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 Side:アッシュ



 この階層を全て調べ終わった私は、上の階への階段を上る。

 タワーシールドを構えつつゆっくりと上がっていくのだが、今回は針を飛ばされる事は無かった。

 が、何かの臭(にお)いがする?


 生き物の臭(にお)いなのかモンスターの臭(にお)いなのか分からないが、何かの臭(にお)いがしてきた。

 もしかしたらこの階層には、元女官以外の生きている存在が居るのかもしれない。

 今までは臭(にお)いなどほぼしなかったし、それは元女官も変わらなかった。


 しかしこの階層からは明らかに何かの臭(にお)いがする。

 となると生きている存在が居る可能性は高い。


 私は<邪獄樹の棍棒>を右手に持ち、ゆっくりと慎重に歩いて行く。

 この暗闇では遠くまで見通せない。

 場合によっては敵の方が早く私を発見する可能性がある。


 なので少しずつ慎重に進んで行くが、曲がり角の向こう側から狼のような存在が来るのが分かった。

 なので私は盾を構えて戦闘態勢をとる。


 「GR……GRRUUA!!!」


 何故か狼系のモンスターとは違う声を発しつつ、狼のモンスターは襲って来た。

 のだが、口が突然伸びて盾に噛み付いてくる。


 ガァン!!


 「つう……! 口が伸びて来るとは思わなかったぞ。

 いったいどうなっているのだ、お前の口は?」


 そう言いつつも盾を構え、再び狼のモンスターと相対する。

 口が盾にぶつかったが、非常に強烈な威力でビックリする。

 後ろに下がらなかったものの、下がらされるかと思うような威力であったのは間違いない。


 「GRRRRR…………GRUU!!!」


 私を見据えつつ、一定の距離から近づいてこない狼のモンスター。

 私はジッと盾を構えてその時を待つ。

 そして噛み付いてきた瞬間にシールドバッシュを行う。


 ドガァン!


 口が伸びて襲ってきたが、それに対するカウンターとしてシールドバッシュを放つ。

 そしてそのタイミングは合っていた。

 こいつの噛み付きは信じられない程に速く、噛み付いてきたと思った時には動かないと間に合わない。


 そんな噛み付きにカウンターを行った私は、痛みで呻いている狼に一気に接近してカチ割る。


 ドゴォン!


 その一撃で頭をカチ割られた狼は崩れ落ち、ピクリともしなくなった。

 私は動いて来るかもしれないという警戒を続けたが、起きる事は無かったので警戒態勢を解除した。

 なかなかに厄介だが、噛み付きを何とかすれば戦えるな。

 ただし盾は必須だろう。


 「よく分からないが、1メートルかそれ以上に口が伸びていたぞ。

 いったいどういう方法なのか理解に苦しむが、頭のおかしいモンスターも居たものだ」


 私は狼に近づいて死体を調べてみた。

 特に口の周りを調べてみて分かったのだが、顎の近くの皮膚が非常に柔らかく、口の部分が伸び縮みするようだ。

 この部分を薄くなるまで伸ばして、口だけでの高速噛み付きを実現させているらしい。


 「変わったモンスター………だと思うのだが、もしかして生物なのか?

 いや、こんな奇怪(きっかい)な顎というか口をしたモンスターなんて知らないぞ?」


 私は首を捻りつつも、ここにはこういうモンスターが居るのだと把握しておく事にした。

 他にはおかしな部分も無かったので、口だけが異様に伸びる狼が出て来る。

 そのように覚えておけばいいだろう。


 口伸び狼とでも言うか、そういうのが出て来る以上は慎重に進もう。

 こいつ1匹しか居ないなどという事はあるまい。


 私は死体を切り裂いて調べたものの、体の中に<混沌の種>は発見できなかった。

 試しに触れて祈りを捧げてみたものの、崩壊したりもしない。

 となると壺型モンスターと同じで、唯のモンスターだという事だ。


 私は箱型魔道具で綺麗にしたら、再び進んで行く。

 先程の戦闘音で他のモンスターに気づかれたとは思うのだが………


 カカカカカカッ!


