04-04-0129
Side:ラブ
盗賊の襲撃後は何事も無く進んで来れた僕達は、ようやくトッカネイル地方に入りました。
そもそもデッフォルン伯爵が治めているトッカネイル地方は、王都のある王領の隣の隣です。
そしてぼく達が盗賊に襲われたのは、王領の隣の侯爵家の領地。
休憩中にデッフォルン伯爵に聞いたところ、その侯爵家はまず関わっていないとのこと。
理由は一つで、そんなに甘い侯爵家ではないからだそうです。
高位貴族家とも言えますが、それ以前に結構な権謀術数を持つ家らしく、分かりやすいバカな事はしないと言っていました。
確かに政に深く関わるのが高位貴族家です。
愚かな者が継げる家ではありませんし、愚かな者であれば密かに殺される事もあるのが高位貴族家ですからね。
実際ぼくも愚かであれば殺されていたでしょうし、それは兄達も姉達も変わらなかったでしょう。
高位貴族家には当然連なる家も多くあります。
その者達が愚かな子を担ぐと面倒な事にしかなりませんし、場合によっては高位貴族家の地位を失いかねません。
そうなる前に毒殺、つまり病死として処理されるのですね。
それもまた、高位貴族家に生まれた者の宿命となります。
王族と同じような悩みは高位貴族家も持つ悩みであり、だからこそ王家に下らない事をする意味が分からないのですよね。
場合によっては王族が高位貴族家に報復で介入する事もありますが、それも元を糺せば高位貴族家が愚かな事をしたから。
という事は多いのですよ、記録に複数残るくらいには。
そういった記録も祖国の歴史として読みましたが、愚か過ぎて呆れる事も幾つかありました。
王族の王位継承に首を突っ込んだ癖に、報復をされると挙兵したとか。
他の家の継承に絡んで後ろ盾になったら、その者が負けて報復を受けたとか。
本当に愚かな事をやっている当主が居るんですよねえ。
そんなのを読んで育ったぼくとしては、絶対に下らない事に関わろうとは思いません。
特に怨みのある相手は容赦ないですからね。
ぼくも貴族家の者として、どんな目に遭うか分からないんです。
迂闊な事はしませんよ。
「ですので、その甘くない侯爵家は関わっていないだろうなと思います。
自分の領地で襲わせるなんて、あからさま過ぎますしね。
甘くないと言われるなら、そこまで愚かな事はしないでしょう。
むしろ共倒れを狙ったのかもしれないと思います」
「デッフォルン伯爵、該当の侯爵、そして<ソードモラ教>。
この三者を都合よく攻撃できる一手だった。だからやらせたってわけね。
ついでのように死ぬ前に叫んだし」
「どうしてもな、アレはあからさまに過ぎる。
普通はあんな事を声高に言いながら死んだりなんてしない。
頭のおかしい教団なら分からなくもないが、それは噂だけのようだしな。
もしかしたら邪神と同じく嘘や捏造で潰そうとしているのかもしれない」
「なるほどね、だからそんな噂だけが独り歩きしてると。それなら分からなくもないわ。
そもそも実態が分かってないなら、よく分からない教団で終わる話よね。
なんで急に暗殺の話が出てきたのかしら?
