04-39-0164
Side:アッシュ
私とラフィル殿はゆっくりと、しかし確実に進んで行く。
向こうには盾と鞭があったが、こちら側には階段があった。
まだ上があるとはいえ、先が無いよりはマシだ。
もしかしたらどこかは壁で閉じられているかもしれないが、こちら側なら偽装はされていないだろう。
「ですね。
民に気づかれないように偽装をしていたとしても、こちら側に偽装をする意味はありません。
となると外へと通じる部分が壁で埋められていても分かるはずです。
何処へ行っても行き止まり、となった場合は壁に注目しましょうか」
「おそらくそれだけだと思いますが、必ず壁とも限っていません。
なので思い込みは無しで調べましょう」
私もそうだが、思い込みによる失敗というのは必ずあるからな。
それだけは無いようにせねば。
それを戒めながら、私は階段を上る。
上の階も変わらず土の地面であり、私は通路をゆっくりと進む。
どこから針が飛んでくるか分からない為に慎重にだが、不思議と撃たれずに通路の先の部屋へ。
そこには大きな鼠が8匹いたが、私が杭で刺し殺しつつラフィル殿が鞭で牽制。
これだけで勝利できた。
「流石に1匹の鼠が鞭で重傷を負ったからか、それ以降は悉く上手く牽制に引っ掛かってくれましたね」
「思っているよりも威力が高いといいますか、もしかしたら私の力が昔よりも強くなっているのかもしれません。
【身体強化】をすると元の力が分かりにくいですが、昔といいますか、玉体を飲まされる前より強くなっています。
それも思っているよりも」
「思っているより………もしかして、若い頃よりも強いという事ですか?」
「ええ、若い頃よりも力が強いと思われます。
元々私は寿命まで残り少ない年齢でした。
しかし今は明らかに若返っている感じですし、昔よりも体が強くなっているのが分かります。
となると、やはり別の種になっているのでしょう」
「仮になったとしても、ラフィル殿は変わっていないのだと思います。
なら体の変化は大きな事ではない。そう思いましょうか」
「ですね。
この体に慣れていけばいいだけで、別に私が根元から別の者になったと言う訳でもないのです。
千年後に目が覚めた事に比べれば些細な事でしょう」
まあ、私が気を使わなくても後ろ向きにはならなかっただろう。
それだけの年月を生きてきたはずだ。
とはいえ、心に傷を負っている可能性もあるので、なるべくおかしな事にならないようにしておいた方がいい。
妙な亀裂が入っても困る。
私達は鼠の死体を放置して先へ。そのまま進むと元女官を発見した。
どうやらコウモリを食べているようだが、触手が大量にウネウネしているタイプだった。
ラフィル殿はキノコだったが、こいつは肉の円柱みたいな物からラフィル殿以上に大量の触手を生やしている。
「っ………!」
「私が前に出ます。
おそらくこちらを攻撃してくるでしょうから、危ないと感じたらすぐに下がって下さい」
「分かりました!」
私は素早く近づくも、やはり予想した通りに触手がこちらに向かって来た。
それらに大して斧を振るも、柔らかく受け止められてしまい切れない。
予想外だったが、攻撃しても力を抜いて流されてしまう。
これでは斧で切る事は不可能だ。
そのうえ他の触手が狙ってくるので、細かく盾を動かして防ぐしかない。
仕方なく私はタイミングを計り、斧を本体だと思われる円柱に投擲。
【身体強化】を使った一撃はよく効いたのか絶叫を上げる元女官。
「FFGHRTHWFQーーー!! ERVWRTBR!!!!」
「すまないな。だがこれで終わりだ!!」
私は素早く前方へステップすると、刺さっている斧を抜き取り、ブルーオーガの【身体強化】で振り下ろす。
スドォン!!
その一撃で円柱の半分以上を切り裂かれた元女官は、体液を撒き散らしながら倒れた。
私は素早く駆け寄り、触れながら浄化の女神に祈る。
するとサラサラと崩れ去ったので、間違いなく元女官だった。
もしかしたらという可能性もあったのだが、やはり元女官だったらしい。
私は残った<混沌の種>を吸収し、<内なる目>が広がったのを確認するとラフィル殿に声をかける。
「このような事を行った神殿は許しがたいですが、何故にそこまで寿命を求めたのでしょうね?
いえ、長く生きたいというのは誰しもが思う事なのでしょうか?」
「おそらくは、そうだと思います。
その中でも特に寿命の短い種族は求めるでしょう。
昔からそういう話はありました。種族ごとに大きく寿命は違いますからね。
短い者からは「なぜ神は我々を不平等に作ったのだ」と、そう不満を口にする者もおりました」
「そうですか。
とはいえ闇妖精族や光妖精族、もしくは妖人族ぐらいでないと寿命に文句を言うような気はしますけどね」
「闇妖精族と光妖精族ですか? 彼らですら不満を言う者は居ますよ。
なので寿命の事で何も言わないのは妖精族ぐらいでしょうね。
流石に千年は長いのだと思います。
妖精族のお年寄りには、いつ命を手放してもいいという方が多いですから」
「そこまでですか。となると心の方が保たない?」
「おそらくは……」
長く寿命があっても、心の方が保たないとは……
だから国境であった女性チーム、そのリーダーである光妖精族のシェリア殿は男を喰らっていたのだろうか?
長生きで心が疲弊するから。
ま、それは横に置いておくとして先へ進もう。
この調子で元女官達を救っていかないといけないし、どこまで続いているか分からないんだ。
足踏みしていても仕方ない。
私達は更に先へと進んで行き、モンスターも元女官達も倒していく。
そして3階ほど上に上がった時、ついに階段が無い階層に突き当たった。
私達が話していた通りの階層があったので、モンスターと元女官達を倒した後に探していく。
「想像通りに出口の無い階層がありましたね。
途中で地底池はありましたけど、そこの水は相当に汚かったから手を付けていません。危な過ぎますし。
なので早めに脱出したいところです」
「私としては、あの元女官達ですら勝てない恐ろしいモンスターでも居るのかと思っていましたが、それは無いようで安心しました。
そうだったら生きて出られないところでしたよ」
「分かります。
あの元女官達が勝てないとなれば、私達でさえ勝てるか分かりませんからね。
それはともかく………ありませんね」
「ええ、この部屋ではないのでしょうね。なので他の部屋を探しましょう。
念のために天井も調べていますが………」
私も確認しているが、そんな感じの場所は無い。
というか、この階層は天井も含めて完全に土だ。岩がある場所も無い。
なので分かりやすいはずなんだが、壁となっている場所が見当たらない。
土の階層だから壁部分が見えなくなっている?
「長年の経過の所為で、綺麗な壁部分に土が落ちて来て付いたという感じでしょうか。
それなら綺麗な部分が見当たらないのも分かります。が………」
そうだ。
それが事実なら壁一つ一つを触ってチェックしなきゃいけなくなる。
そこまでせずとも見つかるだろうし、どんな汚れが手に付くか分からない。
あんまりしたくないし、出来れば簡単に見つけ出したいところだ。
なのでもう一度見回ろう。それで見つかるはず。
「ならいいのですが………いえ、とりあえず見回ってからですね。
戦闘直後では正しく見回ったとは思えないですし、注意して観察すれば何かが分かるかもしれません。
ここまで来て諦める訳には……」
出口が無い可能性は極めて低い。
そもそも誰かが一度は入ってきているのだ。
だからこそ【転移魔法】で飛んでこれるのだし、飛んでこれるという事は繋がっている。
問題はその繋がりがどこにあるかだが、そこは必死になって調べるしかないな。




