04-24-0149
Side:アッシュ
私は十分な水分がとれたので先へと進む。
水を飲んで休憩し、少々緩んだ心を引き締めつつ、慎重に歩を進めていく。
今はもう左手にタワーシールドを出したままだ。
本当なら疲れるので出しっぱなしは止めたいのだが、どこから針が飛んでくるか分からないから仕方ない。
それでも慎重に歩いていると、「カカッ」とタワーシールドから音がした。
すぐに周りを把握し、壺型のモンスターが“居ない”事を理解する。
少なくとも私の<内なる目>の範囲の外から攻撃してきているらしい。
カカッ
「タワーシールドの音からして、左の方から撃って来てるな。
このまま立ち止まって打ち切るのを待つか。
突撃して四方から囲まれたら終わりだし」
突っ込んで行ったら部屋の中で、大量の壺型モンスターの部屋だったら。
そう考えると迂闊な事は出来ない。
たまたま数が少なくて良かったが、「突っ込んだ方が上手くいく」と考えた自分をブン殴りたいぐらいだ。
危険というものを正しく理解していないからこそ、あんな事を考えてしまったんだろう。
命が懸かっているという事を、今一度きちんと自覚した方がいい。
でなければ本当に死にかねん。
「音がしなくなったな? それなら大丈夫だろう。
まずは右へと進むか。こっちの方が部屋に近い」
右の通路の先に部屋っぽいのがあるのが分かっている。
通路も輪郭で見えているので、その先に部屋っぽいのがあるのは把握済みだ。
最初の頃に比べれば範囲も広がっているので、その分だけ安全は増している。
目が見えなくても特に問題は無い。
私は慎重にタワーシールドを掲げて移動するが、部屋に近づいた途端「カカカカカカカカカカカッ」と音がした。
どうやらこっちの部屋には相当の壺型モンスターが居るようだ。
おそらくだが<内なる目>で見えている外側にも居るんだろう。
音の数が<内なる目>で見えている範囲に居る壺型モンスターよりも多い。
となると遠くから飛ばしてきているのは明白だ。
私は大きなタワーシールドに体を隠して針を耐える。
音的には盾が壊れそうではないので、このまま耐え続ければ私の勝ちだ。
カカカカカッ、カカカカッ
微妙に飛んでくるリズムが変わったな?
こうやって時間差で攻撃される事も考えると、回避ではなく防御が正しいのがよく分かる。
もちろん防御出来たらの話なのだが、ズレて攻撃されると致命的な一撃を受ける可能性が高まるからな。
それでは避けきれないだろう。
となると盾が無ければ隠れるしかないのだが、ここに来るまでの通路に隠れる所は無かった。
つまりこの場所は盾が無ければ致命的な場所となる。
かつて奴隷仲間から聞いた<殺しの間>みたいなものだろう。
射線が通る場所で、二方向以上から撃たれまくる場所。
それを<殺しの間>というらしい。
確実に殺したい者が居るのであれば、その<殺しの間>に誘導すると言っていた。
そして四方八方から撃つ事で、確実に息の根を止めるんだそうだ。
そういう殺し方があると聞く。
おそらくこのタワーシールドであれば、そういう攻撃も防げるのだと思う。
邪獄樹という素材自体が非常に強力な物だからな。
それに私ぐらいしか使えないし。
「音がしなくなったな。それじゃ、一気に行くか!」
私は【身体強化】をしながら部屋に入り、知覚出来ている壺型モンスターを一気に突き刺していく。
時間をおけば針が復活するかもしれないので急ぎ、何度も突き刺して確実に仕留めていった。
「よし、これで部屋の中にはもう居ないな。
確実に殲滅したのを確認しておかないと、後ろから撃たれたら目も当てられない」
私はしっかりと確認し、そして奥の通路へと向かった。
そして再び盾を構えながら進むと、女官であったであろう者をみつけた。
今回の者は手足が短いものの、異様に丸々と太っているような姿だ。
手足が短い所為か、歩いておらず転がっている。
あの体で轢かれたら潰されかねない……というか潰されるだろう。
あれに関しては回避を優先するしかない。
それと転がって来るなら、頭を狙えるチャンスは多くないだろう。
上手く狙える時まで焦らず待った方が良さ気だな。
私は頭の中で戦い方を確認すると、少しずつ近づいていく。
そして10メートルぐらいの段階で敵に発見された。
なんとなくだが、こちらが見えているような気がする。
「FNYJIOPOJYNEGBET!!!」
ゴロゴロゴロゴロゴロ………ドォン!!
いきなり奇声を上げると、そのままこちらへと突っ込んできた。
なので私は盾を仕舞って回避し、そして右手に棍棒、左手に杭を持つ。
壁に激突して止まった太った者は、私の方へと向き直して再び転がって来た。
なるほど、こいつは向き直らないとこっちに転がれないわけか。
そしてその際には一度こちらを確認する。
目で見て確認しないと転がらないという事は………
ゴロゴロゴロゴロゴロ………ドォン!!
再び壁にぶつかり、そして私の方へと向き直る太った者。
私はこちらに向き直った際に【身体強化】を行い、一気に跳び上がりながら頭に左手の杭を突き刺した。
頭の高さでも2メートル50センチくらいはあるのだ。
体はそれよりも大きい。
跳び上がりながら突き刺した私は一度着地。
敵が苦しんでいるので今度は走り、少し跳び上がって全力で棍棒を振るう。
ドゴッ!!
しかし音と同じで、そこまで威力が出なかった。
2メートル50センチの場所へは、上手く体重などを含めて力が伝わらない。
踏ん張って叩きつける事が出来ない為、どうしてもいつもの威力が出せないのだ。
それでも何度も棍棒を叩きつける事で、かろうじて倒せたらしい。
苦しめるつもりなど無かったのだが、中途半端な位置に頭があると戦いにくくてしょうがない。
あれ以上に高いと別の方法を考えなければいけないが、中途半端に届くのでああなってしまった。
私は死体に手を合わせて祈ると崩壊していき、先程まで居た場所には大きな<混沌の種>が残されていた。
これはステージ4の末期か? となると………
「吸収したら体が活性化したが、そこまで大きく活性化はしていないな。
ステージ5を体験したからこそ分かる。
体は活性化したが<内なる目>の範囲は広がっていない。
代わりに力が少し強くなったのか?」
変化はあるのだが、その変化が分かりにくい。
体が活性化しているのは分かるが、あくまでも活力を得たような、そんな曖昧なものでしかない。
その活性化もそこまで長続きはしないので、どんな効果があるかも不明だ。
私は先程の者にもう一度祈りを捧げ、そして盾を取り出して構える。
そして再び歩き出すのだが、奥の通路へと入った途端「カカカカカッ」という音がした。
「早速とばかりに壺型モンスターが飛ばしてきたな。
いったい何匹居るのか知らないが、ここにはこいつらが生きる為の水分が多いからか?」
私が休憩した所に地底池のような物があったが、ここの岩盤の向こうにも地下水が流れているのだろう。
こいつらはある程度の傷を受けると水を出して萎びれる。
なのでおそらく水分さえあれば生きられるのだろう。
魔力で大部分は何とかなるのだろうが、果たして何も食わずに生きられるのだろうか?
まさかとは思うが、あの女官達を食べていたのではあるまいな?
「…………嫌な想像をしてしまったな。
そんな事は無いと思うし、そもそもあの針では通用しないだろう。下らぬ想像だ」
おそらくは間違っているだろうし、その可能性は低いので否定する。
流石に彼女たちが喰われているなどというのはな………また腹の底から怒りが湧いてきてしまった。
冷静にならねば。




