04-08-0133
Side:ジャネス
「ーーッ! そのような事くらい知っている! 私をバカにしているのか!!」
ガツン!!
「ーーーーーッ!!!!!」
「分かっておらんから言われておるのだろうが、この愚か者が!!
お前が先ほど言った事は、命令にしかならんのだ。
そのうえ平民が貴族に勝つなどという事が出来る訳が無い。
つまりお前の言った事は無理矢理に妻にすると言っているのと変わらん。
恥を知れ!!」
「そ、そんな意味では言っておりません!
私は真面目に戦い「出来る訳がなかろうが!」を……」
「そんな事をしてお前が負けてみろ、我が家は恥を掻かされたとして報復せねばならん。
しかも愚かにもお前が言い出した事だから、その時点で恥の上塗りだ。かといって報復せねば貴族の面目を保てん。
つまりお前が言う事をやったところで誰も得をせんのだ!
理解したか、この阿呆が!!」
「………」
流石に冷静になってきたらしく、理解できたようだね。
そもそも平民であるあたしが貴族との結婚という時点で無いんだよ。
平民の嫁をもらうのは男爵か、頑張っても子爵までだ。伯爵から上は絶対に貴族の娘と決まってる。
平民なら側室か妾だ。でもあたしはどっちにもなる気は無い。
なので言われても迷惑だっていうのが本音なんだよね。
怖いという思いもあるんだけど、それでもあたしが子供を産むとしたらアッシュの種だ。
あたしもオーガ族の女だからね、子供はより強い子を望む。
もちろん口に出しては言えないんだけどさ、アッシュは嫌がるだろうし神様が怖いから。
「そもそもだけど、伯爵家なんだから貴族の妻しか迎えられないに決まってるでしょ。
平民の女なんて頑張っても側室、ほとんどは妾にしかなれないわよ。
言い換えれば、あんたは妾になれと言ってるわけ。
さっきの言い方じゃ、そこんところも分かってないみたいだけど」
「私は妾などで望んだわけではない! 彼女ならば必ずや強い子を産んでくれるのは間違いないのだ。
私の直感がそう叫んでいる!!」
「ああ、オーガの直感か……」
なるほど、通りで暴走するわけだ。ただしそれでもお断りだけどね。
だって、あたしの直感には全く反応してないし、してないって事はあたしにとって良い男じゃないって事さ。
その血はあたしには要らないよ。
あたしが過去多くの男と会ってきて、一番直感が反応したのはアッシュなんだからね。
その反応は今までの比じゃないくらいだった。
あの時は酒を飲んでたから誤魔化せたけど、酒を飲んでなかったら女として反応してるのがバレバレだったと思う。
一目見た瞬間から直感が叫んでたくらいだ。あのオスの種を受けろ、あの男の種で孕めってね。
それぐらいの反応だったのさ。
だから「アッシュについて行ったら面白そう」なんてのは理由の一部でしかない。
確かに面白そうではあるんだけど、一番大きな理由はアッシュの女にしてもらう事さ。
難しいというか、前途多難な感じはするけどね。
「オーガの直感がか………」
「そうです!
私のオーガとしての直感がそう叫んでいるのですよ!! 彼女を逃がすなと!」
流石に困った伯爵様はあたしの方を見て来るが、あたしは無言で首を左右に振った。
あたしの直感の反応は無し。
反応そのものが無いんじゃね、目は全く無いんだよ。
「そういえばオーガ族って、伴侶を直感で決める事もあるんだっけ?
しかもそれが当たってて、直感のあった相手だと優秀な子が生まれるって聞くわね。
本当かどうかは知らないけど………ジャネスの方に反応は無し?」
あたしは言葉に出来ないので少しだけ頷く。
それで分かるだろうと思ったが伝わったらしい。
周りのメイド達は残念そうにしているけど、あたしの方に何の反応も無い以上はねえ……
「残念ながら、お前の直感は脈無しのようだぞ。
お前の直感は素晴らしい子が生まれると言っているのだろうが、女性側には直感は無しだ。
つまりお前は失格という事だな。だから諦めろ、それが仕来りだ」
男であろうと女であろうと、相手に直感の反応が無いなら諦めるしかない。
この事は貴族だ平民だと関係なく、昔からオーガ族の仕来りとして決まっている。
どんなに願ったとしても諦めるしかない。
「そ、そんな………! なぜ私に直感が反応しないのだ!
