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 Side:ラブ



 ぼく達はアッシュさんが居ないままに、デットリス伯爵が治めていたデルナル地方に向かいます。

 それにしてもアッシュさんはどこに行ってしまったんでしょう?

 本も無くなってしまったので困ったものです。


 「しっかしアッシュはいったいどこに行ったんだろうね?

 流石に神様の事を考えると、死んでいるとは思えないんだけどさ」


 「異空鞄の事を考えても、アッシュは確実に生きているでしょうね。

 神様の加護が異様に強そうだし、本当に危険なら神罰なりを落とすと思うわ。

 だから無事だとは思うけど……」


 ぼくも無事だと思いますが、あのアッシュさんが音沙汰も無しという事は、相当の何かがあったのだと思います。

 少なくとも暴れれば見つかるはずですし、そんな揉め事の噂もありませんでした。


 「そうなのよねえ。

 となるとアッシュは暴れていないって事になるんだけど、流石にそれは考えづらいわ。

 という事は………」


 「どこかに連れて行かれた、としか思えないんだけど……。

 あのアッシュを大人しく連れて行く事なんて出来るかい?

 もし無理矢理に連れて行かれるなら、絶対に抵抗するはずさ。

 にも関わらず、何かが暴れた感じも町に無かった」


 「そうなるとアッシュさんは暴れていない。

 …………もしくは転移させられた?」


 「「!?」」


 ぼくがそう言うと、マーヤさんもジャネスさんもビックリした顔になりました。

 もしかしたら転移という事は考えていなかったのかもしれません。


 「そうか! 【転移魔法】なら確かにアッシュが暴れる事も出来ずに連れ去られるわ!

 ……でも、貴重な【転移魔法】使いをわざわざ?」


 「いや、神殿の【転移魔法】使いなら知られる事も無いはずだよ。

 そして昨日の兵士どもが、兵士を装った神殿の連中なら……!!」


 「アッシュさんを連れて行ったのは、邪神関係の話って事になりますね。

 ………仮にそうだとしても、どこでアッシュさんが邪神の生まれ変わりだと知ったんでしょう?

 おかしいですよね?」


 「そういえばそうね。

 邪神の神殿に関しては最近見つかったばっかりだし、邪神の神子(みこ)は可能性でしかない。

 そのうえ揉め事になるからと、関係者は口を閉じているはずよ?」


 「にも関わらず神殿の者は知った。

 確かにそう考えると変だね? 誰かが漏らした………いや、そんな面倒な事はしないだろう。

 神殿の連中が鬱陶(うっとう)しいだけだし、おかしな揉め事が起きるだけ。

 上の連中ほど、その事は分かってるはず……」


 となると、貴族家の家令や執事にメイドとかから流出した?

 その可能性は十分にあるというか、考えれば考えるほど怪しいと思えるくらいにはある。

 とにかく知れば喋りたがるのって居るし、それこそ繋がりが以前からあったらどうにもならない。

 特に金銭的な繋がりなら、断ち切るには辞めさせるしかないぐらいだ。


 それを隠して情報を横流ししているのは居るだろう。

 そっちから流出した可能性の方が高そうだね。


 「貴族の家ってのも厄介なもんだ。

 情報が出て当たり前っていうのも……」


 「よっぽど自制しているか、それとも統制がしっかりとれているか。

 それとも流れたら仕事が無くなるという危機感がある。

 それぐらいしか防ぐ手立てはありません。

 少ない金額だろうと、手に入るなら平気で情報を売る者は居なくならないのですよ」


 「本当に難儀なものねえ。

 確かに小銭の為に大金を失う者って居るのよ。

 これから先も貴族家で働いた方が儲かるのに、目先の金銭で解雇された者も見た事があるわ。

 バカバカしくて同情も出来なかったけどさ」


 「そりゃ無理だろうさ。目先の欲に目が眩んだバカが悪い。

 それしか言い様が無いだろ」


 「本当にね。何であんなに愚かなのか理解できないわ。

 それよりアッシュが居ないって事は、邪獄樹とか出て来たら相当にマズいって事なんだけど……どうする?」


 「どうするもこうするも、なるべく触れずに何とかするしかないんじゃないの?

