01-16-0016
Side:アッシュ
ドーヴァルを十分に狩った私は王都に戻り、そしてハバン殿の案内で錬金術師の店へと行く。
しかし、町中の人が鼻をつまんで避けていくぐらいには臭い。
仕方がないのだが、持っている私も臭くないわけではないので早く売りたいところだ。
ハバン殿が案内してくれた錬金術師の店の扉を開き、中へと入る。
すると草の臭いが濃い中、こちらに背を向けた女性が居た。
なにやら調合をしているらしい。
「すみません、ドーヴァルの睾丸を買い取ってほしいのですが」
「………ちょっと待ってて、今は手が離せない」
「分かりました」
どうやら何かの作業中のようなので、私は睾丸の入った袋を持ったままウロウロする。
といっても、見てもよく分からない物が並べられているだけで、おそらく専門家でないと価値は分からないのだろう。
迂闊に触ったりする訳にもいかないので、私はカウンターの前で待つ事にした。
「………お待たせ。とはいえ、ちょっと待って」
そういって女性は裏の扉に移動していったが、その下半身は蛇だった。
どうやらこの店の店主はラミアーだったらしい。
土の神の加護を受けている茶色の髪は有名で、それにより作物を育てるのが得意だと聞く。
何でも田舎の村での結婚率は100%を誇るそうだ。
ガチャッ、バタン。………ゴトッ。
「睾丸は全てこの中に入れるんだけど、まずは布袋を出してくれる?」
「こちらです」
私は左手で持っていた布袋を渡したのだが、ラミアーの店主は器用に汚れないように開き、そして木の枝のような物で瓶の中に入れていく。
瓶の側面には<ドーヴァルの睾丸>と書いてあるので、それ専用の瓶なのだろう。
専用にしないと他の物に臭いが付くかもしれないし、そうなると薬が臭いという事にもなりかねない。
なので専用の瓶を使うんだろうな。
「全部で22個。11体分の睾丸だから小銀貨11枚」
「………思っている以上に高く売れるんですが、鼠や兎より稼げるんですね?」
「まあな。ここは王都であり精力剤の需要も多い。
裏通りには娼館も多いし、そういう店での需要もある。
これが田舎に行くと需要が減るうえ、そもそも作れる薬師が居ない場合すらあるからな。
そうなると買い取ってもくれない害獣にしかならねえのさ」
「害獣ですか………もしかして」
「そう。お前さんが行かされる場所も、その可能性がある。
売れる素材のモンスターが居ても、加工が出来なきゃ売れねえ。
そうなると得も無くモンスターを狩る必要が出て来る。
そういうのも巡回狩人が嫌われる理由だ」
「ハバンが居るから変だと思ったけど、彼が新人の巡回狩人?」
「そうだ。
アッシュに紹介しておくと、彼女は王都一の錬金術師だが偏屈でも有名だ。
気に入らない相手には売らないし買い取らない。
挙句に強いから逆怨みの連中はボコボコにしてきた強者でもある。
喧嘩は無いと思うが止めとけ」
「いえ、そもそも買い取ってもらえますし、喧嘩をすること自体があり得ないのですが。
そもそも喧嘩になるって何をやったらなるんですか?」
「一晩相手をしろとか言ったら、問答無用で殴り飛ばす」
「それは言ったヤツが悪いでしょう。どう考えても」
「まあ、そうなんだが………店主のキーシュカはコレだろ?
