04-13-0138
Side:アッシュ
私は御者をしつつ前の馬車について行く。
前が良いかと聞かれたのだが、騎士が前に居る方が盗賊などに対する威圧にもなるだろうから、私達は殿の方が良いと答えた。
実際に私達が前に居ても威圧の効果は無いだろうしな。それなら騎士の馬車が前の方が良い。
チワン殿は納得して前に出たが、あれは私の考え方が正しかったのかそうでないのか、イマイチ分からないところだ。
おそらく間違った考えではないと思うのだが………
「それでいいわよ。そもそも騎士が前に出ていた方が襲われにくいのは間違いないもの。
ハンターの中には自分に自信のある面倒なヤツとか居るからね、だから先に聞いてきたんじゃない?
普通のハンター相手ならいちいち聞いたりしないでしょうけど、わたし達はねえ……」
「オレンジ髪の【生魔法】使いに、他国の辺境伯家の三男だ。
さすがに気を使わなきゃいけない相手だろうさ。
気にしなくてもいいんだけど、それで臍を曲げられても困るだろうしね」
「ぼくはそこまででもないでしょうから、主に気を使った理由はマーヤさんでしょう。
流石に【生魔法】使いの機嫌を損ねるのはマズいですからね」
「そんな事もないんじゃない? 他国の辺境伯家の者って、それだけで結構マズいわよ。
おかしな失敗でもしたら、他国にまでその失敗が伝わるもの。
それを考えたら粗相なんて出来ないでしょ」
「ジャネスが言うように、どっちもじゃないか?
【生魔法】使いも他国の貴族家の者も、しっかりと案内しないと困った事になるだろう。
だからこそ伯爵様も最初は御子息にさせる気だったんだろうしな。
まさかあんな事になるとは思ってもいなかっただろうが」
私がそう言うと、ジャネスもその通りだと言い始めた。
「少なくとも、あたしとアッシュは関わりない。鉄の10級と1級だしね。
アッシュについては多少あるけど、それは確定していない話でしかないし、伯爵様だって家臣に話してないだろ。
いたずらに広まっても困るし」
「それはそうでしょうね。
神子として奉られるならまだしも、神殿の連中みたいに悪徳だとか言い出して命を狙ってくる可能性もあるわ。
それを伯爵が考えない訳がないし、考えたなら迂闊に喋らないでしょ」
「だと思います。
流石にアッシュさんの事は秘匿するべき事ですし、慎重に取り扱うべき情報ですからね。
それは鉱山で見つかった邪神の神殿もですけど」
「アレはね。歴史的発見なんだけど、それを破壊しかねないバカが居るから困りもんだよ。
そもそも下界のヤツが勝手に神様の事を決めること自体おかしいのさ。
やっちゃいけない事だろうに、それを神殿のヤツが率先してやるとか……」
「頭が狂ってると言うしかないものね。
どこがどうトチ狂ったのか知らないけど、女官を処刑するって意味不明すぎなのよ。
当時なにがあったか知らないけど、明らかにおかしな事が起きているのは間違いないわ。
だって女官を処刑よ?」
「そもそも邪神ってそれまで悪だとされていなかったんですよね?
何で急に悪になって、なんでそれを皆が信じたんでしょう? 明らかに変ですよ。
何かがあったとしか思えません」
言いたい事は分かるのだが、邪神が砕かれ下界に<混沌の種>が撒かれるようになった。
おそらくそれの所為ではないかと思う。
それを根拠にして弾圧したのではないかな?
「ああ、<混沌の種>が下界に撒かれたのは邪神のせい。
だから邪神は悪であり女官も悪。そんな感じかしら?
