04-06-0131
Side:ジャネス
皆が起こしてくれなかったのは横に置いておくとしてだ、もちろん寝てたあたしにも問題があるからね。
それよりもそろそろトッカネイル地方の領都であるマグナスに着く。
一応そこで今後の事とか色々と話し合うんだけど、おかしな話にならなきゃいいんだけどね。
「おかしな話?」
「まあ、伯爵様は来ないと思うけど、その親族なんかが来るとなったら面倒極まりないからね。
そういう意味での“おかしな話”さ」
「あー、ありがちな事ですね。
どこの貴族家も暇を持て余していますから、そういう面倒な親族や家族が居る事もあります。
なんでそんな面倒な事をするのか、何故いちいち首を突っ込むのか。
ぼくなんかは理解に苦しみますけどね」
「あんたの場合は一文字でも多く読みたいからでしょうが。
アッシュに御者のやり方を教えてからは、ずっと本を読んでるだけだし」
「いやぁ……何と言うか、ぼくよりも言う事を聞くんで任せた方がいいなと思いましてね。
何故かパルデオムがやたらに懐いていますし」
そういえば馬車を牽いている2頭のパルデオム、アッシュが世話してからやたらにアッシュに懐いてるんだよねえ。
急にだから不思議だけど、もしかしてパルデオムも浄化の力を感じ取ってるのかもしれない。
「その可能性は確かにあるわね? 案外とパルデオムは敏感に感じ取ってるのかもしれないわ。
だからアッシュの言う事には従うって感じかしら。
浄化してほしいのか、それとも浄化される事で安心するのか」
「安心………は、あるのかもしれませんね。
実家に居た時にそんな本を読んだ事があります。
猫が近くに行く者とそうでない者は、その猫が安心できる者か否かだ。
確かそう書かれていたと記憶しています」
「安心ねえ………むしろアッシュの強さの方に安心している気もするんだけど?
あたしの気のせいじゃなければ」
「どっちもあるのかもしれないし、言葉が交わせないから分からないわね。
まあ、何故かアッシュに懐くっていうのは覚えておきましょう。
だいたいそうなんでしょ?」
「だいたいと言うか、私はあまり動物という者に会った事が無いからな。
会った事がある者には懐かれる事が多かったと思う。
私自身はそれが普通なので違いがあまり分からないのだが、確かに懐かれやすいと言われた事はある」
となると生き物に好かれる何かがあるんだろうね。
あたしは強さによる上下とかの安心感だと思ったんだけど、そうじゃない感じもしてきたかな?
強さだけで懐かれるってのも不自然だし、そうなるとやっぱり浄化の力のほう?
「っと、見えて来たぞ。おそらくあれが領都マグナスだろう。
まだ先の方だが、この時間だと夕方までには間に合いそうだ」
そうアッシュが言うので見てみるけど、なんというか遠くにそれっぽいのが見えるか見えないかってところか。
相変わらずだけど、アッシュって異様に目がいいよねえ。鼻も良いらしいから、そもそも全身が優秀なのか。
そう考えると、本当に邪神の生まれ変わりと言われても仕方ないとしか思えない。
鼻が良い。
耳が良い。
目が良い。
勘が良い。
暗闇が見える。
力が強い。
足が速い。
様々な能力はあるけど、どの種族もどれか一つだよ。
もちろん混血だから2つの能力を発現するってヤツも稀に居る。
あたしの家がオーガ族の中でも賢いのはソレが理由だからね。
だからこそ全て優秀なうえ<混沌の種>を消せるアッシュは凄まじいとしか言い様が無いんだ。
言葉は悪いけど、アッシュは密かに貴族や王族から狙われてる気がするんだよね。
もちろん種という意味で狙われてるって事だけどさ。
どんな種族か分からないけど、その種は自分の一族に良い結果を齎してくれる可能性が高い。
しかも邪神と浄化の女神の加護を受けられる可能性すらある。
唯でさえ浄化の女神の加護は少ないからね、それを持てば生涯安泰っていう可能性もあるんだ。
どの親だって、自分の子には良い暮らしをしてほしいものさ。
それを考えると貴族や平民関係なく、アッシュの種を搾りに来る可能性はある。
おそらく無理矢理には来ないと思う、それをすると浄化の女神が激怒する可能性が高いからね。
それこそどんな神罰を受けるか分からない以上、そんな恐ろしい事はしないだろう。
ただねえ………貴族の中にも頭の悪いバカは居るし、そういう失敗をしそうなマヌケが居る。
アッシュは多分だけど断るだろ。そもそも女の相手を無理矢理させられてきた訳だしさ。
………そういえば、その状態でもアッシュが相手をさせられた女どもに神罰は落ちてないね?
