04-07-0132
Side:ジャネス
「とりあえず客を案内しておいてくれ………」
「「「かしこまりました」」」
メイド達も居た堪れない顔をしているけど、その顔も客前で見せちゃ駄目だろ。
とはいえ気持ちは痛いほど分かるので、あたし達は流して知らないフリをするけどね。
それにしても、まさか伯爵家の跡取りがさっきの娘って事は無いよね? だとすると危ないとしか思えないけど。
あたし達は客間に案内されたので、それとなくメイドに聞いてみる。
「さっき御息女がおられたけど、後継の方は屋敷におられないのかい?」
「御子息であるマルドーク様は騎士団に所属しておられますので、現在は屋敷にお住まいではありません。
御当主様も若い頃は騎士団におられましたので、デッフォルン家の伝統となっております」
「ああ、なるほどね。
通りであんな、ゴホン! 御息女しか出てこなかったわけだ。
まあ、迎えには出なきゃいけないから仕方ないんだろうけど、いつもああなの?」
「………ウルディラ様はお強いのです。
お強いからこそ………なのです」
「ああ、うん。それ以上は言えないよね。
仕事が無くなっても困るし、家の問題を他所に出す訳にもいかないし。
最大限に言えてそれだろうね」
「そうなのか?」
「ええ。流石に政敵に攻撃される元になるかもしれませんし、貴族家として弱みなど見せられません。
ですからあのような失敗をする者は出さないのが普通なのですが………そういう失敗をしそうな訳ではないんでしょう?」
「………そういう事かい。
つまり普段はまともなんだけど、強そうな者が来るとああなるって事なんだね」
「ラブから借りた小説の主人公にそんなの居たわね?
たしか「オレより強いヤツに会いに行く」だったかしら?
武門の家系に時折現れるバカみたいって思ったけど………」
それ以上はマーヤも口にしなかったね。
メイド達の雰囲気が「そうです」と言わんばかりだからだけど。
ガチャッ!
「すまんな、とんだ大恥を晒してしまった。
まさか娘があそこまでだとは思っていなかったぞ。
私の前では上手く隠していたらしい。
そういうところは女らしいのだから、全部女らしくて良かったのだが……」
「さっきも話してたけど、武門の家系に時折ああいうのは生まれて来るからね、どうしようもないわ。
どうにかなるなら苦労はしないだろうし、時折現れるバカなんて言われないわよ。
そんなヤツの親は皆が苦労してきたんでしょう。おそらくね」
「我が子がそれというのも、溜息を吐きたくなる事柄だがな」
「それでも真っ先にアッシュさんに挑む気概と、武を見る目はあるようですよ?
ぼくやマーヤさんがお眼鏡に適わなかったのは当然としても、当たり前のように鉄10級のジャネスさんを外してますからね」
「確かにそうだったね。
あたしの方には見向きすらしなかったから、強さを正確に測る目は持ってるんじゃないかい?
それって普通は経験から得るもんなんだけど、御貴族様の御息女にそんな経験は無いだろうから……」
「持って生まれた勘か、それとも何かを嗅ぎ分ける嗅覚でも持ってるんだろう。頭が痛いがな。
……それはともかくとして、お前達には息子を同道させる。騎士団に所属しているし、娘よりは遥かにまともだ。
かつてオレが直々に扱いて矯正したからな」
「矯正したという時点で不安なんだけど?」
「心配は要らねえよ、ウチの家系は大抵そうだ。
幼少の頃は調子に乗り、父親と騎士団にボコボコに凹まされる。
そうやってまともな当主になるんだよ。オレだって当時は何度もボコボコにされたからな。
なまじ血がそっちにある為に、大抵は努力しなくても強いんだよ。だからこそ凹まされるんだがな」
「それは良い事だけど、あのお嬢様には無理だね」
「いや、騎士団には女性の部隊もある。そこに放り込む事に決めた。
特にあそこの女性部隊は男性部隊よりも厳しいので有名だからな。叩き直してくれるだろうよ。
伯爵家としても、その方がいいんでな」
伯爵家としてもいい?
