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04-10-0135




 Side:マーヤ



 「それにしても、ブラッディ・マンドラゴラを作り出そうとするっていうのも面白い研究だとは思うけど……何かの役に立つの?

 あれって劣化魔法薬にしか使えないはずよね?

 【生魔法】の代わりに使えるのは凄いけど、保存ができない薬」


 わたしが使える【生魔法】だけど、それと同じように、使えばすぐに傷が癒える薬を魔法薬。

 そして普通に傷の治りを早めたりする薬を治療薬という。

 両者は似ているようでいて全く違う物であり、当然ながら魔法薬の方が優秀な物となる。


 まあ、すぐに傷が癒えて治るんだから当たり前だけどね。

 それでも魔法薬は極めて高価だから、貴族でさえも使うのは難しいのよ。

 基本的には王族、それも王と王太子ぐらいしにか使われない物になる。


 「ですね。今のところは新しく使い道が発見されたとは聞いた事が無いです。

 劣化版とはいえ魔法薬の材料を量産できるなら凄いと思いますけどね?

 だってそれだけ助かる命は増えるでしょう?」


 「それはそうだけど、保存の問題からそこまで多くは助からないと思うわよ。

 何より他の素材だってそこまで安くないから、使えるのは高位貴族ぐらいよ。

 って、そういやカルバス海国では、材料の一つである海キノコが安いのよね。

 だからか」


 「あー……ガルセンツ王国のような内陸国だと高いんですね。

 だからかー……」


 「海キノコっていうのは、そんなに高価なのかい?

 あたしは治療薬しか使った事が無いから知らないけど」


 「海に生えるっていう珍しいキノコで、何故か塩水に強いらしいのよ。

 どうも陸上のキノコとも違っているらしいわ。

 あくまでも見た目がキノコそっくりなだけだから、もしかした陸のキノコとは別物なのかもしれないけど」


 「魔法薬というのはそんなに高価な物を使わないと作れないのか……それでは庶民が使うのは無理だな。

 ただでさえお金の無い庶民だ、治療薬でさえ買うのが大変だと聞く。

 まあ、私は薬なんて使った事がない身だから、治療薬も知らないのだが」


 「えっ? 治療薬も無かったんですか?

