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 Side:ジャネス



 アッシュの眼をマーヤが治しているのを見つつ、あたしは少し思案する。

 アッシュは証拠が無いって言ったけど、果たして本当に証拠が無いんだろうか?

 探せば何かあるような気がするんだけどね。

 例えばモンスターの死骸とか。


 調べれば邪気の残滓とか、そういった物が見つかる………駄目か。

 仮に見つかっても、神殿の非道な実験の証拠にはならない。

 少なくとも神殿の非道を証明しなきゃ意味が無いんだ。

 とはいえ………元女官の遺骸を証拠にするってのは流石にねえ。


 「我らもその場所へと行ってみたいのだが、案内をよろしいか?」


 「ええ、構いませんが……そういえば分かれ道の死体をどうにかしないとな」


 「分かれ道の死体って………なんだか随分と不穏な言葉ですね?」


 「ここから降りて通路を行くと、途中で右斜め後ろへと行く道がある。

 私達は向こうから来たので分かれ道を認識しやすいが、こちらから行く場合だと分かりにくいと思う。

 その先に大量の死体があったのだ。

 まだ腐っている最中でな、虫がかなり湧いていた」


 「………それって、もしかしてだけどさ。

 ここの奴らじゃないのかい?」


 「わたしもそう思ったわ。

 この屋敷の連中が居なくなってるんだけど、それらがどこに行ったか分からなかったのよ。

 おそらくそこで殺されたんだと思うわ。

 誰に殺されたか分からないけど、この屋敷に逗留(とうりゅう)していた神殿の連中が居たみたいなのよ」


 「その者達が一番怪しいんですけどね。

 伯爵が死ぬ五日ほど前に町を出ているらしいんです。

 白に紫が混じった髪と赤い髪の者という目撃情報はあるんですけど、それ以外はサッパリでして」


 ラブがそう言うと、アッシュが何やら考え込むように表情を変えた。

 未だに目は瞑(つむ)ったままだけど、どうやら見えてるらしいので問題は無いのかねえ。


 「多分だが、私はその者どもに会っていると思う。

 ヘイデルス子爵領で兵士に同行を命じられたが、その後で神殿に連れて行かれたと説明しただろう?

 そこで会ったのが白に紫の髪の者だった。

 邪神や<混沌の種>をゴミと言ったり、私を不浄の存在だとか言っていたな」


 「そんなヤツが神殿に居るのかい? やっぱり碌な所じゃないね、神殿っていうのは」


 「かつてはそんな事も無かったのですが………いえ、私が知らないだけで、そういった事はあったのかもしれません。

 急に無実の罪で捕縛され、そのうえ玉体を無理矢理に食べさせられましたからね。

 アレをいきなり始めるというのも変です。

 以前から似たような事を考えていなければ……」


 「神殿が碌でもないのは横に置くとしてだ、案内は出来るが死体が散乱しているのは注意してほしい。

 それとラフィル殿の服などを買ってきてからでお願いする。

 流石に貫頭衣だけで再び行かせるのは……」


 「それは当然だ。

 流石に女性にその恰好で再び、とは我らも言わない」


 「そこまで時間も掛からないし、オシャレな服を買う訳でもないからすぐに終わるわよ。

 そんな事してる暇は無いし、なにより簡単に破ける服を着てても仕方ないしね」


 「私も元は神殿の者ですし質素倹約に励んできています。

 なのでオシャレな服など、そもそも着た事がありません。

 なのでどれが良いかと言われても……そもそものセンスが無いのです」


 それを聞いて、かつての神殿はまともだったんだろうなと思った。

 どんな組織も腐ると言われてるけど、神殿も例外じゃなかったってところだろう。

 それも普通の腐り方じゃない、特級の腐り方をしてる。

 それが神殿だという事に皮肉を感じるよ、あたしは。


 「そもそも神殿を真っ当だと思う事が間違えているのだろうな。

 所詮はアレらも下界の者でしかない。

 神に仕えているかどうかではなく、その者が正しいか否かで考えるべきだと思う。

 でないと見誤る」


 「まあ、神殿の者だからといって信用するような時代は終わるのでしょうよ。

 今でも半分は終わってるけど、これから先は完全に崩壊するわね。

 逆に言えば、一度崩壊しないと治らないんでしょ。

 と、治ったわよ」


 「やっとかい?

