04-15-0140
Side:マーヤ
わたし達は騎士達と共に酒場に向かったんだけど、騎士達は酒が飲めない事に何とも言えない顔をしている。
副騎士団長が言ったんだけど、流石に不満があるようね。
気持ちは分からなくもないわ。
「………仕方ない奴らだな。
一杯だけだ、それ以上は認めん。いいな?」
「助かります。酒の一杯も飲めないんじゃ厳し過ぎますぜ。
それに一杯ぐらいなら問題ありませんよ。夜間の警備でも、寒い夜は飲むくらいなんです。
オレ達にとっては問題無い量ですよ」
「そうそう。
それにオレ達が全く飲めないと、お客さん方も飲みにくいでしょうからね。
こういう時には率先して飲まないと」
「ああ。オレ達が飲む事で、お客さん達も遠慮なく飲めるってもんだ。
だからこそオレ達は「気にしなくてもいですよー」って感じで飲まないとな」
「オレ達が飲んでこそ気兼ねなく注文できますしね。
重い鎧で面倒だったんですから、一杯ぐらいは飲めないとやってられません。
こっちエール4つね! ジョッキで!!」
「はーい!」
ジョッキでって言ってるけど、基本的にエールはジョッキでしか出て来ないわよ。
わたし達も気楽に注文できるようにはなったけど、確かに仕事中の騎士がお酒を飲むのを止められるのも、分からなくはないのよね。
お酒を飲みながら仕事してるのなんて信用されないし。
特に治安を守る騎士が酒で酔ってるのはねえ。
これが家に帰ったり兵舎なら好きにすればいいんだけど、ここはトッカネイル地方とはいえ領地の端だもの。
あんまり良い事とも言えないのよ。
一応は騎士と分からない服装だけど、言葉の端々に出るの。騎士言葉が。
「それにしても賑わいがありますね。
茶葉が入って来る玄関口だから当然ですけど」
「当たり前と言うぐらいに当たり前だけどな。
そもそも王都向けの茶葉の玄関口でもあるんだ。
沢山の馬車が行き交う場所なら発展するのも当たり前だろうよ。
それだけで大量の金が落ちるからな。この酒場もそうだが」
辺りを見回しながらそう言う騎士の言葉に周りを見る。
確かに商人と護衛と思しき者が多数いるわ。
茶葉だけじゃないんでしょうけど、隣の領地に王都に売れる物があると、その道だというだけお金が儲かる。
この領はきっちり恩恵に預かってるのよね。
もちろん、この領を経由させる為の様々な施策は打ち出して来てるでしょう。
その甲斐あっての通り道でしょうし、賑わいでしょうから。
実際に旅がしやすいとか、道が良いとか色々とあるのよ。
商人だってバカじゃない。
多少遠回りになっても安全な方を選ぶし、あるいは修理などがしやすい道を選ぶものなのよ。
「そうですね。
近いだけで選ぶと馬車に何かあると立ち往生してしまったり、結果として期日までに間に合わないとかあるそうですし。
そうしない為には多少遠くても安全な道を選ぶそうです。
盗賊対策としても安全な方がいいでしょう」
「そりゃね。
実際あんまり領地の見回りをさせていない領主とか居るんだよ。
そういう領地にはやっぱり盗賊が多いんだ。
あたし達ハンターにまで依頼が来る事もあるよ。
盗賊退治をしてくれってね」
「それも大変だな。
獲物を獲るよりお金にならない事もあるんじゃないか?