むしろ騎士団で怪我とかしたら、それが結婚出来ない理由になったりするんじゃ……
そんな話を昔に聞いた気がするんだけど、違ってたのかな?
「いえ、合ってますよ。
ただし文官の家系でも、特に武官系の家を見下している家はそんな感じです。
ウチも辺境伯なんで、どっちかと言わなくても武官系の家ですからね。傷とかなんて問題視しません。
むしろ辺境で生きていく強さを持っているか否か、そっちの方が重要です」
「お前さん辺境伯家だったんだったな。そりゃどちらと言わずともオレ達側か。
辺境なんぞ、戦争になったら即座に最前線だ。
それで平然としていられる気概がなきゃ、辺境の守り手にはなれないだろうよ。
最前線なんて生易しい場所じゃねえからな」
「息子と合流するのは明日? それとも今日?」
「もうそろそろウチに戻ってくるはずだ。
特に変な報告はねえから、騎士団でもまともに職務に就いてるだろ。
流石に娘のような事はねえ………と思う」
さっきの娘の事があるからか、若干自信を失くしてるね。
気持ちは分かるけど、堂々としていた方がいいと思うよ? 流石に伯爵なんだしさ。
コンコン!
「マルドークでございます」
「入れ」
「失礼します」
ガチャッ!
特に何の問題もなく普通な感じだね。これなら何も問題は無いだろう。
この時までは、そう思っていたんだけどねえ………
「マルドーク・デッフォルン。お呼びにより参りまし………」
何故か部屋に入って来た子息は固まり、あたしの方をジッと見て来る。
はて? どこかで会った事がある?
生憎と、あたしの記憶には無いんだけど……
「………ジャネスを見てる?」
スタスタスタスタ……
いきなりあたしの目の前に来たマルドークっていうお坊ちゃんは、あたしの前で膝を突くと右手を持ってこう言った。
「レディ。私と勝負して私が勝ったら、結婚していただきたい」
何を言っているのか全く理解できなかったあたしは、思わずマヌケな声を出しちまった。
「………は?」
「いきなり言われて驚くのは分かります、しかし、レディ。
貴女は「ズガン!!」まる、ーーーーーーーーッ!??!?」
凄い音がしたけど、伯爵様の怒りの拳骨の音だ。
分かるよ、娘に続いて息子もコレじゃ言い訳不能だからね。
アッシュもマーヤもラブも、壁の方を向いて「聞いてませんよ」という態度をアピールしてるくらいだ。
あたしもそっち側に行きたいんだけど、何故か未だに右手を離してくれないんだよこのお坊ちゃん。
なのであたしから離せないしさ。どうすりゃいいんだい、コレ。
「とにかく女性の手を持ち続けるんじゃない、この愚息が!!」
伯爵様が外してくれたから離れられたけど、本当に勘弁してもらいたいね。まったく。
「そもそも、いきなり訳の分からん事を言い出すな。この愚か者め」
「ーーっ!! ち、父上、しかしですね。
我がデッフォルン家には強い者の血を、そう言っていたのは父上だけでなく御祖父もですよ?
そうであれば、私の行動は咎め「ガン!」られ」
バタバタバタバタバタ!
ついに頭を押さえて足をバタバタし始めたよ。
さっきもそうだったけど、さっきと同じ所に再び拳骨を落とされたからだろうね。
余程に痛いんだろうけど、流石に自分のやっている事は理解してほしいもんだ。
「流石に理解してないのはマズいんだけど、貴族家の者がそれを平民に言うと命令になっちゃうのよ。
だから貴族家の者は命令になってしまう事をなるべく言ってはいけないわけ。
命令しなきゃいけない時以外はね」
そう、この子息はその原則を破ってるんだよ。
平民には理不尽な命令をしちゃいけないし、そんな事をしたら笑われちまうんだ。
横暴に威張るだけのバカ貴族になっちまうから。
それぐらいは知ってるもんだと思ってたけど………違うのかね?