 腹痛の時の薬とか、そういった物は………」


 「そんな物は聞いた事が無いな。

 何かの葉っぱを煎じて水で煮だしたら効くとかいう話はあったが、私は怪しかったので無視していた。

 痛くとも我慢すれば治まるしな、気にしなければいい」


 「いやいや、耐えられないから薬を使うんですけど………そもそも無いなら無理か」


 そうでしょうね。違法な闘技場を経営しているヤツが、奴隷の為に治療薬を用意するなんてあり得ないわ。

 むしろ浄化の神の加護が無ければ、アッシュは死んでいたかもしれないわね。

 重ね重ね碌な事をしないヤツだと思うわ。もう処刑されたでしょうけど。




 マンドラゴラの話も終わって暇になったわたしは、適当なボードゲームを出してもらって遊ぶ。

 今やってるのは戦争ゲームよ。

 駒を7個持って戦うんだけど、どれを何個持つかは自由に決められるの。

 そして先に全部の駒を倒された方が負け。


 駒は3種あって、歩兵、槍兵、騎馬兵とある。

 歩兵は槍兵に強く、槍兵は騎馬に強く、騎馬は歩兵に強いという三竦(すく)みになっているわ。


 相手がどの駒を幾つ持ってくるか、そしてどう並べるかが重要になってくるの。

 しかも駒の進み方も違う。


 歩兵は全ての方向に1マス進める。

 槍兵は上下左右に1マスしか進めない。

 そして騎馬は上下左右に2マス、斜めには1マス進める。

 移動にもそういう差があるのよ。


 騎馬は相手を蹴散らせるけど、それほど有利という訳でもない。

 その理由は、同じ騎馬なら先制の方が勝つということ。


 つまり騎馬に対して騎馬で攻撃したら、攻撃した側が勝つという事ね。

 だから騎馬の駒は騎馬への牽制にも使えるってわけ。

 三竦(すく)みだと攻められた側でも絶対に勝つんだけどね。

 同じ駒だと先制した方が勝つ。ただし先制しやすいのは騎馬の駒となる。


 よって鈍足の槍兵をどうフォローするか、歩兵をどう上手く立ち回らせるかが重要になる。

 騎馬で牽制している間に槍兵を回りこませる。

 あるいは牽制している間に敵の槍兵を歩兵で倒す。そういう風にも出来るわ。

 盤は8×8の64マス。それだけしかない。


 「………こっちかな?」


 「………面倒な形になってきたわねぇ」


 左右は騎馬で牽制してるけど、それをアッシュは槍で牽制してる。

 私は騎馬3、歩兵2、槍2の7駒。

 でもアッシュは騎馬2、歩兵2、槍3なのよ。


 そして右端、左端、中央に槍の駒を置いていたのよね。

 その所為で多めにした騎馬が足止めを喰らってる状況になってしまった。


 この戦争ゲームには勝利方法がもう一つある。

 それは相手陣営の奥、その中央から先に進めるということ。

 これは敵陣突破といって、突破した側が勝利となる。

 なかなか起きないから考えなくてもいいんだけど、そうすると狙われたりする厄介な手なの。


 なので守らなきゃいけないんだけど、守るのに便利なのは騎馬となる。

 でも、真ん中から槍が上がってきてるのよねえ……

 当然騎馬では勝てないから歩兵を連れて来るか、それとも槍兵を使って牽制するしかない。

 でもそこで槍を使うとアッシュの騎馬を止められなくなる。


 「むむむむむ…………」


 「まあ、マーヤの番だから好きに考えてくれ。

 私はゆっくりさせてもらうよ」


 「左右の槍が牽制してるから面倒な形だね。そのうえ中央から槍が突撃してきてる。

 マーヤは歩兵を左右に配置してたのが仇になってるし、そっちにはアッシュの騎馬があって動けない。

 こりゃ駄目かな?」


 ぬう………初期配置で完全に裏目を引いたわね。


 ちなみにこの戦争ゲームでは小さなボードがある。

 それで初期配置を相手に知らせ、その通りに相手に配置してもらってスタートとなる。

 だからボードを渡し合うまで、相手の駒組みは分からないままなの。


 その所為で初期配置に失敗すると、こうやってズルズルと劣勢に追い込まれる。

 ちなみにコレは簡易版だけど、貴族が持ってる豪華なヤツは駒が20の物もある。

 盤は10×10で二列を組むヤツなんだけど、一度の試合に時間が掛かるから二度とやりたくないって思ったわ。


 「そんな大きいのと、駒数が多いのがあるのか。

 確かに私もやりたくないな。やっても10駒までだろう。

 それ以上は多すぎて、とっ散らかるだけだろうしな」


 「そうなのよ。

 なんか混沌とした状態だし時間が掛かるしで、最後の方なんて、早く終わるなら何でもいいって思ったくらい疲れるの」


 「それは嫌だね。

 やってても楽しくないだろうし、疲れてどうでもよくなるってのもどうなのさ?」


 「多分だけど、アレって賭け事に使う用の物だと思うのよね。

 あの時は治療費を賭けてやってたし。

 まあ、勝ってふんだくったんだけどさ……ここ、かな?」


 「勝ったなら良かったじゃないか。……っていうか、アッシュは指すの早いね。

 おそらくマーヤの動かすのを読んでるんだと思うけど、完全に速度で負けてるじゃないか」


 「五月蠅いわねえ。ここからよ、ここから。

 アッシュが気づかない手を思いついて一気に逆転するわ」


 「出来るならいいんだけど………」


 分かってるわよ。これ八方塞がりでどうにもならない形になってる。

 迂闊(うかつ)に前に出ると倒されるし、倒されると不利になって負ける。


 なら中央に集めて防御? そうしたら集まってる最中に潰される。

 これ……やっぱり完全に初期配置で失敗してる。


 鈍足の外側を歩兵でカバーしようとしたのが失敗だったわ。

 歩兵を内側に置いてたらまだマシだったと思う。

 でも一番外側じゃ……


 このままズルズルと負けが確定して終わりそうな気がする。

 でもここまで動けない状態じゃ、後できるのは当たって砕けるだけ。


 ………それしかないかな。

 突っ込めば勝てる可能性もあるし、ここは突っ込んでみるしかないわね。


 何とか乱戦に持ち込んで勝利をもぎ取るのよ。


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