04-30-0155
Side:アッシュ
この階層を全て調べ終わった私は、上の階への階段を上る。
タワーシールドを構えつつゆっくりと上がっていくのだが、今回は針を飛ばされる事は無かった。
が、何かの臭いがする?
生き物の臭いなのかモンスターの臭いなのか分からないが、何かの臭いがしてきた。
もしかしたらこの階層には、元女官以外の生きている存在が居るのかもしれない。
今までは臭いなどほぼしなかったし、それは元女官も変わらなかった。
しかしこの階層からは明らかに何かの臭いがする。
となると生きている存在が居る可能性は高い。
私は<邪獄樹の棍棒>を右手に持ち、ゆっくりと慎重に歩いて行く。
この暗闇では遠くまで見通せない。
場合によっては敵の方が早く私を発見する可能性がある。
なので少しずつ慎重に進んで行くが、曲がり角の向こう側から狼のような存在が来るのが分かった。
なので私は盾を構えて戦闘態勢をとる。
「GR……GRRUUA!!!」
何故か狼系のモンスターとは違う声を発しつつ、狼のモンスターは襲って来た。
のだが、口が突然伸びて盾に噛み付いてくる。
ガァン!!
「つう……! 口が伸びて来るとは思わなかったぞ。
いったいどうなっているのだ、お前の口は?」
そう言いつつも盾を構え、再び狼のモンスターと相対する。
口が盾にぶつかったが、非常に強烈な威力でビックリする。
後ろに下がらなかったものの、下がらされるかと思うような威力であったのは間違いない。
「GRRRRR…………GRUU!!!」
私を見据えつつ、一定の距離から近づいてこない狼のモンスター。
私はジッと盾を構えてその時を待つ。
そして噛み付いてきた瞬間にシールドバッシュを行う。
ドガァン!
口が伸びて襲ってきたが、それに対するカウンターとしてシールドバッシュを放つ。
そしてそのタイミングは合っていた。
こいつの噛み付きは信じられない程に速く、噛み付いてきたと思った時には動かないと間に合わない。
そんな噛み付きにカウンターを行った私は、痛みで呻いている狼に一気に接近してカチ割る。
ドゴォン!
その一撃で頭をカチ割られた狼は崩れ落ち、ピクリともしなくなった。
私は動いて来るかもしれないという警戒を続けたが、起きる事は無かったので警戒態勢を解除した。
なかなかに厄介だが、噛み付きを何とかすれば戦えるな。
ただし盾は必須だろう。
「よく分からないが、1メートルかそれ以上に口が伸びていたぞ。
いったいどういう方法なのか理解に苦しむが、頭のおかしいモンスターも居たものだ」
私は狼に近づいて死体を調べてみた。
特に口の周りを調べてみて分かったのだが、顎の近くの皮膚が非常に柔らかく、口の部分が伸び縮みするようだ。
この部分を薄くなるまで伸ばして、口だけでの高速噛み付きを実現させているらしい。
「変わったモンスター………だと思うのだが、もしかして生物なのか?
いや、こんな奇怪な顎というか口をしたモンスターなんて知らないぞ?」
私は首を捻りつつも、ここにはこういうモンスターが居るのだと把握しておく事にした。
他にはおかしな部分も無かったので、口だけが異様に伸びる狼が出て来る。
そのように覚えておけばいいだろう。
口伸び狼とでも言うか、そういうのが出て来る以上は慎重に進もう。
こいつ1匹しか居ないなどという事はあるまい。
私は死体を切り裂いて調べたものの、体の中に<混沌の種>は発見できなかった。
試しに触れて祈りを捧げてみたものの、崩壊したりもしない。
となると壺型モンスターと同じで、唯のモンスターだという事だ。
私は箱型魔道具で綺麗にしたら、再び進んで行く。
先程の戦闘音で他のモンスターに気づかれたとは思うのだが………
カカカカカカッ!
