01-15-0015
Side:アッシュ
私はドーヴァルの睾丸を入れた袋を左手で持ち、右手で金棒を持って歩く。
においを嗅ぎつつ次の場所へと向かっていると、何やら音が聞こえて来た。
ハバン殿と顔を見合わせた私は、すぐに走って音のする方向へ。
誰かが襲われているのかと思っていたら………
「うふふふふふ………そぉれ!!」
バシィッ!
「ウギャッ!?!」
「あはははははは………!!」
ビシィッ! バシィン!!
「ギャァッ!!!」
「ゲヒィ!!?!」
そこには際どい黒い皮服に身を包んだ女性が、短い鞭でドーヴァルを叩いていた。
いや、ドーヴァルは出血しているので相当に強い鞭なんだろう。
それを嗤いながら使っているのは、長身で背の高い、胸の非常に大きな女性だった。
「そこのオーク族の女性よぉ。
悪いんだが止めをキッチリ刺してくんねえか?
流石にモンスターといえど嬲るのはどうかと思うぜ?」
「あら、誰か居たの? ………って、ハバンじゃない。
なぁに、もしかしてアタシの体が恋しくなった?」
「なってねえよ! あんたに付き合ったら、干乾びて死んじまうわ!!」
「あらら、残念。なら隣の子?」
「もっと違うわ! こっちは新人のアッシュで、今はオレが色々と教えてる最中だ」
ハバン殿がそう言うと、ドーヴァルに止めを刺したオーク女性の目が非常に鋭くなった。
おそらくだがこの女性、ハバン殿と似たような強さをしているはずだ。
闘技場での経験で考えると、相当にヤバい人物だというのが分かる。
「へぇ、正確にこっちを見定めようとするなんてやるじゃない」
「おいおい、止めろ。
このアッシュは新人だが、マスターから巡回狩人にされたんだ。
少しは優しくしてやってくれ」
「………新人を巡回狩人って正気? もしかしてルザワンズも遂に耄碌した?」
「してねえよ! アッシュが新人とは思えねえほどの実力をしてるからだ。
昨日も体高150はあるファングボーアを一撃で瀕死に追い込んでるんだ。
尋常な強さじゃねえよ」
ハバン殿の一言で更に目線が鋭くなった。
この人物……マスターに匹敵するかもしれない。
ハバン殿以上だ。
「デュジュ、あんたが睨むようなヤツじゃない。
アッシュはガキの頃に騙されて22年も奴隷闘士をさせられてたんだよ。
オレがこの前の仕事で潰してきたんだが、その後の身の振り方がハンターだっただけだ。
とはいえ22年も生き延びてきただけあって強いがな」
ハバン殿の言葉を聞いたオーク族の女性はやっと緊張感を和らげた。
しかし睨まれるだけでも厳しかったが、世の中にはこんな方がゴロゴロ居るのか?
だとすれば私は相当に弱い部類に入るぞ。もっと強くならないとな。
「アッシュ、お前も勘違いするな。
このデュジュはマスターとまともに戦えるくらいであり、ほんの一握りしかこの強さのもんは居ねえよ。
お前さんだって十分な強さは持ってる。
世間を知らないのは仕方ねえが、変な勘違いはしないようにな」
「確かに奴隷闘士なんてやらされてたのなら知らないわよね。
私は元というか、今もだけど金級のハンターよ。
近衛騎士の仕事も暇だから、たまにこうやって遊んでるの。
ついでに遊ぶ男との精力剤も居るしね」
「………という事は、つまり?」
「そう。2人いる金級ハンターのもう1人ってのは、このデュジュの事だ。
っつーか、近衛騎士になったのに遊んでて怒られないのかよ?」
「いやだわ、もう。非番だからやってるに決まってるでしょう。
ヤるのは普段の日に騎士を連れ込めば済むけど、睾丸を集めるのは非番の日くらいしか無理なのよ。
ついでに王様にも渡してるから公認だし」
「陛下も陛下で、デュジュに何をやらせてんだか……」
「金級ハンターの方とは知らずに申し訳ありませんでした。
自分は新人のアッシュと言います。よろしくお願いします」
「…………今の子がこんな硬いって事はないでしょうから、このアッシュが硬いのね?」