となると………問題無い?
「ああ、ようやくハッキリと見えてきましたね。
確かにアレが領都でしょう、防壁も築かれていますし」
っと、危険な事は考えないようにしようか。
かつてはアッシュが邪神の生まれ変わりだなんて知らなかったんだ。
だからセーフだっただけかもしれない。
それにアッシュの血を継いだ子は出来てないしね。
貴族の女がそんな失敗をするはずがない。
あいつら、そういうところはしっかりしてるから、避妊に失敗したなんて事はない。
………というか、それ以前に種族が分からないんだから子供が出来るかも不明なのか。
神様の生まれ変わりなら、そもそも下界の者との間に子は出来ない?
そう考えると、神様が神罰を落とさないのも分からなくはないね。
普通はそんな事で神罰なんて落とさないとは思うけど、神様だって嫉妬に狂う事はあるかもしれないし、わざわざ異空鞄を下賜するくらいだからねえ………
重い愛を考えておいた方がいいとは思う。
…
……
………
トッカネイル地方の領都マグナスに入ったあたし達は、そのまま領主邸に案内された。
伯爵様が招いているんだから当たり前に通れるんだけど、それでも無駄に豪華な屋敷に行くのは抵抗があるよ。
今まで面倒な貴族としか会った事がないからね。
もちろん会った数は少ないし、それらは男爵とか子爵であって高位貴族じゃない。
だから高位貴族家がどういうものかは知らないんだけどね。
それでも違いなんて無いと思って“た”。
「さあ! 私と勝負です!!」
「何を言っているのだ、お前は。さっさと部屋に戻って大人しくしていろ」
「何を仰るのですか! 我がデッフォルン家は武門の家系。
で、あるならば強さを計るのがとう「ガン!」ぜ、痛っ!!!」
「おほほほほほほ………この子はいきなり旦那様が帰って来られたので、ちょっと混乱しているのでしょう。
さっ、早く部屋へと戻りなさい」
「何を仰っておられるのですか、母上!
武門の家系たる者いついかなる時も、痛たたたたたたた!!」
いきなり出て来た貴族令嬢に勝負を挑まれたけど、それを笑顔で流したまでは良かった。
にも関わらず、何故あの令嬢は更に突っ込んできたんだろうねえ。
アッシュが流したんだから、大人しく引けばいいのに。
何と言うか、ラブが言ってた暇なヤツだという事がよく分かるよ。
世の中の者はあんたほど暇じゃないんだ。
屋敷から出た事が無いから分からないのかねえ……
「ほほほほほほ……皆さん失礼いたしました。私どもはこれで」
「母上、なぜ私が、痛い!! ちょっと強すぎます、母上!!」
「はぁ………」
気持ちは分かるよ伯爵様。帰ってきたら娘がすぐに恥を晒してるんだ。
貴族としちゃ顔を覆いたくなるような失敗だからね。
しかも王都から帰って来た途端だ。そりゃ溜息も吐きたくなるだろうさ。
貴族としたら溜息なんて見せてはいけない姿だけど、一人の父親としちゃむしろ当然の姿だ。
娘がアレじゃ、溜息も吐きたくなるってもんさ。
村長の傍系でしかないあたしだって、あそこまで礼儀知らずじゃなかったよ。
あれはオーガの先祖返りを起こしてるのかもしれないね。
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