04-51-0176
Side:ジャネス
あたし達はヘイデルス子爵の領都を後にし、今はアドマグス伯爵家の領都マグナスに戻っている最中だ。
というか、もう目の前に見えているんだけどね。
ここまでの町や村でもハンター協会に寄って<混沌の種>を吸収していってるけど、特に邪魔されるような事は無かった。
むしろ今まで以上に忌み嫌われてるし、それを隠そうともしてない。
とはいえ<ソードモラ教>が悪用していたんだから、おかしな連中が手に入れようとする物という認識になってるんだろうさ。
実際アッシュが会ったヤツはゴミだとか言ってたらしいけど、それをどうしているは言わなかったそうだからね。
もしかしたら未だに悪用しているのかもしれないし、そうなればおかしな連中と同じ目で見られかねない。
消せるなら早く消したいだろう。
それもあってアッシュが消すのを簡単に受け入れてくれるんだ。
もはや見たくもない物となってる物を片付けてくれるなら、さっさと通すのも当たり前か。
伯爵家の領都マグナスに着いたあたし達は、早速ハンター協会に行って<混沌の種>を吸収。
その後に伯爵家の屋敷へ行くと、既に伯爵が待っていた。
とはいえ<混沌の種>を吸収に行ったと説明したら納得したけどね。
「アレがいつまでも領都に沢山あるとなったら落ち着かんからな。
無くしてくれたのは領主として助かる事だ。なら待つ事ぐらいはなんという事は無い。
説明しておけとは思うがな」
「それは申し訳ないわね。それよりも報告を始めさせてもらうわ」
マーヤとアッシュが進めてくれるから、あたし達は楽で助かるよ。
途中でラフィルの話になり、それで伯爵様は驚いたけどね。
そりゃ千年前の神殿長だ、驚くのも無理は無い。
なにより濃い灰色の髪を持つんだから余計にだろう。
今はもう誰も持てない色だし。
「千年前には普通に邪神の加護を持つ者が居たのだな。
それも【集魔法】という便利な魔法まで使えるとは……」
「ええ。ですが、私達が活躍している事が妬ましかったのかもしれません。
彼ら<ソードモラ教>の者にとっては。
知識の神様の加護で使えるのは【知識魔法】です。
これは記憶しておきたい事柄を確実に記憶しておくというもの。
古の時代には重宝されると同時に権力側にありました」
「様々な事を間違えずに記憶できるから、だから記録する物が無かった時代には重要だった?」
「そう、だからこそ彼らは古の時代に権力者の横に居たのです。
しかし、この世に紙が出来た頃から変わり始めたと聞きました。
紙に記録しておけば【知識魔法】はそこまで重要ではなくなったのです」
「自分達の地位が落ちた。
今まで権力側にあった者からすれば屈辱か………下らんがな」
「【集魔法】は集める事しか出来ませんが、古の時代から農業や採取と共にあり、長く多くの者の暮らしを守ってきました。
雑草を抜くのも収穫をするのも、山に分け入って採取するのも【集魔法】でしたので」
その話をした途端、伯爵様が大きな溜息を吐いた。
「はぁー………
政治でもある事だが、地味だが重要な事が脚光を浴びる事はある。
おそらくその際に嫉妬が、その後で嫉妬が憎悪に変わったのだろう。
残念ながら貴族社会では割とありふれた話だ」
「それもどうかと思うけど、でもそんなものでしょうね。
そりゃ知識の神も愛想を尽かすわよ。
にも関わらず<ソードモラ教>の連中は憎悪で暴走した。
つまり邪神が砕かれた事は実に都合が良かったという訳ね」
「正しくは奴らの憎悪の矛先として都合が良かっただけだ。
全てを間違いなく記憶できるというのは、使い方によっては役に立つ。
文書だけではない、見た目の景色も状態も記憶できると聞く。
何かあった際に咎人の顔も記憶できるし、町中の怪しい者の顔も覚えられる。だが……」
「偉そうにふんぞり返りたい連中はそれじゃ納得しない。
結局は自分達が醜いだけだっていうのに、それを邪神や女官達に押し付けた。
そういう意味じゃ、確かにあの神様が言ったように無様で憐れな連中だよ。
それしか言い様が無い」
「全くだな。そして連中は最悪の一線を越えた。
やってはいけない事に手を出し、禁忌の領域に手を出した。
アレが狂ってないなら、オレ達の方が狂ってるって事になっちまう。
……が、そんな事はあり得ねえ」
そりゃね。
邪神の女官に無理矢理<混沌の種>を食わせ、しかも手足を切り落とすなんて正気じゃない。
完全に狂ってるし、アレらは生かしちゃいけない奴らだ。
「この先、<ソードモラ教>の連中はどう出ると思います?