バカな事を言う奴らが後を絶たないんだよ。
気持ちは分かるが、言っていい相手と悪い相手の区別ぐらいつけろってんだ。
デュジュなら笑って済ませるだろうが、誰も彼もがああじゃねえっての」
「その通り。
だけどそれを言っているヤツが私の体を見て鼻の下を伸ばしてる」
「………」
どうやらまたハバン殿は胸などを見ていたらしい。
男の性とか言うらしいが、私はそれが出来ないのでちょっと思うところもある。
果たしてしない事は男として正しいのだろうか、と。
「そういうのは男の性だから我慢しているけど、口に出したらブッ飛ばすのは当然」
「ラミアーって力が強いからマジで危険なんだぜ? アッシュは大丈夫だが、俺はこええよ」
「新人は大丈夫?」
「私は色々と教えられましたので、逆にそうやって見る事が出来ません」
「………なるほど、それも歪な事には違いない。
私は鬱陶しくなくて助かるけど、貴方を好む女性は辛いかも。
そういう目で見られないというのは、女の魅力に乏しいとなってしまう」
「そうなんですね。
何度も教育されたので、見ないのが正しいと思っていました」
「それもアレだよなぁ………歪めまくってるっつーか、良くないよなって思うわ。
借金漬けでそうなってる連中は自業自得だが、子供の頃からは流石に駄目だろうとしか思わないな」
店主のキーシュカ殿が小銀貨11枚をカウンターに置いたので受け取る。
とりあえず綺麗な右手で受け取り、後で手を洗ってから貨幣袋の中に入れよう。
「手ならそっちのドアから出た所で洗える。
石鹸も置いてあるから洗うといい」
「すみません。それじゃ、お借りします」
私はそう言って店の左にある扉から出ると、そこは庭になっており井戸があった。
私は井戸の中の桶を右手で引っ張っていって上げて来る。
滑車があるので上げやすいな。
闘技場の井戸には無かったので、両手が使えないと上げられなかったし重かったのだが……
便利な物があるのはいいなと思いつつ、最後は左腕を桶の取っ手部分に通して上げた。
その後は井戸の縁に置いて左腕を外し、右手でもう一つの桶に水を入れる。
後は置いてあった石鹸を借り、手を洗う。
それで終わりのはずだったのだが……
「すんすん………やっぱり一度じゃ取れないな? もう一回洗うか」
私は再び手を洗い、それで臭いが取れたので戻る。
すると、店主とハバン殿は私の金棒を見ながら話していた。
「アッシュ、綺麗に臭いは取れたか?
2、3回は洗わないと綺麗に落ちないぜ?」
「1度目で落ちてないのに気付いたので、2回洗いました。
流石に臭いもしませんので大丈夫だと思います。
それより私の金棒がどうかしましたか?」
「いや、こいつも汚れてるし、ナイフも汚れたろ。
それも綺麗にしておいた方がいいと話しててな。
【水魔法】使いの所へ行くか」
「はあ………分かりました」
「町中で井戸の近くに座っている者が居たら、それが【水魔法】使い。
お金を払ったら綺麗にしてくれる。
武具の手入れで汚れを取るのは大変だけど、【水魔法】使いは綺麗に出来る数少ない魔法使い。
だからそれを商売にしてる」
「睾丸は関係なく頭を潰しただけだからな、そこまで臭くはないが一応ってトコだ。
帰りに多少は落としてたが、アレで綺麗になったとは思えねえし」
「汚れが付いたままだと、そこから錆びてきたりする。
なので綺麗に汚れを落としておいた方がいい。
何事もしっかりとしておくことが重要」
そうだな。
武具の手入れも含めて、自分が出来ないところは他人を頼ってでもしっかりとやっておいた方がいい。
「確かに仰る通りですので、綺麗にしてから戻ります。
石鹸も含めてありがとうございました」
私はそう言って錬金術師の店を後にし、町中を歩いていく。
ハバン殿も頼んでいる者が居るらしく、そこに案内してもらって綺麗にしてもらう。
水が魔法によって勝手に動き、金棒やナイフから汚れを綺麗に取っていった。
そのうえ水がまったく残っていない。
「【水魔法】使いって凄いんですね」
「まあな。
戦いではあんまり役に立たないが、サポートという意味では居なくちゃ困る魔法使いだ。
他のサポートといったら【風魔法】使いだな。風を操る事で敵の位置を割り出したり出来る。
他には眠り薬の煙を敵に送ったりとかだ」
「攻撃とサポートは【土魔法】ですね。
地面の揺れで敵の位置を探ったり、土や石をぶつけて敵を倒せます。
完全に攻撃なのは【火魔法】ぐらいですよ。
火を着けるなんて火打ち石で出来ますしね」
「ああ。【光魔法】は明るくしたり目を潰したり、【闇魔法】は逆に暗くしたり目を潰したり。
【生魔法】は一部のヤツしか使えないが、傷を治したり出来るからな。
代わりに肉が減るらしいが……」
「それよりも切られた手足がくっ付けられる方が重要でしょう。
あんなの【生魔法】使いにしか出来ませんよ」
確かに凄いが、なるべくなら世話になりたくないものだ。




