04-17-0142
Side:ジャネス
男4人組が下らない事をした所為で歌い手の女が奥に引っ込んじまった。
その所為で周りの奴らも睨んでいるが、男4人は全く理解していないらしい。
今のバカな事を得意気にホザいている。
「ああー、せっかくの歌が無くなってしまった。
先程の奴らはつくづく碌な事をしないな。
あんな愚か者どもの所為で折角の歌が無くなってしまうなんて」
「なんでああいうバカは下らない事しかしないんだろうな。
生きているだけで邪魔なんだから、死ねばいいとしか思わない」
「逆怨みで襲ってきたりしてなー。
我々ならあっさり返り討ちにしてしまうけど」
「ははははは、それは相手が可哀想だ。少しは手加減してあげないとね」
こいつら………話し方が場末の酒場には合わない丁寧さだね。
もしかして貴族か分家の子息か? それなら言葉使いが悪くないのも分かる。
目上の方に仕えるなら、悪い言葉使いなんて絶対に出来ないからね。
そう考えると、こいつらは分家の子息が集まってるのかもしれない。
数が多かったのなら、余り者が外に出されるって事もあるだろう。
そしたら酒場に居て場違いな言葉を使っているのも分かる。
それと装備から見るにハンターだ。
刃が見えないから分からないけど、おそらくは新人の可能性が高い。
「お前らいい加減にしておけよ?」
先程から4人組が出て行った2人を悪し様に言ってたんだけど、遂に我慢の限界になったのか一人の男が文句を言い始めた。
ま、当たり前の事だね。
「それは我々に言っているのか?」
「なぜ我々に物を言っているのか知らないが、そもそもあの酔っ払いに何もしなかったお前達が言うな」
「あの歌い手の女性が困っていたのに何もしていなかったではないか。
その割には随分と偉そうだな?」
「先程の酔っ払いには怖くて言えなかったんじゃないか? 我々は紳士だからな。
何もしてこないと高を括っているのだろう」
「おまらみたいなガキなぞ怖くとも何ともないっての。
それよりあの2人がやっていたのは酒場では普通の事だ。
その邪魔をしたのがお前らなんだよ。
つまり邪魔なのは酒場を出た2人じゃない、お前らだ」
それを聞いた4人組は「キョトン」としてるね、どうやら言われた事が全く理解できなかったらしい。
酒場のルールも何も理解していないヤツが口を出したんだから、こうなるのも普通だろうけどさ。
本当に誰も得をしないし、酷いもんだ。
「はぁ………どうやら歌い手の女性に良い印象を持たれた我々に嫉妬しているらしい」
「男の嫉妬なんて醜いものだが、仕方がないのかもしれないな。
何も出来なかった奴らは、我々に言う事でしか憂さ晴らしを出来ないのだろうし」
「何と情けない」
「無様という言葉を知らないのか?」
「その言葉はそっくりお前らに返してやる。
酒場のルールも知らんマヌケどもが、歌手の女性がお前らを睨んでいた事まで理解していないとはな。
酒場で歌う女性は基本的にチップで生活をしているが、大多数は体を売っている。
そして買いたい奴らは沢山のチップを入れていくんだよ」
そうやって説明していると、他の奴らも説明に加わって来た。
「お前らがやった事は、せっかくチップを渡して稼いでいた歌い手の邪魔をしただけでしかない。
体を売る場合はそれプラス更に後で交渉、これが酒場のルールだ。
どこでも変わらねえんだよ、こんなこと」
「それも知らんお前らはどこのお坊ちゃんか知らないけどな。
しかし迷惑をかけてそれを理解もせず、大恥を晒しているのはお前らだ。
頭が悪すぎて、大恥を晒している事すら理解していないとはな」
「お前らは誰にとっても邪魔なんだよ。
自分達で慰め合ってるゴミにしか見えねえ奴らが、何様のつもりだ」
「そんなに食事時に歌が聞きたきゃ、お貴族様の店にでも行け。
酒場には酒場のルールがあるんだよ、お坊ちゃん?」
心の底からバカにするような言い方で言われたからか、4人組は怒ったようだ。
とはいえ一番怒りたいのは歌い手の女だろうよ。
収入の半分ぐらいをフイにされたんだからね、殺されても文句は言えないほどだ。
それぐらいの怨みを買った自覚もないとは……
「ふざけるな! 平民如きにバカにされる筋合いは無い!!」
「ここに居る時点で平民じゃねえか。
どのみち家を出されたんだろ、お坊ちゃん達?」
「ならどう考えても平民だわな。
数が多いから要らないって言われたか?