曲がり角を曲がった途端に針が飛んできたが、私は盾で防いでゆっくりと進む。
針を使い切らせねばならないし、武器を斧に変えねばならない。
私は慎重に歩を進めつつ武器を変え、針を撃ち尽くすまで待つ。
一本道なので、先程の狼に襲われる事も無い。
針が終わったので私は前に一気に出る。
そして壺型モンスターを攻撃して倒すも、曲がり角の壁に付いていた所為か、その曲がった先に居た口伸び狼に発見されてしまう。
「GRRRRA!!!」
私はバックステップを3回行い、曲がり角よりも手前に戻る。
これで他に口伸び狼が居ても私は見えないはずだ。
そして曲がり角の近くで先程の口伸び狼を迎え撃つ。
曲がって来た口伸び狼は私の場所を分かっていたのか、曲がってすぐに口を伸ばしてきた。
が、二度目なら一度目よりも合わせられる。
ガァン! ……ズドンッ!!
相手の口を弾き返し、痛みに悶絶しているところに斧を振り下ろす。
棍棒とは別の形で頭をカチ割り、一撃で即死させた私は、壺型モンスターの排除を先に行う。
時間を掛けたら針が復活しそうだからな。
そもそも体内にストックしてるくらいなのだ、当然作り出すのも体内で行っているだろう。
斧を振り下ろして殺害しつつ、針を飛ばして来ない事を祈る。
無駄だと分かっているが、攻撃の時にはどうしても無防備にならざるを得ない。
死なば諸共で同時に攻撃されると、それを防ぐのは極めて難しいのだ。
どんな達人でも戦場では死にかねない。
そう言うそうだが、理由は攻撃の時の無防備さにあると聞く。
防御に徹していれば防げても、攻撃の瞬間を狙われるとな。
どう考えても避けられない。
盾でなるべく守ってはいるものの、無防備な部分というのは必ずある。
そういう意味ではこの曲がり角も結構マズい。
曲がった先の壁にも壺型モンスターが居たら、今度はそっちからの攻撃も防がざるを得ないし、その間に針を生成されたら横から撃たれる。
それは防ぐのが難しいし、そういう意味では横から飛んでこなくて助かっている。
盾を持っていなければ、口伸び狼を盾にする必要があったろう。
が、全長2メートルほどある狼など持ち上げるのにも苦労する。
とても盾としては使えないな。
つくづく事前の準備の大事さが分かる。
それと共に異空鞄と共に来れたのが良かった。
取られていたら脱出不可能だったところだ。
考え事をしつつも壺型モンスターを全て倒し、曲がり角の先を進んで行く。
すると再び曲がり角だったので、盾を構えながら慎重に曲がる。
すると予想通りに針が飛んできたが、同時に悲鳴も聞こえて来た。
「GA!? GYAUGYAUGYA!!!」
どうやら口伸び狼の体か尻にでも刺さったのだろう。
明らかな悲鳴が聞こえる。
可哀想な気がしないでもないが、そもそも針を飛ばしているのは私ではないしな。
そこは諦めてほしいところだ。
「GRRRRR………GYAN!!!」
どうやら私を見つけて唸ったが、その途中でまた尻か何かに突き刺さったらしい。
なんというか、締まらない戦いだなと思う。
私としては針が無くなるまで防ぎ続けるだけなのだが、針が刺さる所為で口伸び狼もこっちに来れないのがありがたい。
「GYANGYANGYAN!!
GRRRR………KYAUN!!」
ついに悲鳴まで弱々しくなったが、本当に大丈夫なのか?
後で殺すとはいえ、尻が針塗れとか気の毒でしかないんだが………あっ、終わったな。
針が飛んでこなくなった。
「GAAAAAA!!!」
針の痛みを何故か私への怒りに変えた口伸び狼が襲ってきたが、私は冷静にシールドバッシュ後にカチ割り倒した。
そして確認すると、尻だけではなく陰嚢にも大量に突き刺さっているのを発見。
「そりゃ痛かっただろう。
とはいえ私の所為では無いのだからして、怒りを持たれても困るぞ。
もう死んでいるから意味はないが」
一応言いたい事を口にした私は、壁に張り付いている壺型モンスターの方へ向かった。




