04-37-0162
Side:ラフィル
アッシュ殿に言われて天井の壺型モンスターとやらを落とします。
杭は2メートルくらいありますが、あまり力が入れられませんので落とせません。
結局アッシュ殿に落としてもらいましたが、確かに壺型でウネウネしています。
見ていて気持ちのいい物ではありませんし、アッシュ殿は私に確認させると始末してしまいました。
中から水が出てきたので分かりますが、どうもこのモンスターは水分のある場所に生息しているみたいですね。
それと張り付ける硬い場所でしょうか?
「その割には地面の者達は土の上に居るんですよね。
イマイチその理由がよく分かりませんが、モンスターの生態など学者以外はどうでもよい事です。
それよりも進んで行きましょう。足元に気を付けて」
「それでは行きましょうか」
アッシュ殿を先頭に、私が後ろを気にしつつ進みます。
あの大きな邪獄樹製のタワーシールドは、鉱山の中にあった神殿に安置されていたそうです。
おそらく過去の誰かが作って奉納したか、使っていた物を奉納したのでしょう。
それ自体は昔からあった事です。
鍛冶師が自身の最高傑作を奉納したり、農民が食べ物を奉納したりというのは今もきっと変わらないでしょう。
そんな中にあの盾があったのでしょうが、使えるなら持って行くのは構わないと思います。
既に数百年は経っているでしょうから、奉納した方も気になされないでしょう。
アッシュ殿が盾を構えて歩いて行き、慎重に進んでいると急に立ち止まられましたね。
何かあったのでしょうか?
「初めてのモンスターが居ます。
蛇ですけど、体が異様に太いですね。
あと短い? 体が妙に短くて太い蛇でしょうか。
そんな感じのが曲がり角の向こうに居ます」
「分かりました」
私は曲がり角の向こうなど見えないのですが、どうやらアッシュ殿は“見えている”ようです。
そのアッシュ殿は曲がり角の先へと行きます。
私も曲がり角まで一緒に進むのですが、通路を見て驚きました。
通路の奥に奇怪な者を見つけてしまい、ついつい声を出してしまいます。
「アッシュ殿、通路の奥に異様な姿の者が居ます。
巨大な丸虫しょうか? そんな姿の者が向こうに」
「分かりました。
ラフィル殿は曲がり角の手前に居て下さい。
危険ですか、って来たか!」
ゴロゴロゴロゴロゴロ!!!
丸虫とは体を丸くしてコロコロと転がる虫の事です。
普通は防御反応なのですが、モンスターともなれば転がって来るので危険性が高……あんなに大きいのは初めてですね。
どういうモンスターなのでしょうか?
ゴロゴロゴロゴロ………ズン!
私が見ていると、大きな丸虫は太った蛇にぶつかり止まってしまいます。
どうやらお互いに邪魔なようですね。
アッシュ殿は斧を取り出し一気に接近。まずは蛇の頭に斧を振り下ろしました。
ドゴンッ!
その一撃で蛇の頭は半分に分かれたので、確実に息の根を止めたと思います。
そして斧を引き振りかぶったアッシュ殿は、続いて丸まった丸虫の頭に斧を振り下ろしました。
しかし……
ギィンッ!! ……ドッ!
「しまった。まさかここまで硬いとは予想外だったな。
仕方ない、棍棒で戦うか」
アッシュ殿は素早く武器を切り替え、そして棍棒を振り下ろしました。
ドゴォン!!
