04-43-0168
Side:ラフィル
私達は崩れた壁の欠片を越えて先へと進みます。
特に変わった感じなどは無く、私達はそのまま真っ直ぐ行くと途中で二股に別れている道を発見しました。
どうしようかと迷っていると、アッシュ殿が顔を歪めながら口を開きます。
……なぜそんな顔を?
「左の道から凄い腐臭が漂ってきている。
おそらく死体か何かが大量にあるんだと思います。
そちらを先に見に行きましょう。気になります」
「危険に飛び込む事になりませんか?」
「危険なら今も変わりません。問題は何故死体が放置されているかです。
モンスターが何かをする事もなく腐臭がするというのは変ですからね」
アッシュ殿は「モンスターが何もしない」などという言い方をしましたが、実際には何故殺されている者を食べないのか? でしょう。
確かに考えれば変ですし、気にするのも分かります。
モンスターは殺せば喰らいます。
いえ、正しくは喰らう為に殺すのであり、面白おかしく殺したりしません。
むしろ生き物である我々の方が野蛮である事すら多い。
情けない話ですがね。
私達はアッシュ殿が見に行きたいと言う左の道へと行きます。
上りになっていたのですが、そこを上っていくと私にも腐臭が感じられるようになりました。
しかし上りの道である影響か、そこまで臭いはしませんね。
別の入り口に繋がっているのでしょうか?
そんな疑問を持ちながらも進むと、通路に所狭しと死体が転がっている場所へと着きました。
まだ出口ではありませんが、多くの者が無残にも殺されています。
「しかし……ここまでだとマズいですね。
【火魔法】使いか【浄化魔法】使いを呼んでこないと綺麗になりませんよ、コレは」
そう思えるくらいに腐った肉と骨があり、それに群がるように虫が湧いています。
あまりの光景に見たくないほどですが、そうも言っていられません。
かつて神殿長であった身としては【浄化魔法】使いを呼んで綺麗にしたいですね。
葬送の為の【集魔法】は既に使えませんから、今あるのは邪気に強いという事ぐらいです。
邪神様が砕かれてより【集魔法】は使用できないのですよね。
そういえば邪神様の加護で使えるのが【集魔法】だという事に抗議している者達が、かつて居たのを思い出しました。
邪神様の加護で使えるのは何かを集めるという魔法なので、その事から【集魔法】と呼ばれています。
しかしながら邪神様ならば【邪魔法】と呼ぶべきではないか、という抗議がかつてあったのです。
バカバカしいので誰も取り合いませんでしたが、今はどうなっているのでしょうね?
「そもそも【集魔法】というのを知らないのですが、かつてはあったので?」
「ええ。
それで私達は穢れなどを一ヶ所に集め、【火魔法】使いや【浄化魔法】使いが綺麗にしていたのです。
【集魔法】は集める事しか出来ませんが、上手く使うと物凄く便利な魔法なのです。
なぜなら物を動かす事も可能ですので」
「物を動かす?」
「ええ。かつては農業において、もっとも優れた魔法とまで言われたのですよ?
雑草を集める、害虫を集める、収穫物を集める。
ほら、少し考えただけでも大量の使い道があるでしょう?
シンプルながらも凄く便利なのが【集魔法】なのです」
「聞けば分かりますが、それは便利ですね?
とはいえ使えなければ意味がありませんし、そもそもここには【火魔法】使いも【浄化魔法】使いも居ません。
なので使えても意味はありませんね」
「そうですね。
それで………そろそろ戻りませんか?
流石に臭いがキツくて、鼻が厳しいです」
「ええ。
自分も相当に厳しいので、そろそろ分かれ道まで戻りましょうか。
後で【集魔法】というのを教えてください」
「構いませんよ。そこまで難しいものではありませんので」
そう言って私達は戻ります。かつてはこうやって簡単に!?
………今、近くの石に対して使いましたが発動しましたね?
邪神様がおられなくなって使えなくなったはず。
にも関わらず使えるというのは………もしかして邪神様の神力を少しとはいえ取り込んでしまったからでしょうか?
だから直接使えている?
ある意味では極めて不敬ではありますが、奴らの実験で邪神様に近づく結果となるとは……
敬虔に過ごしてきた私に対する皮肉でしょうか?
奴らの外道の結果、邪神様の御力を身近に持つ事になろうとは思いませんでした。
それともアッシュ殿が近くに居るから使える?
邪神様と同じ気配ですし、可能性としては無いとも言えません。
どちらかは分かりませんが、昔のように【集魔法】が使えるのはありがたいですね。
戦いにおいても有利になれる魔法ですから、とても便利なのです。
敵の魔法を集める、敵の矢を集める。
そうやって防ぐ事によって味方を有利に導く。
私達のように邪神様の加護を持つ者は多く活躍していました。
だからこそ嫉妬もされたものですが、それがあの実験の原因かもしれませんね。
気に入らない者達だからこそ、これを機会に潰してやろう。
そう考えたのであれば、あの凶行も分からなくはありません。
だからと言って納得などしませんが。
分かれ道に戻って来た私達は、今度は真っ直ぐ続いている道へと進みます。
そういえば先程の死体塗れの道。
あそこの死体の近くの壁も血でベッタリと汚れていました。
という事は、殺害現場があそこと言う事になりますが………何故あんな所に居たのやら?
何となくですが、メイド服などが見えたような気がします。
もしそれが事実なら、なぜ貴族の屋敷で働いているはずの者が死んでいたのか? その辺りが全く見えません。
とにかく分からない事は横に置いておき、私達は通路を先へと歩いて行きます。
そして辿り着いた先には梯子がありました。
唯の梯子ではなく、わざわざ緑灰銅で作られている梯子です。
緑灰銅は水に強く錆にも強いという特徴を持つ物で、高価ですが神殿でもよく利用されていました。
長く使う物が多いですから、簡単に錆びたりしては困るのです。
そんな緑灰銅を使っているからか、まだまだ現役で使える梯子です。
それにしても綺麗ですね?
新しく新調したのでしょうか?
それとも誰も来ないので綺麗なまま?
ですが時が経った際の劣化まではどうにもならなかったはず。
となると最近新調した物でしょうね。
何故こんな所の梯子を高価にするのかは知りませんが。
梯子程度なら簡単に直せる木でいいでしょうに。
「どうやら上に蓋のような物が取り付けられているらしい。
開けると何処に出るか分からないが、開けていい物なのかどうか……」
下に戻って来たアッシュ殿がそう言って迷っているようです。
あの死体の向こう側へと走って行けば、外に出られそうな感じでしたからね。
迷うのは分かります。
とはいえ、ここは慎重に開けるぐらいでよいのはないでしょうか。
「そうですね。駄目なら即座に逃げましょう。
まずは私が行って開けてきます」
「お願いします」
アッシュ殿にそう言うと、彼は梯子を上って行きました。
そして上へと着いたのでしょう、慎重に蓋のような物を動かしているようです。
音が聞こえないのでおそらく動かしているのだと思いますが………
ガンガン!!
いきなり何かを叩く音がしました。
どうやらアッシュ殿が動かしていた蓋が上から叩かれているようです。
どうしましょう? 少し離れておいた方が良いかもしれません。
アッシュ殿が飛び降りた際に邪魔になるかもしれませんし。
困った私は後ろへと少し下がります。
流石に邪魔をするのもマズいですし、私とアッシュ殿がぶつかって転倒など最悪です。
逃げられなくなる恐れが高いので、それだけは避けなければいけません。




