04-61-0186
Side:ラフィル
マーヤ殿達は笑い転げていますが、件の女官は呆然としていますね。
ある程度の長さがあるので、自分の髪が透明になったのは見えているからでしょう。
浄化の女神様からの神罰であり、加護はおそらく失われていると思われます。
とはいえマーヤ殿達が笑い転げている原因である、頭頂部に残った髪をどう考えるべきか……
どのみち神罰が落ちた事に変わりはありません。
つまり神殿に残ったとしても役職には就けない。
一番下の神官見習いしか無理です。
神罰を受けて更生しても、一度神罰を受けた以上は加護が戻る事は無い。
それは私が生きていた頃ですら分かっていたこと。
だからこそ神罰が落ちた者は神殿を出て行きます。
透明の髪になっても勤めを果たす、などという者は居ないのですから。
「クーレイア女官。だから言ったでしょう、このままでは神罰が落ちると。
にも関わらず貴女は周りの者の言葉を真剣には受け取らなかった。
その所為で加護を失ったのです。つまりは貴女が悪い」
「クーレイア女官。いや、クーレイア神官見習い。貴女は部屋に戻って反省しなさい。
加護を失った以上、貴女が神官見習い以上になれる事はありません。
全ての神様の像を祀る、その事は間違っていない。
だからこそ頭頂部の髪は残されたのでしょう。されどそれ以外は間違えています」
「………」
呆然として聞いていませんね。
とはいえ彼女がやった事と言った事は取り返しがつかない。
何故ならそれを元にして神罰が落ちたからです。
つまり、全ては彼女の言動と行動の結果でしかない。
いつだって神罰はその者の言動と行動で決まるのです。
それ以外の要因ではない。
「ですので、神罰が落ちる行動をした貴女が悪いのですよ。
先ほど神殿長殿が仰ったように、全ての神様の像をお祀りしようとした事は間違っておりません。
しかし、やり方があまりにも悪すぎました。
無理矢理など決して正しい事ではないのですよ」
「…………私は……私は正しいのです!!
なぜ神罰などが落ちるのですか!?
私は正しい事をしているのですよ!?」
「それが正しくないと言っているのです。
貴女が言う正しさは、貴女だけの正しさです。
他の方の正しさではなく、ましてや普遍的な正しさでもない。
全ての神様の像を祀ろうとした、それだけが正しかったのです。
しかしそれ以外は全て間違えているのですよ」
「私は正しいのです!! 正しい私に神罰が落ちるなどありえない!!
………そうだ、きっと邪神の所為に決まってます。
私の正しさを邪魔するなど、じゃし」
ピカッ!!
一度光が輝きましたが、それは僅かな時間だけでした。
そして邪神様を罵った元女官殿は、気づけばスライムの姿に変わっていたのです。
ズルズルと床を這っていますが、おそらくもう自我は無いでしょう。
スライムにされる神罰というのは記録があったので知っていますが、実際に見るのは初めてです。
「そうなのですか? 私は残念ながら聞いた事が無く……」
「かつて傲慢を極めたという王がおり、その王は自らを神と名乗ったという事が大昔にあったのです。
その王が自らを地上の神と名乗った瞬間、王はスライムの姿になっていたという話でした。
私も記録でしか読んだ事はありませんが、それがスライムの始まりだという話だったはずです」
「つまり、さっきの女官はスライムの始祖である、その神と名乗った王と同じぐらい傲慢という事だね?」
「どちらかと言うと、邪神の事を悪し様に言ったからキレちゃっただけだと思うわよ?
あの元神様も言ってたじゃない、浄化の女神は<狂愛>だって。
既に邪神以外はどうでもいいとしか思っていないってさ。
多分だけど、加護も邪気を減らすという理由で与えてるだけなんでしょ」
「ああ、なるほど。
邪神が砕かれる原因となったのは邪気です。
ですので、邪気憎しとして加護を与えているだけであり、別に下界の者を祝福しているわけではないと」
「そういうこと。
邪気さえ減らせばどうでもいいし、大切な邪神を悪し様に罵る者はスライムにでもなればいいとしか思ってないんじゃない?
【浄化魔法】とは別の意味で下界を綺麗にしているのはスライムだしね」
スライムは邪気に汚染されませんし、邪神様の玉体を食べるという事もしないそうです。
なので永遠に下界を綺麗にし続ければいいという事でしょう。
透明の髪で生きる方が何倍もマシだったと思いますが、どうしても自分の正しさ以外は受け入れられなかったのでしょうね。
その結果がスライムとして生きる事であり、つまりは愚か者の仲間入りという訳ですか。
そもそもスライムは分裂して増えると聞きますし、となると愚か者が増殖した結果が今なわけで………
何とも言えない気分になってきますね。
とはいえ先程の者が己の正しさ以外に耳を貸すかといえば………その可能性は無いでしょう。
神罰を受けても変わらなかったのです、浄化の女神様も更生不能と判断された。
それは当然の判断だと思います。
あそこまで自らの考えに凝り固まっている者は、どう考えても更生など無理でしょう。
なにしろ、己の中の妄想しか信じていないのです。
言い換えれば、神殿の者であるにも関わらず信仰が無いという事にしかなりません。
「神罰という神の御意思が示されたにも関わらず、アレでしたからね。
あのような者は更生不能と判断されても仕方ありません。
結局、最後まで己が正しいと思い込んでいましたし」
「自分は間違っていない、って信じ込もうとするなら分かるんだけどね。
あの女は完全に妄信してたよ。
本気で思い込んでるヤツとは会話にならないんだって、本当によく分かる。
会話そのものが無駄だとしか思えないぐらいだったし」
「よく言われる「会話にならない」は事実なのですね。今までは半信半疑でしたけど、あそこまでとは。
世の中には本当に会話にならない者が居るのだと初めて知りましたが………良いのか悪いのか。
知った事は良かったのでしょうけど、あんな者が他にも居るとなると……」
「嫌になってくるな。ただ、その最たる者達は多分<ソードモラ教>だぞ。
私は奴らの、少なくとも下っ端連中は話が通じないと思っている。
実際に私が話したのも、そんな感じのヤツだったしな。
【転移魔法】使いは違っていたが」
「違ってたの?」
「ああ。【転移魔法】使いは普通だった。
普通と言うか、よく居るチンピラ? みたいな感じの性格と態度と言動だったな。
私を飛ばすのは仕事であると同時に、酒場で首を絞められた腹いせだと言っていたぐらいだ」
「ようするに小物だったわけね。そいつが狂って壊れたと」
「そうなんだが………もしかしたら、異空鞄が当たって狂ったのかもしれないと思っている。
体当たりした際に触れて、あの男が悪徳だったから狂ったのではないかと……」
私も話としては聞いていますが、納得は出来る感じですね。
体当たりの際にぶつかり、その結果、あの鞄についている邪気に汚染された。
だから狂ったように暴れる事になったとなれば、話におかしな部分はありません。
もちろん神罰と共に狂った可能性もあります。
浄化の女神様が下されたのであれば、狂わせたとしても分かりますからね。
現に目の前でスライムにされる者が出たぐらいなのですから。
「そうですな。
孤児院で育った子だったので、幼少の頃から知っていたのですが………
それが甘やかす結果になったのかもしれません」
「孤児院で育つ子の中には、神様に依存してしまう子も居るのです。
クーレイア女官もその類だと思っていたのですが……」
神様への依存と言えますが、その依存は自分を正義とする為の依存だったようですね。
神様は正しい、だから神様を信じている私も正しい。
という感じになっていったのでしょう。
己の為に神様を利用している時点で、彼女に同情する価値などありませんけどね。




