04-52-0177
Side:ラブ
ぼく達は伯爵様に報告したので部屋へと移動します。
伯爵家の依頼ですから、泊まらないと非礼になるんですよね。
なので泊まる訳ですが、伯爵はラフィルさんから熱心に昔の事を聞いていました。
生きた本みたいなものですからね。
千年前の事なんて願ったって分かりませんし、特に大きな事でもないと記録に残りません。
言い換えれば庶民の生活なんてサッパリ分からないんです。
なので聞いていたんですが、そこまで変わらない事に驚きました。
ぼく達の生活と然程変わらないとは………通りでラフィルさんが千年後なのか疑問に思うはずです。
大して変わっていないなら、おかしいと思うのも当然ですね。
とはいえ、変わっていないのは変わっていないので、どうしようもないのですが……
「そうだな。
千年もの長きに渡って大した進歩が無かったと言うべきか、それとも進歩などというものは簡単に起きないと言うべきか。
その辺りは少々悩むところではある」
「確かに言われてみればそうですね。
古く遡ると、おそらく葉っぱとかを身に着けていただけなんでしょう。
服というか布も織らなければ作れませんし、誰かが最初に見つけたのだと思います。
糸の作り方や布の織り方を」
「それだけでも千年は掛かっていたりするのかもしれん。
何の知識も無いところから糸や布と考えると、相当に大変だというのが分かる。
まず前提となる知識が無いのだしな。
それで糸や布など………いや、そもそも糸や布というのが分からないのか」
「そう考えると、進歩なんて簡単にしないのがよく分かりますね。
前提となる知識が無いので、そもそも発想すらしないし出来ない。
葉っぱや毛皮の服で数千年は過ごしたのかもしれません。
そう考えると、今は十分に進歩していると言えます」
「そうだな。私達は普通に布や鞣した革が使えるのだ。
それだけでも十分に発展しているだろう。
ま、毛皮の方が温かくて強いとも言えるのだが……」
「毛皮は毛が付いていますからね。
モンスターの毛ってなかなか強靭ですし、たしかに防御の面から見ても毛皮の方が強いです。
暑いですけど」
「カルバス海国は北だから、ガルセンツよりは寒いんじゃないのか?」
「そうなりますが、ぼくの実家はガルセンツとの国境ですからね。そこまで寒くもなりません。
北の方の領地から寒い間に訪れる者は居ますけどね。
寒季が終わるまで逗留していますよ、貴族とかが」
「国境なのにか?」
そこはやっぱり疑問に思いますよねえ。
でも事実として来るんですよ。
どれほど大変なのかは知りませんが。
「国境なのにです。
それぐらい北の方の領地の寒さは大変なんだそうです。
といっても来るのは前当主やそのお付きぐらいですけどね。
流石に現当主は領地を離れられませんので」
「まあ、それはそうだろうが………国境なのになぁ。
そんなに北の寒さは厳しいのか」
「地面に掘った穴から家に入るそうですからね。
あくまでも平民の家がそうなだけらしいですが、貴族の屋敷より暖かいそうですよ。
なんでも貴族の家は大きい分だけ寒いらしく、結構な薪や炭を使ってしまうのでお金が掛かると聞きました」
「多分でしか分からないが、おそらく燃やしていないと寒くて居られないのだろうな。
その割に庶民の家はそこまで寒くない、と」
「なんでも地面に穴を掘って、そこに通路を作って出入りする家なんだそうです。
家の中自体は分厚い土壁で寒さが入らないように作られていて、途中に段差を設ける事で、更に外の寒い風が入らないようになっている。
そういう構造なんだそうですよ」
「ふーん………頭の中で想像してもよく分からんから、見に行ける機会があれば見てみよう」
「ぼくも見てみたいですね。
実際に話を聞いた事があるだけで、自分の目で見た事は無いんですよ。
ぼくの実家はそこまで寒くもなりませんし、特別寒い日に薪や炭で暖をとるくらいですからね。
ガルセンツ王国はもっと暖かいんでしょうけど」
「どうなのだろうな?
