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 Side:アッシュ



 私は素早く馬車を下りると、そのまま前の馬車へと走りつつ武器と盾を取り出す。

 どちらも非常に濃い灰色なので分かりやすいが、そういえば殴りつけた相手には暴走が効かないな?

 そんな下らない疑問が頭に浮かんだ。


 だが持つ者には影響があるのに、コレで殴られた側には影響が出ないとは……不思議だと言わざるを得ない。

 もしかしたらモンスターだから分かりにくかっただけで、本当は殴られたモンスターも暴走しているのかもしれない。


 もしくは長く触れているから暴走するのかも。

 実際に持って使うヤツしか長く触れないし、殴られた側は一瞬ぐらいだからな。

 そうであれば暴走も何も無いか。


 そんな事を思いつつ盗賊に接近。

 私は盾を前に出して相手の視界を塞ぐと同時に、容赦なく足を攻撃。


 ドゴッ!


 「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?!」


 一撃で足が横にズレたというか、折れて曲がった。

 左の足が膝上から内側に折れ曲がっているのだから、完全に骨を圧(へ)し折ったという事になる。

 当たり前だけど、モンスターに比べて人型の生き物は耐久力が低い。

 なので簡単に潰せる。


 「ますは一人だが、とりあえず武器は奪っておこう」


 私は盗賊が持って居た武器を腰の異空鞄に仕舞い、それが終わったら次の盗賊に接近する。

 騎士と戦っている盗賊を後ろから襲い、先程のヤツと同じく足を潰してやった。

 これで二人目だ。


 「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?!」


 流石に五月蠅いものの、足が潰れた者が逃げるのは難しい。

 それに仲間の悲鳴を聞けば、その分だけ焦るだろう。

 そうすればこちらが有利になるだろうし、五月蠅い悲鳴も損にはならないはずだ。


 私は盗賊の武器を奪うと、再び別の盗賊に向かって移動する。

 その間にも騎士達は上手く戦い何人かの盗賊を討ち取っていた。

 どうやら殺してしまっているらしい。

 一応聞きださねばならないのだが、いいのだろうか?


 私は一人の騎士と戦っていた盗賊の背後に回り、その盗賊の足を叩き潰す。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!??!」


 再び潰した私は倒れ込んだ盗賊から武器を奪って収納する。

 その間は武器を地面に置いているが、仮に奪おうとしても暴走するだけなので気にはしていない。

 奪われたら奪われた時である。

 それに足が折れているヤツに奪われても怖くないしな。


 盗賊の武器を奪い終わった私は再び<邪獄樹の棍棒>を持って立ち上がるが、その時には戦闘は終わっていた。

 騎士達も盗賊を背後から襲う形で壊滅させたらしい。

 私は馬車の中に声をかけて尋問を行うか聞く。すると伯爵様はこちらに歩いてきた。

 どうやら馬車の前に出て戦っていたようだ。


 「おう、こっちも終わったようだな。

 それに尋問と聞こえたが、まさか生き残らせたのか?

 自分達の命が優先だから殺しても良かったんだが、生きているとなれば聞かないとなぁ。

 こいつらは盗賊じゃないんだ」


 「盗賊ではない?」


 「おう。オレが前に行って戦ってたのは強いヤツが居たからだが、ありゃワクストンに居るはずのヤツだ。

 それもデットリス伯爵家の騎士団長だった男。

 そんなヤツが盗賊のフリして襲って来たんだ、理由が無きゃあり得ねえよ」


 そう言いながら伯爵様は生き残らせた奴らを見回す。

 すると突然全員が懐を漁り、何かを口に入れて飲み込んだ。

 しまった、毒を持っていたのか!?


