04-01-0126
Side:アッシュ
マスターに報告してから10日ほど経った。
アレから正式に王様に異空鞄を返すと共に、あの場所に邪神の神殿らしき物があったと報告。
隣に居た宰相らしき方と共に随分と悩んでいたのが印象的だった。
下手に公表すると、バカが忍び込むかもしれない。
公表しないと見つかった時に面倒になる。
でも見つけた段階で神殿への対策を考えなきゃいけない。
どう考えても悩まざるを得ない案件だ。
何より神殿対策が面倒臭いらしい。
邪神の神殿となれば破壊するかもかしれないし、破壊はしなくともケチをつけてくる可能性がある。
国としては邪神の神殿に何もする気は無いが、金鉱脈を諦めるという事は絶対に無い。
なので神殿をどうにかしないといけないわけだ。
そもそも神殿の者達が間違ったのが最大の原因であり、神々に何らの責任も無い。
そのうえ恥の上塗りの如く<邪神=悪>という捏造を広めたのも神殿の連中。
となれば神々が激怒するのは当たり前なわけで……
そこを考えると当然国は厳しい態度で臨む必要がある。
あるが、だからといって全ての神殿を打ち倒す訳にもいかない。
本来は神への祈りの場、それが神殿だ。
つまり神殿に居る関係者が悪なのであって、神殿そのものに善悪は無い。
更に神殿を維持していく必要もあるので、誰かが住まうしかないのも事実。
問題はその事を利用して、自分達は間違っていないと言い張っている腐った神殿関係者なのだ。
言うなれば神殿を人質にとっているようなものであり、それもまた神々の怒りを買っている……と思われる。
とはいえ神々も一枚岩ではないのか、神罰を落とされるという事まではしない。
だからこそ神殿の関係者が調子に乗っている気がするのだが、神々にも何か神罰を落とさない理由があるのだろう。
私達のような下界の者には分からないからな。仕方ない。
それと【変人】と呼ばれる人間族の鍛冶師には会えた。
ステージ4に入りかけている甲殻を渡すと喜んで作ってくれたうえ、たった1日でナイフと短剣が完成。
あまりにあまりで驚いたが、私の赤鉄製のナイフと短剣はラブに渡しておいた。
ラブは血の武器で出来るからと武器を持っていなかったからな。
それとお金があまり無かったので血の服を着ていたが、それも止めさせて今は普通の服を着ている。
血で服を作れるからか、ラブは着る物に無頓着だった。
本人はそれより本だそうなので、そういう理由かもしれないが。
他は特に無く、後は適当に狩りなどをして過ごしていただけだ。
ジャネスも体の調子を見る為に狩りに参加したが、ハッキリ言って強かった。
左腕が使えないだけで、あそこまで弱くなるのか。
そう思うぐらいに強く、穂先を使う事さえ無かったのだ。
石突で敵を殴り殺したり、穂先の下の柄の部分で殴りつけたり。
【身体強化】をせずとも槍を円のように回したりと、変幻自在に戦っていた。
あそこまで強いのが鉄の10級なのかと納得したぐらいだ。
それはともかくとして、私達はマスターに呼ばれたので執務室へと進む。
昨日既に伝えられていたので、今日は全員でやってきている。
マスターの執務室に通されると、何故か前に見たオーガ族の伯爵がソファーに座っていた。
いったい何だろうか?
「よく来たね、アッシュ。
次に行ってもらう場所に色々と悩んでいたんだけど、アドマグスが面倒な案件を持ち込んできやがったよ」
「相変わらず口が悪いな、ルザワンズ。
それはともかく久しぶりだな、アッシュ。今回はオレの領地であるマグナスまで来てもらうぜ。
といってもマグナスで仕事をするわけじゃねえ。
お前さんには隣の隣の領地である、ワクストンまで行ってもらう」
「ワクストン?」
「そこを治めているデットリス伯爵こそが、裏でフォングル男爵を操ってたバカだ。
お前達が捕まえた騎士と兵士はフォングル男爵家の者だったってわけだな」
ああ、あの話か。
あの者達は男爵家というか下級貴族家だろうと言われていたが、その通りだったのだな。
しかし私達がその元凶というか黒幕の所に行くというのは、いったいどういう事なのだろうか?
