01-17-0017
Side:アッシュ
武器を綺麗にしてもらった私は、昨日のファングボーアを討った木札を持ってハンター協会へと向かう。
提出していないので提出しておかねばと思ったからだ。
それが終わったら昼食を食べようとハバン殿と確認し、そしてハンター協会の扉を開く。
すると、少し騒々しい声が聞こえてきた。
「いちいち下らねえ嘘を吐くんじゃねえ!!
ハバンさんがそんな事をする訳がねえだろうが!!」
「あんたは見てないからそんな事が言えるんだよ!!
ならオレから奪ってないっていう証拠を出せや!!」
「だったら貴様こそハバン殿が奪ったと言う証拠を出せ!!
お前が言い出したんだから、お前が証明するのが当たり前だろうが!!!」
いったい何の言い合いをしているのか分からないが、ハバン殿の事で言い合いをしているらしい。
しかし、よくよく見ると片方は昨日の槍持ちだ。
あの男がハバン殿の事を言っているという時点で、何やら怪しい気がするが………。
まずは受付へと行こう。
「すみません。
昨日提出するのを忘れていたのですが、これはまだ有効でしょうか?」
「はい、獲物の売却をした木札ですね。少々お待ちください」
そう言って受付嬢は後ろに行ったが、紙を持って戻って来た。
「昨日買取所に持ち込まれた巨大なファングボーアは一頭しかありません。
この木札はそれで間違いありませんね?」
「ええ、間違いありません。
体高150センチほどあった大きさで、北東の森のヌシなんじゃないかという話でした」
「なんだって!? そいつはマジか!!」
「ああ、本当の事だぞ。
そいつは昨日傷も付けられないのに「オレの獲物」だと騒いでいたヤツだ。
仲間が2人死んでいるにも関わらず、欲に目が眩んだヤツだった。なあ?」
「ハバンさん!! ……って事はテメェ、やっぱり嘘じゃねえか!!!」
「くっ!!」
昨日の槍持ちは嘘がバレたからか慌てて逃げようとし、そして近くに居た人に足を引っかけられてコケた。
ズダン!!
「おいおいおいおい。
あれだけ派手な嘘を撒き散らしておいて、逃げられるとか本気で思ってたのか? ハバンさんは銀8級だぞ。
そんな方に対する嘘を許す訳がねえだろうが……!」
「ち、違う。アイツが奪ったのを擁護したから言っただけだ。
本当はアイツが奪ったんだよ!!」
「何を嘘を吐いてやがる。
お前は仲間の命を無視して欲に走ったから、他の仲間からも愛想を尽かされてたろうが。
勝てもしねえのに「オレの獲物、オレの獲物」と五月蠅かったのを忘れたのか?
あのファングボーアを瀕死に追い込んだのは、ここに居るアッシュだぞ」
「………そいつがですか?」
「ああ。アッシュは有望な新人でな。
有望すぎてマスターから巡回狩人になれって命じられちまってる。
だらかオレが色々と教えてるんだよ」
「「「「「「「「「「巡回狩人……」」」」」」」」」」
ハンター協会の中の人達が一斉に私に同情的な視線を向けて来た。
となると本当に厳しいのだろうと思うが、とはいえ私自身がそこまで悲観していないのだが……。
なんだか周りの人の方が私より悲観している気がする。
「ま、それはともかくとして、こいつは仲間達が仲間の死体を背負って去って行った後、オレ達を襲おうと近くに居たヤツだ。
オレにはバレバレなうえ、あっさりと叩き潰してやったんで走って逃げて行ったんだが……」
「ぷっ! ダッセ………」
「なんだと、お前!! ふざけるなよ!!!」
ドゴォ!!
嘘を吐いて騒いでいたヤツが笑われて怒り出したが、先程まで言い合いをしていた人物から殴られて吹っ飛んだ。
言い合いをしていた相手はリザードマンらしく、体に鱗がビッシリと生えている。
髪は青色なので、水の神の加護持ちのようだ。
「ハバンさんの嘘を撒き散らしておいて何様のつもりだお前?