「アッシュはそういう風な言葉使いしか教えられていないんだと。
ほぼ確実にそっちの用途の為の仕込みだろうよ」
「碌でもないわねえ……。
女は男を誘惑してこそでしょうに、金で買えば済むとか女失格よ。
それも奴隷を買うとか駄目すぎるでしょ」
「あんたもあんたで考え方がズレてる気はするけどな。
男だって普通に買うんだから、女だって買うのはおかしくないと思うがね?」
「それはね。でもアタシの美学には反するわ。
アタシは絶対にそんな事をしないし、そんな事に手を染める気も無い。
だって買ったら当然のように堕落するもの。
相手がしてくれて当たり前になってしまうじゃない? それは私にとって許せない事なのよ」
「まあ、よくは分からんが好きにしてくれ。
それよりアッシュもドーヴァルを狩るが構わないか?」
「もちろんよ。
既に精力剤の分は確保してるもの、だから狩っても問題ないわ。
…………それよりアッシュ、貴方相当に訓練されたわね? 私の体をまるで見ないもの。
どこかの誰かさんは舐め回すように見て来るのにね」
「………」
ハバン殿が顔を逸らしたので、どうやら物凄く見ていたらしい。
「確かに目線の置き方や会話の仕方。
女性が喜ぶ仕草や方法、それに行為の仕方も教えられました」
「やっぱりね。
そういう仕事をしているヤツって、絶対に欲の篭もった視線を向けて来ないのよ。
だから私も楽しくないし、それが理由で誘惑しないんだけどね。
欲が無くては燃え上がらないじゃない?」
「それを聞くと、教えられるって可哀想な感じがしてきたな」
「実際に可哀想よ。自分の欲を押さえ込んで奉仕する事を強要されるんだもの。
しかも子供の頃からそれを教えられると、それが当たり前になっちゃうの。
それもあるから奴隷を買うヤツは嫌いなのよ」
「なるほどな。デュジュが怒るのもよく分かるぜ。
それはそうと、オレ達はそろそろ行かせてもらうがいいか?」
「いいわよ。アタシもそろそろ王都に戻ろうと思ってたしね。
それに睾丸を売ってくれれば、それだけ精力剤のストックが増えるから助かるわ。
陛下も喜ぶでしょ」
「その話は色々な意味で聞きたくないから、オレ達は行かせてもらう。
じゃあな」
ハバン殿が歩きだしたので、私はデュジュ殿に一礼してからついていく。
その礼を見て一瞬眉を上げられたが、すぐに元の表情に戻された。
マスターもそうだが、どうも女性用の礼や仕草はしない方がいいらしい。
覚えておこう。
その後はドーヴァルを探しては殺し、睾丸を切り取っては死体を放置していく。
股間が私達と変わらないからか、最初は若干の躊躇があったが今は無い。
さっさと切り取っては布袋に詰めていく。
「その小さな布袋もいっぱいになったし、そろそろ帰るか。
どうやらドーヴァルを殺す事も大丈夫みたいだしな」
「どういう事ですか?」
「自分と同じ2足歩行の相手を殺す際にはな、躊躇したり吐いたりする者が居るんだよ。
これは仕方ない事でもあるんだが、アッシュは大丈夫だと分かったって事さ」
「そういう事でしたか。
とはいえ闘技場で人間とか人狼族とか狐人族なども殺してきているので、今更だとは思います」
「………あのクソ女、モンスターだけじゃなく奴隷同士の殺し合いまでさせてたのかよ。
興行としての戦いは認められているが、殺す事までは認められてないぞ。
未だに古い時代と同じ事をさせてたとは………本当に碌なところじゃなかったみたいだな」
まさか殺し合いすらやってはいけない事だったとは……。
私は今までに何度も殺してきているぞ。魔人族もだしオーガ族も居た。
他にも多くの者を殺してきたが、彼らはどこから連れて来られたのだろう?
うろ覚えだが、おそらく100人以上は殺してきたはずだ。
それが駄目な事なら、そんなに沢山連れて来ただけでバレるはず。
その割には……