 曲がり角を曲がった途端に針が飛んできたが、私は盾で防いでゆっくりと進む。

 針を使い切らせねばならないし、武器を斧に変えねばならない。


 私は慎重に歩を進めつつ武器を変え、針を撃ち尽くすまで待つ。

 一本道なので、先程の狼に襲われる事も無い。


 針が終わったので私は前に一気に出る。

 そして壺型モンスターを攻撃して倒すも、曲がり角の壁に付いていた所為か、その曲がった先に居た口伸び狼に発見されてしまう。


 「GRRRRA!!!」


 私はバックステップを3回行い、曲がり角よりも手前に戻る。

 これで他に口伸び狼が居ても私は見えないはずだ。

 そして曲がり角の近くで先程の口伸び狼を迎え撃つ。


 曲がって来た口伸び狼は私の場所を分かっていたのか、曲がってすぐに口を伸ばしてきた。

 が、二度目なら一度目よりも合わせられる。


 ガァン! ……ズドンッ!!


 相手の口を弾き返し、痛みに悶絶しているところに斧を振り下ろす。

 棍棒とは別の形で頭をカチ割り、一撃で即死させた私は、壺型モンスターの排除を先に行う。

 時間を掛けたら針が復活しそうだからな。


 そもそも体内にストックしてるくらいなのだ、当然作り出すのも体内で行っているだろう。

 斧を振り下ろして殺害しつつ、針を飛ばして来ない事を祈る。

 無駄だと分かっているが、攻撃の時にはどうしても無防備にならざるを得ない。


 死なば諸共で同時に攻撃されると、それを防ぐのは極めて難しいのだ。


 どんな達人でも戦場では死にかねない。

 そう言うそうだが、理由は攻撃の時の無防備さにあると聞く。

 防御に徹していれば防げても、攻撃の瞬間を狙われるとな。

 どう考えても避けられない。


 盾でなるべく守ってはいるものの、無防備な部分というのは必ずある。

 そういう意味ではこの曲がり角も結構マズい。

 曲がった先の壁にも壺型モンスターが居たら、今度はそっちからの攻撃も防がざるを得ないし、その間に針を生成されたら横から撃たれる。


 それは防ぐのが難しいし、そういう意味では横から飛んでこなくて助かっている。

 盾を持っていなければ、口伸び狼を盾にする必要があったろう。

 が、全長2メートルほどある狼など持ち上げるのにも苦労する。

 とても盾としては使えないな。


 つくづく事前の準備の大事さが分かる。

 それと共に異空鞄と共に来れたのが良かった。

 取られていたら脱出不可能だったところだ。


 考え事をしつつも壺型モンスターを全て倒し、曲がり角の先を進んで行く。

 すると再び曲がり角だったので、盾を構えながら慎重に曲がる。

 すると予想通りに針が飛んできたが、同時に悲鳴も聞こえて来た。


 「GA!? GYAUGYAUGYA!!!」


 どうやら口伸び狼の体か尻にでも刺さったのだろう。

 明らかな悲鳴が聞こえる。

 可哀想な気がしないでもないが、そもそも針を飛ばしているのは私ではないしな。

 そこは諦めてほしいところだ。


 「GRRRRR………GYAN!!!」


 どうやら私を見つけて唸ったが、その途中でまた尻か何かに突き刺さったらしい。


 なんというか、締まらない戦いだなと思う。

 私としては針が無くなるまで防ぎ続けるだけなのだが、針が刺さる所為で口伸び狼もこっちに来れないのがありがたい。


 「GYANGYANGYAN!!

 GRRRR………KYAUN!!」


 ついに悲鳴まで弱々しくなったが、本当に大丈夫なのか?

 後で殺すとはいえ、尻が針塗れとか気の毒でしかないんだが………あっ、終わったな。

 針が飛んでこなくなった。


 「GAAAAAA!!!」


 針の痛みを何故か私への怒りに変えた口伸び狼が襲ってきたが、私は冷静にシールドバッシュ後にカチ割り倒した。

 そして確認すると、尻だけではなく陰嚢(いんのう)にも大量に突き刺さっているのを発見。


 「そりゃ痛かっただろう。

 とはいえ私の所為では無いのだからして、怒りを持たれても困るぞ。

 もう死んでいるから意味はないが」


 一応言いたい事を口にした私は、壁に張り付いている壺型モンスターの方へ向かった。


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