流石に棍棒の威力は高かったのか、一撃で丸虫っぽい大きなモンスターは頭が潰れて死亡したようです。
そこまでしなければ勝てないというのも、とんでもないとしか思えません。
が、アッシュ殿からは聞きたくない言葉が聞こえてきました。
「この丸いヤツ…………やはり間違いない、元女官だ。
まさかこんな姿になっているとは思わなかったが、今消す」
アッシュ殿が大きな丸虫に手を置いて祈ると、その丸虫は粉になったかの如くサラサラと崩れていきました。
あのようになるモンスターなど聞いた事がありません。
となると、本当に元邪神様の女官という事になります。
あのような姿になるなど見たくはなかった。
とはいえアッシュ殿とてそれは変わりません。
それに、あの姿のまま長く生き続ける。それもまた拷問だというのは痛いほど分かります。
あのような姿で自我も無く生きるなど……まさに生き地獄という他ありません。
アッシュ殿が殺すのを救いだと言うはずです。
あんな者になってしまっているなら、死こそ救いでしょう。
それ以外には無理だと思います。
「この下の蛇は崩れないな。となるとこっちはモンスターか。
それにしても太くて短いとは変わった蛇だな? 見た事も無いし、よく分からん」
確かにそうですね。私も見た事はありませんし不思議だなと思います。
アッシュ殿はその蛇を無視し、崩れ去った元女官が居た場所にあった<邪神の欠片>を持ち上げます。
魅入られそうになるのを必死で堪えていると、アッシュ殿の手の平の上でどんどんと小さくなり消えていきました。
アッシュ殿自身が言っていたように、確かに<邪神の欠片>を吸収できてしまうようですね。
それだけでも生まれ変わりだという事を信じていしまいそうになります。
私の時と同じように誰かが出て来るという事はありませんでしたが、私のように助かる者との違いというのは何なのでしょうか。
そこが分かれば助けられるかもしれません。
「自分もそう思いますが、しかしラフィル殿の場合は肉体が残っていたのでしょう。
他の方は肉体が変化した。ラフィル殿は肉体を残す形で変貌した。
という違いではないかと思います」
「私は肉体が最初から変化しなかった?
いえ、邪神様の加護が強かった為に肉体を変化させられなかったのかもしれません。
しかし、そうなれば私以外が残っている可能性は……」
「極めて少ないでしょう。
それこそラフィル殿しか助からなかったとしても仕方がない、そう思います。
むしろラフィル殿が助かったこと自体が僥倖と言うべきでしょう。
昔の事もこうやって教えてもらえる訳ですし」
「分からないままよりは、分かる方がいいとは思いますが……私が伝える側だからか、特に凄いとは思いにくいですね。
昔の事が分かるなんて凄いとは思いますが、あの当時も妖精族の方に聞けば古い事は分かりましたから」
どうしても自分が語る側だと、あまり凄い事のようには思えないのです。
実際に昔、古き時代の事を聞いて思いを馳せましたが………今は自分が語る側となってしまいました。
あの時に話を聞いた妖精族の方も、こんな気分だったのでしょう。
なんだか複雑と言いますか、私も歳をとったのだ言いたくなる。そんな気分ですね。
実際には若返っているので、どうにも言い難い感じなのですよ。
250年ほど生きる山髭族ですが、あの時の私は既に220歳を超えていました。
死を意識する年齢であり、あとは穏やかに暮らすぐらいかと思った矢先の出来事でした。
なので今のこの体は変わってしまっていますが、私からすれば若く張りの有る体です。
元の体ではない事を悲しむべきか、それとも若く瑞々しい体に喜ぶべきか。悩ましいところです。
まあ、最大の悩みはそれではなく、男性のアレが付いているという事なのですよね。
なぜこんな物がついているのかは理解出来ませんが、最大の困りごとがコレでもあります。
そもそもコレはどうすればいいんでしょうね?
私自身には今まで無かった物ですので、どうしていいのかサッパリ分かりません。
アッシュ殿に聞く訳にもいきませんし………
と思っていたらアッシュ殿は処理が終わったらしく、先へと歩き始めました。
私も意識を切り替えて歩いて行きましょう。
考えていた事がバレても困りますし。
それに危険な場所でもあるのです、もうちょっと危機感を持ちましょうか。
どうにも元女官の者を見たからか、思考がおかしな方向に流れましたね。
現実逃避をしている場合ではありません。
気合を入れましょう。