盗賊と言ったところで、持ってる物はあまり高く売れないだろうしな」
「お待たせしましたー」
おっと、お酒が来たから飲みましょうか。
わたしも飲む時というか食事の時には大きくなるから、今は大きくというか元の大きさに戻っている。
酒場に入って席に座る際に大きさを戻したんだけど、騎士達にちょっと驚かれたわ。
「確かに盗賊退治は儲からない事もあるけど、大きく儲かる事もあるよ。
盗賊達が依頼者の物だけじゃなく溜め込んでる場合さ。
その場合、盗賊を倒したハンターの物になるんだ。
なので盗賊退治を率先して受けるヤツもいる」
「それどころか噂だけで依頼も無しに盗賊退治に行くヤツも居るわ。
で、空振りに終わるまでがよくある事よ。
どこそこに盗賊が住みついたっていう話は、田舎でよくある噂なの。
本当かどうか分からない噂としてね」
「そうそう。そんな噂を聞いても意味は無いよ。
まず盗賊なんて居なくて、結局は唯の噂なんて結果はよくある。
それも何十年か前に居たっていうだけの噂とかなのさ。
だから行くだけ無駄だし、反応するだけ無駄。
本当に被害があるなら、すぐに商人がハンター協会に依頼するよ」
「逆を言えば依頼が無いって事は、唯の噂って事なのよ。
そんなものに踊らされてもね、時間の無駄でしかないわ。
そのうえ本当に盗賊が居ても愚かじゃない。
逆に捕まって奴隷として売られかねないわ。
実際にそういう事件ってあるのよ」
「ハンターは根無し草だからね。
居なくなっても探さないっていうのが大きいんだ。
これが村人とかだと騒ぎになるんだけど、地元の者がハンターをやってない限りは誰も探さない。
何故なら拠点を変えただけかもしれないし、本当に盗賊に捕まったなら口にするのも危険だ」
「だからこそ盗賊の噂をするヤツは信用できないのよ。
本当に盗賊が近くに居るなら、むしろ盗賊の話はしないもの。
それなりに長くやってたり色々と移動した事がある者なら、ハンターでなくても知ってる事よ」
「という事は、盗賊を討伐する際はハンター協会で依頼を請けた方がいいという事だな。
そちらだと本当かどうかが分かるから」
「ところがそうでもないのさ。
さっきもちょっと言いかけたけど、実は盗賊がハンターを捕まえて売り飛ばす為に虚偽の依頼をしてる事がある。
ハンター協会としちゃ、依頼があったら張り出さざるを得ない。
調べはするけど完璧に調べるなんて不可能だからね、だから依頼が罠の可能性も考えて受けなきゃいけないんだ」
だからこそ大変なのよねえ。
特に裏の連中はどこにだって居るから、依頼の裏を知るのが難しい。
わたしが知ってるのの中には、被害を受けた商人も盗賊も裏の者達だったというのもあったわ。
流石にこんな酒場で堂々とは言えないけどさ、酷い依頼も中にはあるのよ。
それらを嗅ぎ分けるのは、もう経験しかないのよね。
経験を積んで行けば「あれ? これ変だな?」っていう違和感を感じられるようになる。
それが感じられるようになれば騙される可能性も減るわ。
とはいえ、それって何度も失敗しなきゃ身につかないわけで………
結局、一番いいのは盗賊の依頼に近づかない事なのよね。
それが身を守るうえで最善の方法なんだけど、お金が欲しいのはホイホイ受けるのよ。
そして盗賊に捕まる、と。
欲を掻くから失敗するんだけど、その一度の失敗で終わりって事も十分にある事なの。
長年ハンターをしている者は、全員が慎重に生きて来た者達よ。
それかアッシュみたいな力量の持ち主か。
どちらかしかないし、アッシュみたいなのは滅多に出てこないわ。
「それはそうでしょうね。
アッシュさんみたいなハンターが当たり前って、それもう軍より強い部隊が作れますよ。
尋常じゃないです」
「統率者を引き千切るような者が大量に居る部隊とか、どうやっても勝ち目が無い気がするよ。
むしろそのパワーで大弓や鉄弓を引いてきそうだし、そっちの方が遥かに怖いだろ。
一撃で金属の鎧すら貫きかねないだろうし」
「確かにそうね。
でも、どこまでの弓ならアッシュの怪力を受け止められるのかしら?
真面目に鉄弓以上を考えないと駄目な気がするわね」
「私は弓を扱うのは上手くない、というか普通ぐらいしか無理だぞ。
後、矢にお金が掛かるから、あまり使いたくないな」
それは弓の宿命だから仕方ないんだけど、確かにアッシュに合う弓は無さそうね。
サイクロプスやオーガの為の弓っていうのも聞かないし。
となると一定以上の力を持つ種族用の弓は無いのね。
そうなると、ほぼ間違いなく素材が無いんだと思う。
怪力に耐えられる素材が。
もしくはあっても加工の技術が足りないとかかな?