 妙に時間が掛かってたけど、何か問題があったって訳じゃないんだろう?」


 「特に問題なんて無いわよ? ただどこまで細かく出来るか試してただけ。

 これだけ魔力があるとね、今まで出来なかった色々な事が試せるのよ。

 治療っていうのは良くするって事だもの、それがどこまで出来るかは気になるじゃない?

 やったのは、わたしにだけどね」


 「いや、あんたは関係ないだろ」


 「アッシュじゃ駄目なのよ。

 神子(みこ)だからか、過酷な環境で育ってる割には健康そのものだしさ。

 だから200年以上生きているわたしが丁度良かったってわけ。

 かつてからの歪みやら何やらも治せたから、これからは体を完璧な状態にまで治療できるわ。

 自分の魔力じゃ倍あっても無理だけどね」


 「妖精族って魔力が多いんですけど、それの倍でも足りないってとんでもないですね。

 言い換えればアッシュさんの方が遥かにとんでもないって事なんですけど」


 「仕方ないんじゃない?

 そもそも神子(みこ)だし吸収するんだもの、これから更に魔力は増えていくでしょうしね。

 それより買い物に行きましょう。必要な物を買わなきゃいけないわ。

 武器と盾は既に持ってるけど」


 それも相当に危険な物をだけどね。

 それでも邪獄樹製の物が持ててる時点で、蛮族将軍と同じく邪神の加護を持つって分かるよ。

 とんでもないって言うか、よくあんな物を持てるもんだって思う。

 普通のヤツには無理だからね。


 私達は騎士を残して屋敷を出ると、ラフィルの服などを買いに行く。

 町中へ出て店に行き、そこでまず最初に買ったのはブーツだった。

 足元が危なかったし、これでようやく普通に歩けるようになったか。


 その後は店の中を見回り、厚手のズボンや服を選んでいく。

 下着なども売っていたのでそれを買い、終わったら雑貨屋へ。

 鞄を購入したら武具の店へと行き、そこで剣帯とナイフと短剣を購入。

 そして屋敷へと戻った。


 あたし達は別の客室へと入り、そこで着替えなどをしているラフィルの周りで誰か見ていないか見張る。

 特に問題はないだろうけど一応ね。


 裸になったラフィルはアッシュから借りた綺麗にする魔道具を使っているけど、聞いていた通りに男のモノが付いてるね?

 不思議な体になったと言ってたけど、その通りだと思うよ。

 なんで女の体でソレが付いてるんだろうねえ。


 「疑問しか感じないけど、改めて見ると不思議でしょうがないわ。

 もちろん自分自身が一番驚いたんでしょうけど、見てる方も困惑するしかないわよ。ソレは」


 「本当にねえ………いや、何でそうなるんだろう?

 元は山髭族だったっていうのに髭は無いし、そんな事になってる上に額にも目がある。

 ちょっと色々と変わり過ぎだと思うし、新しい種族って言われても納得ではあるね」


 「私もそう思うけど、でも子供が出来るのかしら?

 もし出来ないってなったら、それって種族じゃないわよね?」


 「んー………どうなんだろ? 確かに子供が出来なきゃ種族とは言えないか。

 ただ、生まれて来る子が山髭族の可能性もあるけどね。

 単にラフィルの体がそうなだけで、今でも山髭族の可能性はあるだろ?」


 「まあ………そうかもしれないわね。

 どのみちそういう相手が居ないと判断は付かないんだけど」


 「私としては五人も子供が居たので、子供はもういいと思っていますよ。

 無事に育ちましたし、どうなったかなどは聞く気もありません。

 既に死んでいるのだけは事実ですし、うち3人は人間族だったので死に目に会っていますからね。

 それ以上は聞く意味もありませんので」


 千年ほど経っているんだから、妖精族でもない限りは寿命で絶対に死ぬ。

 そう考えると、親としては聞きたいもんじゃないんだろうね。

 自分よりも早くに子供が死んでるんだし、他の子も確定で既に死んでる。


 それに子供が死んで何百年も経った後に生きてるっていうのも………

 考えれば考えるほど大変だ。


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