今までの情報はおそらく神殿内での権力争い的な話でしょう、邪神は関係なく。
しかし<ソードモラ教>がどういうものかバレた今は……」
「寄り集まって過激になるか、それとも地下に潜って逃げるか。
はたまた後ろ暗い連中を裏から操るかもしれん。
ああいう狂った連中は己らの欲を止められんよ。
止められるなら狂ったりなどそもそもしない」
「でしょうね。
後をどうするかは今の神殿が考えるべき事でしかありません。
当初は今の時代の神殿に関わろうかと思っていましたが、止めておきます。
邪神様を悪し様に罵る者になど、協力する気はありませんので」
「それが一番いいだろうな。
貴女を担ぎ上げる事で「許された」と勝手に思い込むかもしれん。
あの神様も言っておられたが、そもそも神様が悪徳なはずがなかろうにな。
それを率先して神殿の者が言っていたのだから話にもならん」
「邪神を罵っていた貴様らこそが醜い。
そうハッキリと言われていたからねえ。
連中の言っていた「邪神」は自分達の事でしかなかった。
これからどうするのかは知らないけど、楽しみではあるね。
おそらくは言い訳するだけなんだろうけどさ」
「それ以外に出来る事も無いですし、下らない言い訳に終始して逃げるのではないですか?
<ソードモラ教>の事を言い訳にするのかもしれませんが、神殿の者が邪神を悪し様に罵っていた事とは全く関係ないんですけどね」
「結局は自分達じゃない誰かに責任を押し付けて逃げるんでしょ。
その程度の頭の悪い行動しかしないわよ。
頭がいいなら、最初から邪神を悪し様に罵ったりなんてしないし」
「だな」
あたしもそう思うよ。
そもそも神殿の奴らがそんな事を千年も言い続けて来なきゃ、今こうはなってないんだ。
神殿の連中全てに責任があるのに、連中はそれを認めないだろうね。
自分達は絶対に間違わないって連中だし。
「神殿の事は放っておけばいいのではないか?
それこそ誰も何も売らなくなるかもしれないしな。
誰かが見ているだろうし、そうなるとその商人の所には客が寄り付かなくなるかもしれん。
神殿の酒造りとて、原料は買わねばならんのだ」
「神殿の収入の元が絶たれるってわけね。
邪神の事で神殿の信用は急速に落ちるだろうし、そういう噂は一気に広まる。
<ソードモラ教>と同じに見られるかもしれないし、何より夢の内容がね。
アレ過ぎるわ」
「まさに狂気と言わんばかりだったからな。
あれだけトチ狂った姿を見せられりゃ、誰だって嫌悪感や忌避感を抱く。
当たり前なんだが、神殿の連中は分かるのかねえ……
ここマグナスの神殿も門を閉ざしたままだ。
まるで耳を塞いで逃げようって感じだな」
「そんな事をしても、勝手な噂がどんどん広まるだけなんですけどね?
それとも顔を真っ赤にして反論するんでしょうか?
勝手な噂を真実のように撒き散らすって、神殿が邪神にやってきた事と同じなのに」
同じ事をやり返されてるって考えたら、「お前らが悪い」で終わる話だねえ。
そもそも神様に対してやらかしてたっていう自覚も無く、必死に反論する姿が目に浮かぶよ。
連中って自分達だけは絶対に正しいって思ってるからさ。




