04-38-0163
Side:ラフィル
更に先へと歩いて行くと、それ以上は無く行き止まりでした。
しかしアッシュ殿が斧の反対側で壁を叩くと、崩れ去り先が見えるように。
これが【土魔法】使いが作った隠し部屋の入り口ですか。
確かに言われてみれば綺麗な壁ですね。
アッシュ殿が入った後に私も入りますが、そこには大量の邪獄樹がありました。
アッシュ殿が言うには、おそらく各地の邪神様の像だろうとのこと。
杭などは、その邪神様の像が持っていた物ではないかと言っていましたね。
私もそう思いますが、それと奉納された物も一緒に捨ててあるのだと思います。
邪神様の痕跡を徹底的に消そうとしたのか、それとも邪気を集めるアレらを封印しようとしたのか……
「邪気を集める?」
「おや、アッシュ殿は知らなかったのですね。
邪獄樹は邪気が集まって出来た物ですが、同時に邪気を集める物でもあります。
なので昔は邪神様の像を邪獄樹で作り、定期的に浄化の女神の女官や【浄化魔法】使いが綺麗にしていたのです。
そうする事によって邪気を減らしていました」
「なるほど、昔はそうやって下界の者も自ら浄化していたのですね。
今はおそらくやっていないでしょう。
邪神を悪だとし、邪神の像すら置いていませんので」
「邪獄樹で作らねばならないのですが……ここまでだと邪獄樹ですら放置されていそうですね。
邪獄樹は邪気を吸い取り集めるので、邪獄樹という名ではあるものの大事な木なのです。
邪気を集めて浄化する、その流れが途切れない事こそが大事だというのに……」
「その流れが下界に無いという事は、邪気が滞ってしまっている?
それは結構マズいのではありませんか? 今ここで綺麗にしても、幾らでも出てくる訳ですし」
「ええ。
今がどうなっているかは見た事が無いので分かりませんが、少なくともここに邪気が溜まっているのは分かります。
それでも入って来た時よりは随分とマシですけどね。
アッシュ殿が浄化しているからでしょうが」
「自分としては居るだけなんですが、それでも浄化できるというのは良い事だと思っています。
……っと、何かが残りましたね。蔓と円盾?」
私も見ますが、結構長い蔓ですね? 邪獄樹の一種でしょうか?
邪草や邪蔓というのも確かにありますが……これは唯の邪蔓ではなく持ち手が向こうに見えていますね。
という事は鞭ですか。それと円盾……
「これはどう考えてもラフィル殿が身につけるべき物でしょう。
鞭は威力が高いですし、円盾で防御も出来ます。
杭よりは使いやすいのでは?」
「そう、ですね。
持ち運びは便利ですが、いざ戦いとなると………【身体強化】をしないと高い威力は出せません。
それでもアッシュ殿のような威力は出ませんし、それならば援護もしやすい鞭の方いいでしょう」
「なら杭は仕舞っておきます。
それと鞭と円盾は私が触って浄化してからにしてください」
「ええ」
流石に私も、アレほど邪気塗れの物を触ろうとは思いません。
邪気に汚染されそうな程に塗れていますし、アレは危険すぎます。
<邪獄樹を長年放置してはいけない>というのは、神殿の常識だったはずなんですけどね。
やはり昔からの事が伝わっていないのか、途中で勝手に捨てたのでしょう。
そうやって大事な儀式も失われていったのだとすると、あれから千年というのは色々とマズい気がします。
「面倒な儀式だと放り投げたのか、それとも邪神様を悪と断じて捨ててしまったから儀式が出来なくなったのか。
どのみち邪気が集まるだけで減っていないのであれば、今の時代はかなり悪いという事になるのですが……」
「かなり悪い?」
「今は邪気が見えますが、かつては見えませんでした。
そして邪気が体に溜まると、体調を崩したり大病を患うと言われていたのです。
なので風邪と同じく万病の元と言われていました。
それを解消もしないままに千年というのは相当にマズいのではないかと思います」
「確かにそうなるとマズいですね。万病の元が綺麗にもならずに溜まっているという事でしょう?
それでも浄化の女神の女官などが色々としているのか、死ぬほどの邪気の濃度にはなっていませんね。
そもそも見ただけで分かる邪気の濃さというのは、邪獄樹を見た時ぐらいしか見た事がありませんし」
「そうですか………」
「………」
アッシュ殿は急に黙ってしまいましたが、何かあったのでしょうか? 何やら考え込んでいるような、そんな表情をしています。
「アッシュ殿、どうかしましたか?」
「いえ………凄く怖い事を考えたのですが、もしかして下界には似たような被害を受けた女官が多くおり、これと似たような場所が多くあるのではと。
何となくそう思ったのです」
「まさか、元女官達が邪気を集めている?
なので一般の人達の所には邪気が行かない……と?」
「あくまでも可能性ですが、そもそもこのような場所自体を初めて知りましたからね。
他にも似たような場所はあるかもしれませんし、無いとも限っていません。
ここも邪気が濃くて変貌しているぐらいです。
可能性としては考えられます」
「だからこそ、ここのモンスター達は邪気で変わってしまっている? ですが、それが事実なら……」
「それでも私は元女官の方々を解放します。そのこと自体は一切変わりません。
そもそもこんな事が許されていいはずがありませんし、元女官達を邪神の代わりにするなど決して正しい事ではありません」
「ええ、それは間違いのない事実です」
「だいたい、そんな事をしているからこそ、多くの神様が去って行ってしまわれたのでしょうに。
これだけ醜い事をやっているとなれば、どれだけの神様が残っておられるのやら……?」
「神様が下界を離れた? いえ、我々を見捨てられたという事ですか?」
「ええ。リビ殿はそう言っておられましたよ。
リビ殿自身も下界の者の醜さに愛想が尽きたと言っておられましたしね」
「………」
神々が我々下界の者を見放す事はあるのでしょう。
しかし千年の間に多くの神々が離れられ、現在はもうほとんど残っておられない可能性があるのですか……
下界の者の愚かさに嫌気が差すというのは、そういう事を受けた私だからこそ分かります。
ただ、それでも神々は見守って下さっているとばかりに思っていました。
まさか神々から見捨てられるという事があるなど……
本当ならば由々しき事態なのですが、今の私には何の権限も力もありません。
そして今の神殿の者達はそんな事も知らずに生きている。
いえ、アッシュさんをここ転移させたのですから一部の者は知っているのでしょう。
ただ、知っているのは邪神様を罵るような不敬な者ばかりと。
外に出たら今の神殿に入って復帰しようかと思っていましたが、止めた方が良さそうですね。
今の神殿は危険すぎますし、私の髪は今でも濃い灰色です。
殺される可能性を考えると、今の神殿に入るのは危険すぎますね。
っと、分かれ道まで戻ってきましたか。
「話が少し長かったですかね? そろそろ弛緩している雰囲気を引き締めましょう。
盾を手に入れたとはいえ、怪我をする可能性はありますので」
「ええ。私は防御主体で戦おうともいます。
最悪でも引き付けていれば、それだけアッシュ殿は楽に戦えるでしょう」
「もちろんそうですが、出来得る限り怪我には気を付けて下さい。
その怪我からどんな病気になるか分かりませんので」
「分かっています。昔も大変でしたからね。
多くの者を看取ってきた事もあるのでよく分かっていますよ」
本当に多くの者を看取ってきました。
神殿には薬の知識のある者が居ますから、駆け込んでくる者は多いのです。
残念ながら薬の効かない重体になってから連れて来る方が多く、亡くなってしまう事も多くありました。
なので怪我だからといって、甘く考える事はしません。
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