 それ以外に方法なんて無いだろ。

 アッシュが居れば任せるんだけど、居ないしね」


 「ま、行ってから考えるしかないか。

 それにしても本当に神殿の連中なら、アッシュに何をしたのかしら?

 それこそ何でもやりそうじゃない、神殿の連中って」


 邪神のおかしな噂を撒いている元凶でもありますし、裏で怪しげな事を沢山やってそうな感じはするんですよ。

 ぼくの祖国であるカルバス海国でも、神殿は似たようなものですから。

 そもそも当たり前のように言われるんです、不思議な事に。


 「神殿には邪神が邪悪な神じゃない、そういう話が残っているのでしょう?

 その割には邪神を邪悪な神と言っている神殿関係者は物凄く多いです。

 最初に誰かが言い出したんですが、今はもう……」


 「それが当たり前みたいになっていて、それが嘘だと誰も思えなくなってる?

 いえ、疑問にも思わなくなった?」


 「疑問に思わなくなったが正しいのでは? ぼくはそんな気がします」


 「皆が言ってるから、誰かが言ってるから、昔からそう言うから。

 そうやって疑問に思わない事は多いよ。あたしだってあるしさ。

 それを見越して神殿が言い続けてたんだとしたら、連中の作戦勝ちってところかねえ?」


 「でしょうね。実際に今はそれが当たり前のようになってますし」


 疑問にも思わなくなった時点で相当にマズいとしか言えません。

 今はもう、既にそういう状況なんだと思います。

 なのでアッシュさんの存在は、神殿にとって非常に都合が悪い。


 本当に神殿が連れて行ったのなら、理由はその辺りでしょう。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:アッシュ



 盾を構えながら進んで行く。

 先ほど倒した女官の先の通路だが、その奥には再び邪獄樹が大量に捨てられていた。

 おそらくここも像だったのだろう。

 私が祈りながら浄化を願うと、邪獄樹はどんどんと崩壊していく。


 不思議な事にタワーシールドは崩壊しないのだが、何か理由があるのだろうか?

 ………もしかして私が使うから浄化の女神が気を利かせてくれている。

 なんて事は無いか。


 そんな下らない事を考えていると、一番下に斧のような物が残っていた。

 片方の先端は鋭く尖っており岩でも砕けそうな形状だ。

 もう片方は普通の斧刃であり、刃先は………鈍いな?

 これは切れ味よりも耐久力を重視した物か。


 しかしそれでも刃物は刃物。

 長さは1メートルくらいで、両手というよりは片手で使う長さだろう。

 剣ではなかったが、刃物が手に入ったか。

 これで戦闘もマシになるはずだ。


 先程は随分と苦しめてしまったからな。

 これならおそらく切れるだろう。


 私は腰の異空鞄に斧を仕舞い、来た道を戻っていく。

 邪獄樹の所為で邪気が多かったが、それも無くなったので綺麗になった。

 おそらくこの地下は相当程度の邪気で汚染されていたはずだ。

 いや、今もまだ汚染されているな。邪気を感じるし。


 「それでも私が通って来た部分は清浄になっているのだから、邪気自体は確実に減っている。

 それは良い事だろう」


 ここのモンスターも濃い邪気によってあんな事になっていたのかもしれない。

 あの壺型モンスターも考えればおかしな存在だからな。

 もしかしたら邪気で生きていけるようになったモンスターなのかもしれん。


 そもそも邪神の女官が殺されたとされている時代が、相当に古い時代なのだ。

 その時代からここに居るとなれば、あの壺型モンスターも相当に長生きなのかもしれない。


 こう言うと歴史を感じるかもしれないが、唯のモンスターだ。

 殺して処理していった方が良い。


 それに針を飛ばしてくるのも危険だしな。

 色々な意味においても、殺しておく必要があるだろう。


 どのみち女官達を眠りにつかせる際に邪魔になる可能性が高い。

 私の安全の為にも始末させてもらう。


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