どのみち愚かに過ぎるけどね」
「もしくは随分と混乱したかですね。
邪神が砕かれた後、<混沌の種>は大量に下界に撒かれたのかもしれません。
そして多くの者が統率者の所為で亡くなったとしたら……」
「狂っても不思議じゃないか。
それで砕かれた邪神に全ての責を擦り付けた。
そしてそれを機に神々の加護を失ったので、間違いに気づいたって感じかい」
「しかしやってしまった事は取り返しがつかない。
加護が戻る訳でもないのだから隠蔽してしまえ。
ってなって今に至る、と」
「何となく筋は通ってる気はするが、決めつけても仕方ないし、何より古い時代のこと過ぎて分からん。
今更な気もするし、そこは掘り下げなくてもいいだろう。
このまま情報が漏れなければ、こちらに何かをしてくる事もあるまい」
「そうなんだけど、漏れない情報なんて無いからね。
何れ必ず神殿が騒ぐわ。
それは時間の問題なんだけど、その際にどう出て来るかね?
特に少ない浄化の女神の女官がどう出て来るかは………」
「場合によれば、浄化の女神の女官が加護を完全に失うかもね。
透明の髪と呪いの紋様。あれを受けた者は悲惨という他ない」
「昔からそうだけど、あれを神殿の者が受けたら自殺ものよ?
神殿に務めていて神に否定されたなんて、ねえ………?」
「完全におしまいですよ、その状況は。
完全に色が抜け落ちた髪は加護が一切ない証ですし、呪いの紋様は決して落とせない罰です。
悪夢を見て苦しむそうですが、完全に自分が悪い所為ですからね。
どうにもなりません」
そういえば古くから広域の神罰はなかなか落ちないと言われているが、個人への神罰はそれなりに落ちていると聞く。
今は無くなったと言われるが、過去には神罰が落とされる事はよくあったそうだ。
特に神殿関係者は目立つ。
しかし減って来たという事は、もしかしたら神殿は神罰が下されるかどうか分かっているのかもしれん。
コレをしたら落ちる、アレをしたら落ちると。
だからギリギリを狙って今もやっている? だから神罰が落ちない?
「アッシュの考えは合ってるかもしれないわ。
あの神殿の連中の事だもの、そうやって狡い方法で神罰から逃げ回っているのでしょう。
だから邪神を悪し様に扱っても神罰が落ちないのよ、きっと」
「アレですかね? 神殿は直接的に邪神を悪く言っていないんでしょうか?
<混沌の種>は邪神が原因だとか、邪神は邪気を纏う神だったとか。
事実なんですけど悪く思われるようにやっているのでは?」
「確かに神殿の連中なら、そういう狡い事はやりそうだね。
で、散々悪く思われるような話し方をしておきながら、自分達は悪く言っていないって言い張るんだろうさ。
相変わらず汚い連中だよ、まったく」
ガタンッ!
「っと、……石でも踏んだ?」
「いや、前が停止した。
いったい何があったの………戦闘か?
皆は馬車を守っていてくれ。私は前の様子を見て来る」
「了解」
「気を付けなさいよー」
「ぼくは御者に回ります」
私は御者席から降りて前の方に様子を見に行く。
すると、大きな角のモンスターが馬車を襲っているのが見えた。
体高は2メートルほどで四つ足。
なんだか皮膚が硬そうなヤツで、色は黄色。
どうやら土の神の加護を持つらしい。
「近くまで様子を見に来たのだが、手を貸した方がいいだろうか?」
「すまんが頼む! こいつの皮が予想以上に硬くて切れんのだ。
おそらく統率者だと思われる!」
「了解だ!」
私は邪獄樹の棍棒と盾を異空鞄から出して持ちモンスターへと吶喊。
モンスターは左右に振るように角を振ってきたが、私はバックステップ後に前に出て【身体強化】。
頭に棍棒を振り下ろす。
ドゴンッ!!
一時的にとはいえブルーオーガまで強化した棍棒は、どうやら一撃で頭蓋を砕いたらしい。
横に倒れたモンスターは起き上がる事も無く倒れたままであり、おそらくは一撃で死んだのだろう。
私は武具を仕舞ってから、副騎士団長に死体の処理を尋ねる事にした。




