、それは食事後に売りに行くから特に問題は無い。
そちらが受けた様々なものに比べれば大した金額ではないだろうが、それでも君達が受け取るべきだろう」
「………ふーん。どうやら本心で言ってるみたいだね」
そうエフィシアが言った後、その本人はジャネスをジッと見ていた。
ジャネスは無視して水を飲んでいるみたいだが、いったいなんだ?
分からないまま食事が運ばれてきたので食べ、それが終わったら武具屋に移動。
そこで剥ぎ取った物を売り払ったら雑貨屋に行く。
大きめの甕を購入し、複数の布と鉄の鍋も購入。
終わったら宿へと戻って水を汲む。
怒られるかと思ったが、特にそういう事は無く水を汲んで甕に入れていく。
満杯になったら布と縄で蓋をし、異空鞄に入れたら終了。
私は2人部屋へと戻った。
そのまま夕方まで適当に修行をしつつ、夕方になったら酒場へと繰り出す。
夕食は普通に酒を注文したが、別に飲みたい訳でもない。
とはいえ昼ならば言い訳できるが、夜の場合は言い訳が出来ない。
酒を飲まないのも変に思われるので注文し、それと共に夕食も注文。
まだ早かったものの夕食途中で「ワイワイ」騒がしくなってきた。
すると、大きな声が酒場内に響く。いったいなんだ?
「このバッジョ様に酒の飲み合いで勝とうって気概のあるヤツは居るか? 居たら名乗りを上げろ。
参加費は中銀貨1枚で勝ったヤツの総取り。飲んだ酒の代金は負けた奴らが負担だ。
参加したいヤツはオレの所に来い」
大きな声を上げて参加を募るヤツがおり、続々と金を持って参戦する者達が現れた。
「ジャネス、行かないのかい? タダ酒を飲むチャンスだろうに。
行かないならアタシが行くよ?」
「あたしが行くよりアッシュが行くべきだよ、確実に勝てるからねえ。
旅の事も考えたら、ここの中銀貨は大きいんじゃないかい?」
「まあ、確かに言われてみれば中銀貨なのか。
となると集まる金額は大きいな、参加者も多いみたいだし。
酒を大量に飲むのは好きじゃないんだが、お金は頂いてこよう」
私がそう言うと<烈華>の面々は「本当に大丈夫か?」という表情をしていた。
唯一、後で加入したというウェリムスはそうではなかったので、おそらく酒精が効かないというのも半信半疑なようだな。
私は参加を募集していたテーブルに行き、中銀貨を1枚見せて置く。
すると零れそうなほどエールが入った大きな木のジョッキが運ばれて来た。
どうやらこのジョッキで勝負をするらしい。




