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 Side:ラブ



 ぼく達が客室で話していると、小さな音が聞こえてきました。

 「ズズ、ズ……ズズ」といった感じの音です。

 すぐに声を出さずに立ち上がり、周囲を警戒。

 いったい何の音かは分かりませんが、全員でこの部屋を調べていきます。


 口を開かず無言で、なおかつ動く際に音を立てずに動きます。

 そうしていると空中でマーヤさんが大きく動きます、そして暖炉を指差しました。

 どうやら暖炉から音がしているようです。


 僕達も近くに寄り確認します。

 すると薪などを置く部分が、ゆっくりと横にスライドしているではありませんか。

 もしかしてこの暖炉は隠し通路か何かに繋がっている?


 僕達は下から上がってきている何かに対し、どうするかを決めなければいけません。

 もし敵であり危険な者であれば、不意打ちで始末しておきたいところです。

 駄目なら下に落として追いかけるというのが望ましいでしょう。


 こっちに出させて捕縛というのも考えられますが、無理に捕縛しなくても構いません。

 犯人が逃走経路を教えてくれているようなものです。

 なのでその先に証拠はあるでしょうしね。


 そう考えていると、ジャネスさんが槍を持ち出して叩く動作をします。

 ようするに蓋のような物を叩いて牽制するという事でしょう。


 今も蓋は動いています、早く決めないと間に合いません。

 皆が顔を見合わせて、最後には頷き許可を出しました。


 するとジャネスさんは石突で蓋を叩きます。


 ガンガン!!


 すると蓋の動きはピタリと止みました。

 やはり誰かが動かしていたのでしょう。

 ぼく達に緊張感が走りますが、ジャネスさんが再び蓋を叩きます。


 ガンガン!!


 ………それでも相手からの反応は無し。

 もしかしたら逃げたのでしょうか?

 皆と顔を見合わせますが、どうしたものかと困ってしまいました。

 副騎士団長も、こういう事の経験は無いのか良い案は出ないようです。


 そうして悩んでいると、ジャネスさんが動きました。

 このまま悩んでいても埒(らち)が開かないからでしょうね。


 「そこに居るヤツ、さっさと出てきな!!

 誰か知らないが居るのは分かってるんだよ!!」


 ジャネスさんが大きな声を出し、相手を脅すように伝えます。

 すると……


 「そこに居るのはジャネスか? 私だ、アッシュだ」


 その声を聞いた瞬間、ぼく達は口をポカンと開けて呆けてしまいました。

 いったい何故こんな所にアッシュさんが? いや、それよりも早く出て来てもらわないと。


 「アッシュかい!?

 だったら何もしないからさっさと出て来てくれ。敵かと思って焦ったよ。

 しかも伯爵の屋敷の暖炉だからね」


 ガガガガガガ………ガン!


 一気に蓋を動かすと、暖炉の中からアッシュさんが出てきました。

 本当にアッシュさんが居た事に驚きですが、なぜアッシュさんがこんな所に?


 「よし、っと。……やっと脱出できたか。それよりまずは伝えないとな。

 ラフィル殿、上に居たのは知り合いです。安全ですから上がってきてください」


 「分かりましたー」


 アッシュさんが出て来た所から、小さく、でも綺麗な女性の声が聞こえてきました。

 その瞬間「ムッ」とするマーヤさんとジャネスさん。

 分かりやすいですけど、分かりやす過ぎて周囲にバレますよ?


 アッシュさんは理解しているのかいないのか、暢気(のんき)に服の汚れを払っています。

 これ………間違いなく気づいてませんね? 仕方がないのでしょうけど、困ったものです。


 「よい、しょっと。

 ………やれやれ、やっと外に出られました。

 貴方がたがアッシュ殿の仲間ですか? 騎士の様に見える者も居ますが……」


 「いえ、あの方々は知りませんね? 仲間はこちらにいる三名ですよ。

 妖精族のマーヤ、ヴァンパイア族のラブ、そしてオーガ族のジャネスです」


 「まあまあ、よろしく。

 私はアッシュ殿に助けていただいた、ラフィル・ウド・ミーシャンと言います。

 かつては山髭族だったのですが、今はよく分かりません」


 「よく分からない………?」


 「ええ。

 私もここが千年後と言われましたが、イマイチ納得は出来ていませんの。

 といってもアッシュ殿が嘘を吐くとは思えませんが……」


 「「「「「「「せんねんっ!?」」」」」」」


 ぼく達は驚きのあまり大きな声を出してしまったけど、千年前の方が目の前に居るって事なの?