当然だが、覚悟はできてるんだよなぁ?」
「あれだけ派手に嘘を吐いてたんだもんなぁ、当然その覚悟はできてるんだろうよ」
「おーい、お前ら。
一応言っておくが、殺すなよ。殺しは駄目だぞー」
「分かってますって。殺しはしませんぜ、殺しは」
つまり殺しはせずに酷い目に遭わせるという事か。
しかしああいうヤツは何度でも同じ事を繰り返しそうだし、そこまでの目に遭わせるしかないんだろうな。
そこまでやっても懲りそうにないが、改心しなければ多分死ぬだけだろう。
ハンターだからその程度で済むのであって、裏稼業の連中ならすぐに殺しているだろうしな。
実際に闘技場にもそういう連中は沢山来ていた。
流石に私に負けろなどとは言わなかったし、連中は私にばかり賭けていたがな。
あの連中は現金なもので、私の負けを願って賭けるなんて事は無かった。
とにかく勝つヤツに賭けて儲ける、そこは徹底していたと思う。
更に常に来る事はなく、たまに来て勝つぐらいだった。
あれもおそらくはオーナーに目を付けられない為だろう。
「しっかし、碌な事をしねえヤツだな。
アッシュも気を付けておけよ。
ああいう努力もせずに他のヤツをこき下ろして、相手を下げようとするヤツが居るからな。
口だけ達者なヤツはそれが多い」
「そんな者がいるんですね。
真面目にやっていれば銅の10級までは上がるんでしょう?
それで十分な気もしますが……」
「そういうバカほど、無駄にプライドがたけーんだよ。
実力が無いからこそなんだろうが、オレはこんなものじゃないって思い込んでやがるんだ。
それ自体は悪い事じゃねーんだが、だったら努力しろって話にしかならない。
しかし、そういうヤツほど努力をしねーのさ」
「そうそう。
上に行くヤツとバカの違いは、オレはこんなもんじゃないって思った後、努力するかどうかだ。
上に行くヤツってのは必ず努力したヤツであって、努力してないヤツで上にあがれたヤツは居ない」
「誰もが努力して届くのが鉄級から上だよ。決して努力なしに昇れる階級じゃないんだ。
特に鉄級への昇格試験は自分だけでやる必要がある。
今までチームを組んで頑張っていた奴らにとっては難関なのさ」
「ああ。役割分担が出来ず、全てを自分でしなければいけないから」
「そういうこった。
だからこそ、昨日オレは鉄級に上がってから文句を言えって言ったんだよ。
一人である程度の事が出来る一人前の腕、そう判断されるのが鉄級だ。
だから銅級と鉄級には思っている以上の差がある」
「依頼をする方も、それが分かっていて鉄級に依頼している事も多い。
銅級で無理に受けて赤っ恥っていうのも割とある話だ。
恥を掻きたくないなら無理に受けるのは止めとけ」
「分かりました」
私がそう言うと、周りのハンター達は微妙な顔をし出した。
いったいどういう事だろうか?
「ハバンさん、コイツ大丈夫なんですか?」
「アッシュは元奴隷闘士でな、それも子供の頃に騙されて奴隷闘士にされたクチだ。
だもんで、ああいう喋り方しか教えてもらってねえんだよ」
「なんてこった……! まだそんなバカな事をするヤツが居たのかよ」
「マジかよ………本当に碌でもないヤツってのは居なくならねえな」
「騙して奴隷闘士って、何百年前の話だよ。冗談だろうって言いたくなるぜ」
「もしかして前に男爵の妹が捕まったとか言ってたけど、まさか………」
その言葉と共にハバン殿に注目が集まるが、ハバン殿は何も言わない。
しかし何も言わないのが答えだと悟ったのだろう。全員が口を閉じて黙った。
まあ、貴族の事だからな、言いにくいのはよく分かる。
たとえ捕まって断罪された男爵であっても、悪口などを言っていただけで騎士や兵士に捕まってしまう。
口にしないのが一番良いのは間違いのない事だ。誰が告げ口をするか分からないのもある。
実際に逆怨みの相手などを、そういう方法で潰す者も居るらしいと聞く。
迂闊な事は言うべきじゃない。