私もそこまで詳しくないから知らないが、南の方はもっと暖かいのではないか?
……っと、そろそろ寝るか。起きていても仕方ない」
「そうですね。
井戸で体を洗って綺麗にもなりましたし、今日はゆっくり寝られそうです。
それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ベッドが良いからか、この日は目を瞑って少し経ったぐらいで急激に眠たくなりました。
きっと疲れていたんでしょう。
…
……
………
次の日の朝に朝食も頂き、ぼく達は伯爵様に挨拶をして王都へと向かいます。
なんでも今回の事の正式な依頼は王城であり、ここまでの事があったのなら陛下に報告をしなければいけないそうです。
つまり、また王城に行かねばならないようで……
帰りの馬車内でもマーヤさんが愚痴を言っていました。
「なんで王城までいちいち行かなきゃなんないのかしら? 適当なのに報告すればそれでいいじゃない。
って思うも、途中でおかしなのを挟むと情報が捻じ曲げられたりしかねないし、仕方ないのかしら?」
「仕方ないんじゃないかい?
面倒なのは事実だけど、確かにラフィルの事は一国の王様が知ってなきゃいけない事だろう。
千年前の神殿長が生きていたっていうか、現代に蘇ったんだからさ。
あの夢も含めて、知っておかなかきゃマズいよ」
「私は神殿長と言っても、既に滅んだ国の神殿長なのですけどね?
大した力も何もありませんし……」
「いや、現代でアッシュとラフィルだけでしょうに。【集魔法】を使えるのは」
そうなんですよね。
アッシュさんはラフィルさんに教えてもらったからか、割と簡単に【集魔法】を使えるようになっていました。
物凄く便利なのもそうですが、アッシュさんは魔力が非常に多いので使い勝手が良いみたいです。
昨日もゴミを箱の中に集めていましたし、その御蔭で箒と塵取りは要らなくなりました。
まさかあんなに簡単に綺麗になるなんて思いませんでしたが、案外と綺麗にする仕事とかあればアッシュさんは請けるかもしれませんね。
ガタガタガタガタガタガタガタガタ………
相変わらず道が良くないですけど、もしかしてコレって逃げて行った人達の残した轍でしょうか?
「行きにも妙に揺れた所がありましたが………
もしかして逃げた連中が残した轍だったんじゃないでしょうか?
ガタガタしてましたし、何本も轍がありましたし」
「そういえば、そんな道があったわねえ。
急いで逃げていたとなれば、確かに沢山の轍を残しても変じゃないか。
となると、伯爵以外の家族は共にどこかに逃げた?」
「伯爵が毒のワインを飲んでいた理由は不明ですが、ぼく達は元々<ソードモラ教>との繋がりなどを調べる予定でした。
そしてアッシュさんが飛ばされた所を考えるに、伯爵の祖先が<ソードモラ教>と何らかの関りがあった事は間違いありません」
「わざわざ山の中にあんな場所を作って、挙句の果てには山に向かって監視するような町を作っていた。
どう考えても怪し過ぎるし、結構強い結びつきがあったはずよ。
だからこそ家族は逃げたんでしょうしね」
「<ソードモラ教>との関わりがバレたらマズいからかい?
でもそれなら家族の口も封じておくべきだと思うけどね?
なんか中途半端な気がするよ」
言われてみればそうですね? 執事やメイドに関しては家族も含めて皆殺し。
にも関わらず伯爵の家族の口は封じず逃亡させている、もしくは逃亡を許している。
<ソードモラ教>が関わっているのは間違いありません。
でなければ、そもそも山の内部に転移させたりはしないはずです。
色々な事を含めて、おかしな事だらけ。
いったい<ソードモラ教>は何を考えているのでしょうか?




