04-46-0171
Side:マーヤ
準備を整えたわたし達は、暖炉の床の隠されていた穴を下りて行く。
わたしはアッシュの肩に座ってればいいので気楽なものよ。
そして下りたアッシュはランタンを持って下を照らしてる。
目を瞑っていても見えるらしく、本人は目を閉じてしまっているわ。
それでも周り全てが見えているらしいので凄い力だけど、遠くまでは見えないみたい。
なので一気に接近されると不意打ち気味になってしまうって言ってたっけ?
便利なように思えて便利じゃない、そんな感じかしら?
アッシュが言う<内なる目>にも、普通の目にも良いところと悪いところがあるんでしょうね。
それぞれで使い分ければいいんだけど、アッシュが言うには、狭い所では<内なる目>の方が役に立つそうよ。
死角すら見えているらしいから。
「よし、これで全員が下りて来たな。それでは案内を頼む。
すまないが、通路の死体は言っておいた通り異空鞄に収納してくれ。
それと………」
「ええ。私が【集魔法】で死体以外の物を集めましょう。
なのでお願いします」
「あいよ。
でも、ちゃんと指定してもらわないと困るよ?
あたしだって虫の相手はあんまりしたくないしね」
「ええ、分かっておりますよ」
ラフィルが【集魔法】とやらで集めて、それをジャネスが【火魔法】で燃やす。
かつての時代にはあったらしい邪神の加護と【魔法】。
何かを集める事しか出来ないって言ってたけど、少し考えただけでも途轍もなく便利だって事が分かる。
色々な意味においても、お役立ち魔法よねえ。【集魔法】って。
「初めて知りましたけど、そんな魔法がかつてあったなんて思いませんでした。
ぼくの実家にも書かれた本は無かったですし、王都の図書館にも無かったと思います」
「貴方は紅色の髪をしていますのでヴァンパイア族ですね?
もちろんヴァンパイア族にも様々な髪色の者がいますが、その紅色はヴァンパイア族にしか出ない色です」
「はい。そして使えるのは【血魔法】です。
というか、ぼくが血を操っているのはこの力が元ですしね。
紅色の髪でないと血を操って戦う事は出来ませんので」
「血を操るのが【血魔法】なのか?」
アッシュが気になったのか聞いたけど、それはちょっと違うみたい。
「いいえ、厳密には血を操る能力ってヴァンパイア固有のものなんです。
ですが、それで戦えるまでにはするには【血魔法】が必要なんですよ。
もしなければ、ストックしてある血を相手の顔にぶつけるのが基本です。
それで目を潰せますので」
「………それは普通に厄介な気がするのだがな?
真っ直ぐ飛んで来ればいいが、それこそ霧みたいに飛ばされたら避けられんぞ。
目に受けて見えなくなるのは間違いない。
私のように目を瞑って戦えればいいが、普通の者には無理だろう」
「それは母が【血霞】と呼ぶ技ですね。
霧状に血を出すって、実は相当に難しいんですよ。
ですので出来る方は限られています」
「なるほどな。
それであの闘技場で戦ったヴァンパイア族は飛ばして来るだけだったのか。
当時はたまたま運良く回避できたが、初めて見た時はかなり焦ったな。
っと、着いた」
「「「「「「「………」」」」」」」
私もそうだけど、一斉にジャネスとラフィルを見る。
既にジャネスは鼻を摘まんでいるけど、「そうでしょうね」としか思えないわ。
なのでさっさと片付けてちょうだい。
「では私がこの辺りに集めますので、それが集まったら一気に燃やしてください。
炎も集めますから、消えないようにだけお願いします」
「了解」
ラフィルが魔力を使うと、先ほど言っていた地面の上に魔力の塊が浮かんだ。
アレで何がどうなるのかと思っていたら、その魔力の塊に虫などが次々と殺到して来た。
いえ、アレは引き寄せられてる?