「あの件の裏に居たデットリス伯爵は、オレんトコの隣の隣の領地であるデルナル地方の貴族だ。
そして隣の領地のポルドン子爵はデットリス伯爵家の領都ワクストンまで行ったんだが、屋敷に到着した時には毒のワインを飲んで死んでいたらしい。
そして家族は行方不明。どころか、屋敷には死んだムンタグル・デットリス伯爵しか居なかったそうだ」
「それは変ね?
………あんまり言いたくはないけど、隣の領地の子爵が行ったんでしょ? そいつが原因って事は無いの?」
「ポルドンにそれは無い。
あまりにも実直過ぎて貴族に向いてないとまで言われる男だし、あそこの家は代々そういうヤツしか輩出していない。
だから陛下も宰相も含め、多くの貴族家がある意味で信用してる家なんだよ。
1つぐらいあんな貴族家があってもいいだろう、ってな」
「そこまで実直だと貴族としては害があるでしょうけど……まあ、疑いが無い貴族というのも、一人ぐらい居ても良いのかしらね?
それじゃ言ってる事に間違いは無いでしょう。
となると………口封じ?」
「その可能性が一番高い。
ムンタグル・デットリスの屋敷内を引っ繰り返すぐらい調べたらしいが、<ソードモラ教>に繋がる物は何も無かったと聞いている。
だからこそ怪しいんだがな」
「という事は、私達のやるべき事は<ソードモラ教>との繋がりを探し出す事ですか?
それとも当地の貴族家の家族を探し出す事でしょうか?」
「どっちもだな。
ただし<ソードモラ教>との繋がりが優先だ。奴らと繋がっていた貴族家なんぞ残す訳にはいかん。
それに、それを分かっていたからこそ下働きの者まで含めて逃げたのかもしれん。
屋敷内に血痕などは無かったそうだからな」
「血が落ちてないっていう事は、屋敷内で殺された可能性は低いわね。
私達はあまり聞かないけど、<ソードモラ教>ってそんなに危険な教団なの?」
「そう………思ってたんだがなぁ。ちょっと微妙かもしれん。
<ソードモラ教>が主に殺してるのは神殿関係者だ。
それも邪神を悪と断じている者ばかりで、貴族の場合はそれに同調している奴らなんだよ」
「え? っていう事は、もしかしてその教団………」
「邪神を強く信仰している教団かもしれん。
もちろん殺しは犯罪だし、連中がやってきた罪が無くなる訳じゃねえ。
とはいえ被害者をまとめるとそうなっちまうんだよ、困った事に」
「邪神を悪とした連中に対する復讐と考えれば、微妙な話になってくるわねえ。
元は連中の所為だし」
「そうなんだよ。
だからこそアッシュを連れて行きてえって事もある。
連中は邪獄樹や邪気を使ってくる可能性もあるからな。
もしくはアジトにそういう物を溜め込んでるとか」
「そうなるとアッシュしか戦えないわね。私達は逃げ回るしかないわ」
「ですね。流石に邪気に対抗できる力なんて持ってませんよ。
浄化の女神の女官や青白い髪の方ぐらいでしょう、なんとか出来るのは」
「だろうさ。あたしも一目散に逃走するぐらいだね。
それしか出来ないとも言えるけど」
確かにそうだろうな。
仲間を危険に晒す訳にもいかないし、私としては知らない連中でしかない。
仮に邪神の信徒であっても許されない事は許されないのだ。
私が庇ったりしてやる義理も無い。
それこそ抗議するという緩やかな方法はあったはずだ。
それで弾圧された結果、おかしな教団になった可能性もあるのだが……
とりあえずは行ってみて話を聞くまで保留だな。
それに今回の事の裏に<ソードモラ教>とやらが居るのは間違いな………いのか?
そういえばだが、その事に関してオーガ族の伯爵様からしか聞いた事が無いぞ?
もしかしたら<ソードモラ教>は関係ない可能性もあるな。
そこも視野に入れて、出来るだけ公平に話を聞いてみるか。
変な誤解をしたままだと、揉める元かもしれないし。




