04-33-0158
Side:アッシュ
「ほ、本当に髭が無い………それに額に目がある……」
今頃かと思うも、色々とあったし訳が分からぬので気が付いていない事もあるか。
しかし、既に種族が変わっている可能性が高いな。
どんな種族なのかは不明だが、それでも生きているだけマシというところだろう。
他の者達は生きる事もできんのだし………
「確かに額にも目があるようですが、これは………何やら見えますね?
おそらくは邪気だと思うのですが、それ以外にも見えていますか。
………こちらは魔力?」
ラフィル殿が自分の手を見ていたのだが、どうやら邪気や魔力などが見えるようになったらしい。
それは良い事だと思うが、そこまで凄い事でも無いな? 感じる事が出来たり、何となくで分かる事だ。
邪気はともかく神力に触れていた割には大した力ではないような……?
「………灰色の流れと紫の流れが見えるのですが、それ以外にも赤く見えているものと青く見えているものがあります。
そしてそれが揺れ動いているのですが、これはなんでしょう?」
「さて? 私には見えないので何とも言えませんね。
それよりも貫頭衣しかありませんが、これを着てください。
自分は着替えとか持っていないので、それぐらいしか無いんです」
「えっ? …………きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!!?」
慌てて後ろを向いたが、あまり意味は無い。
いちいち口に出さないが、私は周り全体が見えている。
なので私に背を向けても関係なく見えているのだ。
言うといちいち面倒になるから言わないがな。
「とりあえずこの貫頭衣を着てください。
私がかつて着ていた物ですが、無いよりマシでしょう。
それと、この箱型魔道具に魔力を流せば体が綺麗になります。
それをしている間に、私は水を綺麗にしておきますよ」
そう言って私は貫頭衣と箱型魔道具を渡し、地底池の近くに行って水を綺麗にし始めた。
ラフィル殿は恥ずかしがっていたもののすぐに貫頭衣を着ると、そのままこちらを見始めた。
私が何をしているのか気になるのだろう。
「それは………いったい何をしているので?」
「これはリビ殿に頂いた水を綺麗にする魔道具? と言えばいいのか………そういう物です。
上から水を入れると、下から綺麗な水が出て来るという物で、これの御蔭でお腹を壊さない綺麗な水が飲めるんですよ」
「そのような物が………
千年経ったと言っていましたが、それほどに時が経つと便利になっているのですね」
「いえ、こんな物はどこにもありませんよ。
私が言ったリビ殿は、正式な御名をリビョルシエヌラトモエドと言うそうです。
異なる星の神だったと仰っていました。
なんでも下界の者に愛想が尽きたので、色々な所を旅していると言われていましたね」
「………」
途端に胡散臭そうな表情をし始めたが、気持ちは分からなくも無い。
いきなり別の所の神様だと言われても、普通は信じないだろう。
………そういえば、あの時の私は疑う事もなかったな?
神様の力か何かで信じるようにされたのかもしれん。
ま、どうでもいいが。
「それよりも水をどうぞ。
流石に水分をとっておかないとマズいですからね」
「………大丈夫なので?」
「大丈夫ですよ。
というより、私も飲んでますし飲まなければ死んでいます」
「まあ………それは確かにそうでしょうね」
ラフィル殿は未だに疑っているようだが、それでもコップを受け取り恐る恐る飲み始めた。
考えれば簡単な事で、濾過したと言っている水を飲むか、直接池から掬って飲むしかないのだ。
どちらがマシかと言えば、濾過したと言っている方がマシな可能性が高い。
「………ふぅ。
あーあー、喉が大分マシになったようです。
先程から少々掠れた声でしたので、相当に乾いていたみたいですね。
実感としては薄かったのですが」
「随分と綺麗な声をしていますね? 初めて聞きましたよ、それほどの美声」
「あら、そうですか。
こう見えて子供の頃から神歌隊に入っており、よく人前で歌っておりましたの。
神を讃える歌から祭りの時の歌まで、声が良いと多くの食べ物を貰えましたのでね。
必死になって頑張ったものです。
………そういえば、何故この声が出るのでしょう?」
「は? ………その声が貴女の声だからでは?」
「いえ、先程も言った通り頑張ったのです。
いえ、頑張り過ぎて喉を傷めてしまい、そしてこの声は二度と出なくなったはず………
なのに、何故か今はあの時の声が出るようになっているのです。
しかもこの声は8歳か9歳の頃の声。
何故大人になった今でもこの声が出るのやら………?」
「別に気にしなくてもいいでしょう。
山髭族なのに髭が無くなっていたり、額に第三の眼がある事よりは些細な事です」
「………ハッキリと仰いますけど、確かにそうですね。
それはよいのですが、これからどうされるので?」
これからか………確かに考えなければいけないが、ラフィル殿にはここに居てもらうのが一番なのだがな。
どうにも芯が強そうな気がする。
「ここから下は全てのモンスターを倒してきています。もちろん元女官達も。
私は異形の姿に変わった彼女達を殺す事しか出来ません。
それでも異形の姿のまま、これからも生きねばならないよりはマシだと思っています」
「………」
ラフィル殿は真剣に聞いている。
私が言っている事が本当かどうか分からないが、それでも見極めようとしているのだろう。
それはともかくとして、私は言うべき事を言っていく。
「ここから上もまだありますし、そこでラフィル殿を見つけたというか助けたんです。
そもそもラフィル殿はキノコの茎の中に入っていました」
「は?」
「驚くかもしれませんが、本当に事実です。
触手が大量に生えたキノコが襲って来たので触手を切り落としていきました。
そして残りの触手が一本になった時に逃げ出しまして、その後は口伸び狼に噛み付かれていたのですが、そこを私が助けたのです」
「はぁ………?」
「その後に倒れて触手を向けてきましたが、向けて来るだけで何もしてこなかったのです。
で、お腹でも空いているのかと思い、リビ殿から頂いた食料を食べさせると触手も倒れました。
何が何やら分からなかったんですが、その後にキノコの茎が割れて、中にラフィル殿が見えたというわけです」
「訳が分かりませんね?」
「ええ。ですので私に聞かれても困るというところでしょうか。
そもそも私だって邪神の女官が実験に使われていたなど知りませんでしたし、そもそも神殿の闇でしょうから伝わってなどいません」
「そういえば、貴方は何故このような所に?」
ラフィル殿の眼が鋭くなった。
今まで私が言っていた事が事実であった場合、なぜこんな所に居るのかは疑問に思って当然だ。
私だって同じ立場なら怪しむ。
「私はそもそもガルセンツ王国のデルナル地方にある、領都ワクストンに行く途中だったのです。
で、その途中にあるルルムス地方の領都ヘデルまで行きました」
「はい」
「そこで領主に会い、話を聞く予定だったのです。
で、着いたのは夕方でした。
だから酒場に行き食事をしようとしたのですが、そこの酒場で歌い手に茶々を入れた愚か者が出ました」
「茶々?」
「はい。
御存知かどうかは知りませんが、酒場の歌い手は基本的に体を売っています。
にも関わらず、貴族が行くような食事所と同じような事を言い出しました。
歌い手の邪魔をするなと、せっかくの歌が聞こえないと」
「………ああ、金額交渉の上積みの邪魔をしたのですね。
それは私が生きていた頃から普通にありました。
というより、金額交渉は大事な事なのですが……」
昔から変わらず、あの金額交渉の形はあったんだなぁ。
野次るのは今も昔も変わらないらしい。