そんな事がある訳なかろう!!」
「しつこいぞ!
お前は自分が情けない事を言っているという自覚が無いのか!!」
「くっ! しかし、父上。
直感が反応しないという事は、私以上の者が居るという事になるのですよ!!
男として納得など出来ませぬ!!」
「っていうか、もしかしてオーガ族の直感って、会った者によって変わっていく?
たとえばより直感が強く出た者が居たら、それまで反応してた奴らに反応しなくなるとか……」
「そうだね。より優秀な者が居たなら、それまで反応していた奴らも反応しなくなるよ。
それがオーガ族の直感でもある。
あくまでも強い子が生まれるってだけだから、伯爵家の方は無視するべきだと思うけどね」
「でしょうね。
そうでないと貴族家として維持する事は出来ませんし、今の御当主も諦めてこられたのでは?」
あたし達が一斉に伯爵様を見ると、苦い顔をしながらも頷いた。
やはり貴族の家の者として諦めてきたみたいだ。
仕方がないんだろうけどね。
「しかし! 父上が諦めたとしても、私は……!!」
「相手の直感が全く反応してないんだから諦めればいいのに、それって自分の都合を相手に押し付けてるだけよ?
そもそもジャネスには良い男が居るんでしょうよ。だから反応しないんでしょうに」
そう言いながらマーヤがあたしを見て、一瞬だけアッシュの方に目線を動かす。
だからあたしは小さく頷く。
あそこまで劇的な反応をしたのは一度も無いんだ、あたしはその出会いを逃がす事は絶対にしない。
オーガの女として。
このままこの話が終わらないと困るんだけど………
そう思っていたら、ラブが話を変えてくれた。
「もしかして、先ほど御息女がアッシュさんに挑んだのは、オーガ族の直感でしょうか?
御本人は分からないままに勝負を挑んだ………とか?」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
「11の子では、まだ分かっていない可能性があるのか……」
御子息以外の全員が黙った。その可能性は十分にあるからだ。
御息女はそもそもまだ11ならしいし、若いからこそ直感を理解していない可能性がある。
もしそれで暴走したなら、オーガ族の本能として納得できる事ではあるんだよ。
それは決して恥にはならないし。
「いたたたたたたたたた……!!」
ガチャッ……………バタン!
そう考えた瞬間、伯爵様は御子息の耳を引っ張って部屋を出ていった。
どうやら直感の話はこれで有耶無耶になりそうだ。
やれやれ……申し訳ないけど、あたしはもうアッシュ以外の男の種を受けるって事にはならないと思う。
それぐらいの反応だったからね、あの時の反応は。
今は落ち着いてるけど、初めて見た時の衝撃は凄まじいものだった。
祖母ちゃんに昔聞いた時にこう言われたっけ。
<本当の意味で直感が反応する男に会ったら、オーガの女はその男の種を受ける事しか考えられなくなる>。
そう言ってたんだけど、本当にその通りだったよ。
祖母ちゃんは赤くなりながら祖父ちゃんを見てたから、単に夫婦の惚気だと思ってたんだけどね。違ってた。
ここまで劇的だとは、流石のあたしも予想外だったよ。
女の本能が叫ぶというか、腹が疼くんだからね。
あたしもしっかりと女だったってわけだ。
その事は喜ぶべき事なんだけど、当のアッシュが男としては例外なのが何とも……難しいところさ。
普通の男なら誘えばホイホイと種をくれるだろうけど、アッシュはねえ…………っと、伯爵様が戻ってきたかい。
頭の中のバカな考えは消して、真面目に話を聞かないとね。
変な態度で居る訳にもいかない。