犯人を見ていないなら<ソードモラ教>の所為だとするのもおかしいわよ」
「本当に嘘や捏造で潰そうとしているのかもしれないが、それもこれも今は全て保留だ。
それよりも一応の警戒はしておこうか」
アッシュさんは馬車の後ろに行き、後ろから敵が来ないかの確認をするようです。
マーヤさんは適当にしているみたいですし、ぼくは前を注意しています。
とはいえ前には伯爵が乗る馬車がありますし、その周りにはパルデオムに乗った騎士が併走していますから問題ないでしょう。
ぼく達の乗る馬車の左右から来る可能性はありますが、普通の盗賊なら前の馬車を見た時点で諦めます。
どう考えても貴族家の馬車ですし、おまけに騎士が護衛としてついているんです。
すぐ後ろの馬車も関係者だとして手を出さないでしょう。
そもそも貴族の乗っている馬車だとはいえ、金目の物が載っているとは限らないのです。
人質としてとる、というのは考えられません。
なぜなら簡単にお金が手に入らないうえ、騎士団を完全に敵に回します。
こうなると盗賊如きでは絶対に耐えられません。
あっという間に殲滅されるでしょう。
それに仮に一度や二度耐えられても無駄です。
今度は食料攻めにされて、飢えて死ぬだけ。
圧倒的に有利なのは騎士団なんですから、理解している盗賊は騎士団を敵に回したりなんてしません。
なら何を狙うかと言ったら、すぐにお金に替えられて便利な物を運んでいる者。
つまり商人です。
「という事で、普通の盗賊が狙うのは商人一択なんですよ。
平民を狙っても大してお金を持ってないですし、もしそんな事をすれば平民の怨みが自分達に向く。
それでは補給も儘ならなくなりますから」
「盗賊っていったところで襲撃が毎回上手くいくわけじゃないし、手に入らなければ飢えるしかないわ。
それに手に入れた物を換金しなきゃいけないけど、それも町を使うと危険になる。
町だとどこから手に入れたか怪しまれる事も多いもの」
「特に多くの種類を売ろうとすると、必ず騎士や兵士に調べられるんですよね。
商人は商売の許可証を持っていますが、それを持っていない者の多種の売り買いは怪しさしかありませんし」
「商人から奪った。くらいしか商人以外が多種の物を持つってあり得ないもの。
そもそも村だって多種の物を売るのは商人だけだし、わざわざ町に持って行ってまで売ろうとなんてしないわ。
そんなの手間でしかないし」
「確かにそうだな。行商人が来るのだから、その行商人に売れば済む。
そもそも行商人とは村と町の橋渡しのような商売だしな。
行商人が運んできてくれるから、町には食べ物があるのだ」
「ええ。
だからこそ、あからさまに貴族の馬車だと分かる。そんな馬車を最優先で狙う盗賊なんて居ません。
それをするのは暗殺者か他国の工作員ぐらいでしょう。
つまり先ほど襲って来た者達は、そのどちらかという事になりますね」
ぼくの考えだとそれぐらいですが、他に考えられる事はあるのかもしれません。
伯爵に聞けば何かしら分かるかもしれませんが、まだトッカネイル地方に入ったばかりです。
夕方になれば聞けるかもしれませんが、今はまだ無理ですね。
「そろそろ最初の村かしら?
まだまだ時間が掛かりそうだけど、それでもこの馬車旅を続けるしかないのよねえ。
目的地は更に隣の隣なんだから、本当に先が長いわ。
仕方がないんだけど嫌になってくるわねえ。既に飽きてきたし」
「仕方なかろう。
私は魔力を扱う訓練をしているから暇ではないが、そういうのも既に技術としているマーヤは暇だろうと思う。
ラブから本を借りたらどうだ?」
「そうねえ、それもいいかもしれないわ。
馬車の中で本を読むと酔うって言うけれど、酔ったら自分で治せばいいし。
そうすれば酔いながらでも本を読み続けられるわ。
後はボードゲームでもどこかで買う?
お金ならわたしが出すわ。暇なのはわたしだし」
「仮に買うにしても町まで行かなければ無理ですけどね。
もしかしたら領都まで行かないと売ってないかもしれません。
焦らずにゆっくりと待つしかありませんね。
本なら好きに読んで下さい。今ある本は全部読み終わってますし。
アッシュさん、お願いできますか」
「分かった」
ぼくの本は全てアッシュさんの異空鞄に仕舞ってあります。
アレなら重さも関係なく好きに持ち運べますしね。
どれぐらい入るのかは知りませんが、おそらく結構入るんだと思います。
あの異空鞄、大きいですしね。
小さい方も思っているよりも入るみたいですし、もしかしたら入る量も特別仕様かもしれません。
その辺りも全く分からないんですよねー、アレ。