虫だけでなく何かよく分からないモノや、赤黒く蠢くモノなんかが集まって来た。
それは燃やす物だから仕方ないんだけど、見た目が悪すぎる。
血を飲むラブでさえ、あからさまに嫌そうな顔をしているわ。
「では、お願いします」
「分かった。【火柱】」
ジャネスが【火魔法】を使うと、火の柱が生まれた。
ただしその火もすぐにラフィルの出した魔力に集まり、火の玉へと形が変わる。
って事は、間違いなくアレは引き寄せてるんだわ。
ある意味でとんでもない魔法ねえ。
「あたしの魔法が勝手に捻じ曲げられてる………」
「【集魔法】とは古くからこうです。
敵の魔法を引き寄せる、敵の放った矢を引き寄せる。
そうやって味方を守ってきたのです。
邪神様が砕かれて後、使えなくなったはずの魔法なのですが………何故か使えるんですよ、今は」
そう言いながらラフィルはアッシュをチラリと見たわ。
その顔は女の顔というより、敬いとか崇拝の顔ね。
本人は邪神の生まれ変わりかどうか分からないて言ってるけど、あの顔を見たら認めてるのはすぐに分かる。
表情が全く隠せてないわ。
やがて全て燃えてしまい、ジャネスとラフィルは魔法を終える。
綺麗に汚い物だけを燃やし、腐った死体は残ったまま。
その死体を一つずつ異空鞄に仕舞っていくアッシュ。
全て終わったら、一度通路の先に進んでみる事にした。
こちらはアッシュ達も調べてないそうだし。
そうやって進んで行ったら、その先には出口があった。
予想通りだけど、ここは山の麓のどこかね。
町の外ではあるから、元々貴族の屋敷によくある抜け道だったんでしょう。
麓には木々があるから偽装されてるし、入り口は外から見えないわ。
「町の外に出口が通じてるのは、貴族にとって普通の事です。
ただし意図的に作っていない家や、埋めて潰してしまった家もあります。
侵攻された場合、逆に町が陥落する危険性もありますからね。
敵軍も探しますし」
「それが常識なら探すに決まってるね。
だって町の中、それも領主の館に一気に攻撃を仕掛けられるんだしさ。
使わない手は無いだろ」
「ええ、だからこそ潰したりしている訳です。
今は外に逃げる道よりも、敵軍が来る前に家族を逃がすというのが一般的だと教えられました。
なので領境に目を放っている家が多いらしいですよ」
「どこから攻めてきているか、出来るだけ早くに知る為には監視させるのが一番だもの。
まあ、いつも同じなら危険が分からなくなったり買収されるでしょうから、数ヶ月で入れ替えるんでしょうけど」
「ですね。
なので監視は領境にまで行かねばならないのですが、そこまで不人気じゃないんですよ。
交代の業務ですから戻れるのが分かっていますし、領都の騎士団などとは違って厳しい目が向けられません。
なので気楽だと聞きました」
わたし達は会話をしながら通路を戻り、アッシュが転移させられたという場所を見に行く。
雑談で明るい雰囲気にしているのは、多くの者が殺されていたからだろう。
誰がやったのか知らないけど、非常に数が多かった。
神殿の連中が関わっているのは間違いないでしょうけど、問題は殺した連中よ。
アレだけの数を前にキッチリと全員殺せるっていうのがね………怪しい。
普通は狭い通路の中で、しかもパニックを起こしたであろう連中を綺麗に全部殺すのは無理なのよ。
混乱している人達に押し倒されたりするから、自分だって死ぬ危険性がある。
その上あの場所でしか血痕を見なかった。
つまり殺された場所はあそこで間違いない。
つまり逃げる事もせずに粛々と殺されたとい事になるわ。
「それを考えると確かに奇妙だね? まるで抵抗をした様子が無い?」
「そうなのよ。
普通は敵が武器を持っていたら、切られるとしても腕で防いだりするじゃない?
その時に出来た傷なんかが無かったの。
もちろん丁寧に調べてないから完全には分からないけど、私が見た範囲では無かったわ」
その状況を想像してみると、非常に奇妙な事がよく分かる。




