05-07-0193
Side:ジャネス
今日の野宿に適した場所を見つけたので、あたし達は適当に野宿の用意をする。
アッシュの異空鞄の中には2~3日は保存が利く食べ物が入ってる。
一ヶ月以上は問題ない焼しめたパンもあるけど、アレは可能な限り食べたくない。
ちなみに2~3日もつ食べ物ってのはラクシュの事だ。
古くからある食べ物で、小麦の粉を水と塩で練って薄く延ばして焼き、それに色々な具材を挟んだだけ。
それでも食べられる事は多い料理だし、貴族や王族でも食べるって聞く。
もちろん中の具材は贅沢な物なんだろうけど、あたし達庶民と同じ料理を食ってるっていうのもねえ………
どうなんだろ?
庶民のは主に野菜と肉を挟んでるだけなんだけど、貴族のは果実とか使ったソースでも掛かってんのかね?
王族のは金でも散らしてたりして。
「いや、金なんて食べられないでしょ。
口に入れたら多分死ぬわよ? もちろん冗談なんでしょうけど」
「そりゃね。本気で言ってたら、流石に頭が悪すぎるだろ。
それはともかく壺でも買った方がいいのかねえ、水を入れておく為にさ」
「水があった方がいいのは事実でしょうけど、今日は諦めなさい。
水分が確保できるのはラブぐらいよ。
ヴァンパイアは血を飲めば済むからね」
「それもあるんだけど、こういう急に野宿っていうか野営をしなくちゃいけなくなった場合だよ。
大麦でも買っておけば、煮込めば食べられるだろ?
あたしが【火魔法】を使えば済むし」
「そんなに長時間【火魔法】を使えるんですか?」
「あたしの【火魔法】が上達した最大の理由は、故郷で子供の頃に獲った鳥を焼いてたからさ。
ジックリ焼かなきゃ美味しく焼けないんで、子供心に必死で頑張ったんだよ。
その結果が今上手く使えている【火魔法】なんだから、無駄じゃなかったんだけどね」
「なら鍋でも買っておけば、後は煮込むだけで済むのか?」
「そうだね。
鍋の中に直接熱を与えればいいんで、焼くよりも難しくはないよ、今なら分かるけど、昔は無駄な魔法の使い方をしてたからさ。
その所為で余計な苦労をしてたんだ。
今ならもっと効率的に魔法や魔力を使うんだけど、当時は肉を食べたい思いが強すぎて考えもしなかった」
「子供の頃なんてそんなものでしょ。
だいたいお腹を空かせているものだし、不思議と耐えられないのよね。
歳をとると問題ないのに、子供の頃ってやたらにお腹が空くの。
アレなんでかしらね?」
「さあ? 今日はラクシュを半分にして、後は焼しめたパンか………
あの何も食えないヤツに比べたらマシなんだけど、それでも焼しめたパンはねえ。
この水の無い状況だと厳しいよ」
いや、本当になんでこんなカチカチなんだろう?
いっつも疑問に思うけど、ここまでカチカチにしなくてもいいと思うんだけどね、あたしは。
それなりに長く持てばいいんだし、もうちょっと柔らかくして、代わりに持つ日数を減らせばいいだろうに。
それともここまでにしないと、すぐに傷んだり腐る?
流石に自分で作ってる訳じゃないから分からないし………
ラフィルなら知ってるかな?
「ラフィルは焼しめたパンが、なんでここまで硬いのかについて知ってるかい?