それとも無能は要らんって放り出されたか?
どっちか知らないが憐れなもんだ」
「「「「「「「「「「ハハハハハハハハハ………!!!!」」」」」」」」」」
どうやら図星だったらしく顔を真っ赤にしてるけど、流石にそろそろマズそうだね。
あいつらが新人なら自制も出来ずに剣を抜く可能性がある。
動けるようにしておくか。
「きっさまらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
キィン! ………ドゴッ!
一番最初に口を出して偉そうにしてたヤツが剣を抜いたけど、その後に木のジョッキが頭に激突。男は倒れて動かなくなった。
たぶん気絶したんだろうけど、なかなかに素早い一撃だ。
アッシュが投げたから威力は抜群だろうし、そりゃ気絶もするかね。
残りの3人はどこからジョッキが飛んできたか分からないからキョロキョロしてるよ。滑稽だねえ。
男が倒れた方向から、ジョッキが飛んできた方向は分かるだろうに。
「クソッ! 誰だジョッキなんぞ投げて来たヤツは! 出て来い!!」
「私だが?」
アッシュは何故か律儀に出て行ったけど、無視してた方が面白かったと思うけどね?
誰か分からず右往左往しそうだし、それも酒の肴になったと思うんだけど……
「貴様か! 覚悟は出来ているんだろうな!?」
「覚悟? お前達こそ覚悟は出来ているんだろうな?
ハンターはみだりに武器を抜いてはならない。
お前達がやっている事はハンター協会の定めた項目に違反している。
つまり………ボコボコにされても文句は言えんという事だ」
「ふん! 体が大きいだけのヤツが、我らに勝てると思っているのか!!」
「ほうほう、なるほど。
既に3対1で考えているのか、なかなかに根性の無いヤツらだ。
ま、3対1でも私の圧勝であり、相手にもならんのだから当然か」
「なんだと!? きさまぁっ!!!」
別の男が剣を振りかぶったけど、ありゃ完全に素人の動きだ。
まったく剣を握った事が無いのがよく分かるよ。
呆れるくらいに剣を持つ手、胴、腰、足がバラバラに動いてる。
力も乗ってなきゃ、何も考えてないのが丸分かりだ。
アッシュはそれを「ヒョイ」っとかわすと、左手で男の首を鷲掴みにして持ち上げる。
男は170ぐらいの身長だけど、アッシュよりは30センチぐらい低い。
なので持ち上げられれば足が地面につかない。
「ぐぅぇ……げっ、ゴホッ!! が………ぎゅぐ」
「くそっ! 仲間を離せ!!」
そう言ってもう一人が切りかかって来たけど、アッシュは当たり前のように持ち上げているヤツで防いだ。
「なっ!? 貴様、ふざけるな!!!」
「ふざけてなどいない。
敵の命などどうでもいいのだ、ならば盾に使って何が悪い?
死んだところでどうでもいいのだ、ならば肉の盾として使うに決まっているだろう。
お前はなぜ当たり前の事に怒っているのだ? 戦いとはそういうものだぞ」
「そ、そういうものだとぅ!?」
あーあ、あいつら完全に戸惑いと焦りで地に足がついてないね。
普通は仲間が持ち上げられてるんだ、盾にされるかもと想定しなきゃいけない。
にも関わらずそんな想定すら出来ていないとは。
しかもアッシュが盾に使ったヤツの背中は全く切れていない。
つまり剣を使うのが下手な証だ。
だからこそアッシュも盾として使ったんだろうけど、剣もまともに使えない奴らが何を調子に乗ってるんだか。
呆れるしかないねえ。