 もし本当ならアッシュさんは何をしていたんだろう?


 「彼女はウェッドリーベル国という国の王都で神殿長をしていたらしい。

 だが<混沌の種>を無理矢理に食べさせられるという事をされ、変貌していたんだ。

 当時なにがあったかは知らないが、邪神が砕かれた時代に生きていたのは間違いない」


 「邪神が砕かれたって………そりゃ確かに千年ぐらい前だけどさぁ。

 妖精族じゃないんだろ? なんで山髭族が千年も生きるんだい?

 いや、そもそもなんで暖炉から出て来たのかの方が先か」


 確かにそこを聞かないと話になりませんね。

 まずは椅子に座って話を聞きましょうか。


 …

 ……

 ………


 「信じられん! どうしてそんな外道な事が出来るのだ! 間違いなく巨悪ではないか!!」


 副騎士団長が激怒していますが、ぼく達も同じです。

 まさか寿命を伸ばしたいだなんて理由で、<混沌の種>を使った実験を神殿が行っていたなんて……!

 とても許される事ではありませんし、許していい事でもありません。

 厳しく断罪するべき事です。


 「それにしてもメチャクチャねえ。

 アッシュが邪神の生まれ変わりだと思ってたら、神の子である事が確定するなんて思わなかったわ。

 そのうえ異なる場所の神が出て来て証言するなんてさ」


 「リビ殿が言うには、私が神の子供である事は間違いないらしい。

 実際に下界に居る際には百万分の一にまで力が封じられていると言っていたからな。

 神が直接降臨されると、下界そのものが崩壊してしまうんだそうだ。

 それこそが神が降臨されない理由なんだろう」


 「下界が崩壊するって………そりゃ神様も下りてくるわけが無いねえ。

 そんな事をしても意味が無いからさ。

 っていうか、今のアッシュでさえ百万分の一かい。

 神様ってのは本当にとんでもないって分かるよ」


 「それを一時的に五十万分の一にしてくれるっていう神様の加護。

 凄いのか凄くないのか、ちょっと分からない感じね。

 数字が桁違い過ぎて、上手く呑み込めない感じ」


 「分かります。

 百万分の一とか五十万分の一とか言われても………って思いますからね。

 もちろんとんでもない力なんでしょうけど、想像がつかなさ過ぎます」


 本当に訳が分かりません。

 あれだけ強いアッシュさんが百万分の一まで制限を受けていたなんて……いや、神様の子なんですから当然なんでしょうけど。


 「その当然の領域が理解不能よ。

 それはともかくとして、この暖炉の隠し通路から行った先に神殿の暴虐の証拠がある訳ね?」


 「あるが………全て倒したし崩壊させた。なので証拠物と言える物は何も無い。

 ステージ5とも言える<混沌の種>も私が吸収して消してしまったからな」


 「そういえば、その事で思い出しましたけど、アッシュさんって目を怪我してるんですよね?

 マーヤさんに治して貰ったらどうですか?」


 「あっ、そうね。今なら普通に治せるし問題無いでしょ。

 それじゃ治すのに魔力を貰うけど………って、今気づいたら信じられないほどに増えてるわね。ちょっとおかしくない?」


 そうマーヤさんが言うのでぼくも感じてみましたが、これは駄目だと言いたくなるぐらいに増えていました。

 それに……


 「ラフィル、貴女もとんでもなく多いわね?

 冗談でもなんでもなく、唯の生き物にしては多すぎるわ。

 アッシュの言う通り、神様の力を取り込んだとしか思えない量よ」


 「そうですか……

 不敬ではあれど、お返しする御方がおられませんし、お返しする方法も不明なのですよ。

 私もどうしたらいいか困っています」


 でしょうねと言うしかありません。

 唯の生き物が神様の力を多少とはいえ取り込んでしまったんですから。

 それに種族も変わっているらしいですし、この情報はどうしたものでしょうね?


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