もっと柔らかくできないのかって思ったからなんだけど」
「確か、焼しめないと腐ったりカビが生えるからだと聞いた記憶がありますね」
おっと、流石は千年前の神殿長。
やはり色々な事を知ってるみたいだ。
それにしても思った通りで、ここまで焼しめないと一ヶ月以上も持ったりしないのかい。
ならこの硬さは避けられないって事になる。
仕方がないと諦めるしかないんだけど、それでも厳しい。
何かしら楽にする手段でもあればいいんだけど、ここまでになってると水も吸わないんだよね。
煮込まないと駄目だけど、煮込むとボロボロになるだけ。
水を吸っても戻るわけじゃないから、単に食べやすくするだけでしかない。
それでも食べやすくなるだけ、ありがたいんだけどね。
今はその為の水も鍋も無いから、どうにもならない状況だ。
「食えるだけありがたいって言っても、やっぱり焼しめたパンはキツいねえ。
エールで流し込みたいところだけど、無い物ねだりをしても仕方ない。
今日はさっさと食べて寝るだけだ。明日は朝日が昇ったら歩こう。
町に行って美味いもんでも食わなきゃ、やってられないよ」
「盗賊の金を貰ったから、懐は温かくなってるけどさ。
使う所が無いんじゃ意味ないからね。
早いトコ町に行きたいよ」
「あんた達の装備もあって良かったよ。
こいつら禁薬を買ってた割には、まだ結構持ってたからねえ。
どこで使う気だったのかは知らないけどさ」
抗争って言ってたから、おそらくは武具の代金か、それとも参加料ってところだろうね。
上の組織に上納するってのは、どこであろうとよくある事だ。
裏の界隈にだって当然ある。
特に大規模な抗争を予定してるなら、金を払ってでも参加したい奴らは居るだろうしね。
ただし、どこと抗争するのかが本当に分からない。
同じ裏の界隈なのか、それともハンター? もしくは正規兵に対してかも。
抗争となればそれなりの規模になるし、そうなれば相手もそれなりの規模だ。
裏の界隈の連中が大量に動員して小規模を襲うなんて事は無い。
裏の界隈の連中は舐められたら負けだ。
だから大で小を倒すという事はしない。
それは恥にしかならないから。だから規模を合わせて抗争をする。
裏の奴ら同士だと事前に数をすり合わせておくんだけど、ハンターや正規兵はそんなもの容認しない。
確実に潰す為に多数を動員する。理由は負けられないからだ。
負けると名が落ちるし、治安にも影響が出る。
「だからハンターや正規兵は狙わないと思うわ。
そこを狙うと本気の潰し合いにしかならないし、裏の組織も相当のダメージを負う。
それにどっちにしたって勝つと本気で怒らせる。
待っているのは潰される自分達でしかない」
「だねえ。裏の組織って言ったところで、所詮は正規軍以上になんてなれやしない。
なれない以上はどこまで行っても磨り潰される未来しかないんだ。
となると同じ裏の連中かハンター相手しかない」
ハンター協会に喧嘩を売った例は過去にあるし、中には裏の組織に乗っ取られた協会支部だったある。
それを考えると、ハンター協会に喧嘩を売って来る可能性はあるんだよねえ。
あたし達がそれに駆り出される可能性も十分以上にある。
まずは行ってみないと分からないけど、ある程度の覚悟はしておくべきだね。
ま、敵になったら叩き潰すだけさ。
「それでいいわよ。
そもそも連中に遠慮してやる必要なんて欠片も無い事だし、叩き潰しちゃった方がスッキリするわ。
どこが本拠地かは知らないけどね。
地方であっても潰せば弱体化に繋がるし、他の組織から狙われるでしょう」
「戦いが激化すると色々な物が明るみに出て来るらしいですし、悪い事ではありませんね。
ぼくの祖国でも似たような事は古くからあったと本に書かれていましたし」
「それほど古くから裏の組織というのは同じ事を繰り返しているのか。
もしかしてラフィル殿の時代にも?」
「ええ。そういう組織と言いますか、集まりのようなものはありましたね。
そこまで大規模ではありませんでしたが、それを言い始めると国の大きさも違いますから。
あまり意味は無いでしょう」
元チームメンバーの奴らはよく分かってないけど、ラフィルは千年前の神殿長だからね。
それほど古くから裏の組織があった。
そう考えると、ずっと変わらない連中が居るって事になる。
ま、逆を言えば、今もバカは変わらないとも言えるんだけど。
でも、それに関しては永劫に変わらない気がするから、考えても無駄だろうね。