 「「「「<ソードモラ教>ばんざぁぁぁぁぁい!!!」」」」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 いきなり<ソードモラ教>を賛美する声を上げたが、その後は体が「ブルブル」と震えだし、そして泡を吹きながら死んでいった。


 しかしどう考えても<ソードモラ教>と関係ないように見える。

 まるで<ソードモラ教>に罪を押し付けているような………


 「ああ、オレもそう思うぜ。

 幾らなんでもおかしいし、死ぬ間際にわざわざあんな事を言ったりしねえよ。

 もし本当に<ソードモラ教>の奴らなら隠すだろ。

 実態がよく分かってなかったが、もしかしたら<ソードモラ教>がやってるんじゃねえのかもしれねえな。暗殺」


 「となると、<ソードモラ教>が邪神を信仰しているかも不明ですね。

 殺された者達も偶然なのかもしれません。

 そもそも神殿は<邪神=悪>としていますし、それぐらい当たり前の事なのかも」


 「当たり前に神様を愚弄するってのもな。どう考えても腐ってるぜ、そんな奴ら。

 もちろん今の神殿からしたらお似合いなんだけどよ。

 少なくとも襲撃者の中にデットリス伯爵家の騎士団長が居たのは間違いない。

 オレは顔を知ってるんでな」


 「そうなると、相手は顔がバレるのも分かっていて襲って来たという事になりますが……」


 「だろうな。問題はこいつらが何でそんな事をしたかだ。

 とはいえ向こうはオレに気づかれないと思っていた可能性はあるがな。

 昵懇(じっこん)な間柄ならともかく、ウチは隣の隣で関わりも薄い。

 あの騎士団長とも1回か2回しか会った事が無いぐらいだ」


 「なら、こちらが覚えていないと考えても変ではない訳ですか………。

 とにかく全員が死亡してしまいましたので進むしかありませんね」


 「ああ。とりあえず盗賊の持ち物は好きにしろ。

 オレ達じゃ荷物にしかならねえからな。

 アッシュなら持っていけるだろう」


 「ええ。素早く拾っていきます」


 私はそう言うと、死んでいる盗賊から革の鎧や武具を剥ぎ取っていく。

 それを素早く済ませると、既に出発して居なくなっていた馬車を追う。

 【身体強化】をしてある程度走ると見つかったので飛び乗り、そして馬車内で息を吐いた。


 「ふぅ。一応装備品は奪ってきたが、特に所属を示すような物は無かった。

 わざわざ買い集めたのか、それとも誰かを殺して奪ったのか。

 店売りの既製品ばかりだったから、騎士の装備品じゃないな」


 私はそう言いながら異空鞄から剣を取り出したが、本当に何の変哲もないショートソードでしかなかった。

 もちろん襲撃者が身分や所属を明らかにする物など持たないだろう。

 それでも目的地の領地の騎士団長だとバレてしまっている。


 「完璧に準備をして、いざ本番。

 そこで手を抜いたようにしか受け取れないな。

 騎士団長は不本意で、家族か何かを人質にとられていたなら分かるが……」


 「それもまた在りそうな話ですねぇ。

 その相手が<ソードモラ教>じゃなくて他国とか?」


 「物語じゃないんだからって思うも、物語より奇妙な事が起こるのが現実だものねえ。

 そう考えると他国が絡んでいたって不思議じゃないか。

 実際に無いとは言い切れないもの」


 「あまり想像ばかりしていても仕方ないから、忘れよう。

 強く考えていると、そうだと思い込んでしまうかもしれない。

 決めつけると公平に見られずに勘違いしそうだ」


 私がそう言うと、マーヤもラブも分かったのかすぐに考えるのを止めたようだ。


 「ま、様々な所に疑いを持たせる事で、本当の黒幕に辿り着かないようにしているかもしれないものね。

 迂闊(うかつ)に決めつけるのも、確かによろしくないわ」


 「ですね。

 あんまり決めつけても危険ですし、<ソードモラ教>が関係無かったら敵に回ってしまいますよ。

 それでは無駄に敵を増やすだけです」


 「それが黒幕の狙いでもあるかもしれないしな。

 やはり現場に行くまでは決めない方が良いし、色々と疑った方がいいだろう。

 今回の事はどこの誰が仕組んだのか不明だ。

 男爵の酒の話だけで終われば、そこまででもなかったのだが……」


 そこが最初だったのだが、それで終わってくれれば面倒な事にはなっていないのだがなぁ。

 なかなかに面倒というか厄介な事になってきたとしか思えない。


 それに<ソードモラ教>の事を言ってから死んだ事も含めて怪しすぎる。

 むしろ<ソードモラ教>は関係ないと言わんばかりだったからな。


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